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40ー5歳

第二章が始ります。

5歳になったリリも宜しくお願いします。

 ここは、アーサヘイム帝国。

 帝国の北に聳えるケブンカイセ山脈から流れ出る3本の大河の内、2本に挟まれた東の大国。多種族多民族国家だ。

 西端はリーセ河、東端はノール河が流れどちらも南端のボスコニ湾に流れ込んでいる。

 そして大陸の北東側に、山の湧水が地下を流れ湧き出し形成しているミーミユ湖がある。高い樹木に囲まれた湖で、そう大した大きさではないが高い透明度と魔素濃度の高さが特徴で、湖の周りには希少な薬草が生息している。妖精や聖獣の水飲場として、聖なる湖と昔話に出てくる。

 そのミーミユ湖の近くに、『光の大樹』と呼ばれる大樹がある。帝国建国当時、初代皇帝が植樹した途端に芽吹き大樹となり花を咲かせたという伝説のある樹だ。どちらも現在は皇家が直接管理している地の1つだ。


 その大樹に3歳の頃、初代皇帝の様に花を咲かせたのが俺だ。

 前世日本人。外科医の妻と医大生の息子二人がいた現役小児科医、55歳。

 その俺がこの世界のアーサヘイム帝国第5皇子リリアス・ド・アーサヘイム3歳に転生した。


 最初はいくら身体は子供でも程があるだろう、と嘆いたね。オマケにグリーンブロンドのふんわり髪と翡翠色の瞳の可愛い幼児だ。55歳のオッサンに、こんな可愛い3歳児は無理があるだろう。


 そんな俺も5歳になった。例の『ら行』の呪いからも卒業した!

 あれは本当に苦労した。まず、慣れてない人には通じない。それに魔法が発動しない。そのお陰? か、俺はずっと無詠唱さ。

 その後分かった事だが、『ら行』が正確に発音できないから魔法が発動しないのではなかった。俺が、『ら行』を発音する事に意識し過ぎていて、全くイメージできていない事が原因だったらしい。今更だ。


「レピオス、おはよう!」


 ほら! ちゃんと『レ』と言えているだろ?


「殿下、おはようございます。今日は第2騎士団からの注文が入りましたよ」

「そう、どれくらいかな?」

「はい。なんでもサウエル辺境伯の領主隊と合同で、ノール河沿岸へ魔物討伐に出るそうです。12日後の納品で70本欲しいそうです」

「魔物討伐か。どのポーション? 色々いるのかな?」

「はい。内訳は…… 」


 俺は相変わらずレピオスに師事をしている。まだ5歳なのに、ポーション作成では効果の高さと精製の早さは俺が1番だぜ。この2年で沢山教わった。薬湯も作れるぜ。スゲー5歳児だろ?


 事故で死んだ筈の俺が、何故だか分からんがこの世界に転生して2年。俺はやはり医療に関わっていたい。

 そんな俺にとってレピオスは最高の師匠だ。と言う事で、毎日レピオスのいる医局に通っている。今日も元気にやって来た。


 ここでは、薬湯やポーションも一手に引き受けている。患者が運び込まれれば治療もする。この『医局』この世界の医術に関わる者の控え室的な物になっている。

 毎朝その日の予定を書き込むボードが備え付けてあって、今日は誰が休みだとか今日は誰がどこでどんな作業をしているかが一目で分かる様になっている。ホワイトボードではなくて、黒板だが。

 建国以来だそうで、提案者は初代皇帝だ。初代皇帝恐るべし! まるで、前世の日本の事務所だ。


 この中でのレピオスの立場だが、皇子担当医官だ。皇子担当は他に2名いる。

 皇帝にも別の医官が3名付いている。皇妃や側妃、皇女にはちゃんと女性医官が3名付いている。

 素晴らしい。男尊女卑があってもおかしくないのに、帝国ではかなり前世に近い。因みに、下町だと逆に女性の方が強いらしい。


 医官は其々3名で1チームの様な感じだ。そこに助手が数名。だからと言って、担当の皇族以外は治療をしない訳ではない。手が空いている時は、担当以外でもちゃんと治療に当たる。当然だ。

 また、前世の様に研究オンリーの医官もいる。そして、要請があれば討伐や教会、街に出張る医官達もいる。結構な大所帯だ。


 俺はレピオスと一緒に、早速ポーション作成の準備をしながら……


「レピオス、これから午前中はオクに剣術と体術を習うことになったんだ」

「剣術と体術ですか」

「そう。こんな小さい手で力もないのに剣なんてふれないよ」

「殿下はあまり乗り気ではないのですか?」

「うん。だってレピオスの話を聞いている方が楽しいもん」

「それは光栄です。殿下、その鍛練はいつからお始めに?」

「うん、今日から」

「……今日ですか?」

「そう、今日……」

「殿下、では此処にいてはいけないのでは?」

「…… 」

「殿下」

「…… 」

「さ、お行き下さい。終わったらまたお越し下さい」

「……いやだなぁ」

「……殿下」

「……はい。行ってきます」

「はい、頑張って下さい」


 そう言ってレピオスは柔らかに俺を送り出した。仕方なく俺は医局を出る……と、オクソールがいた。


「殿下、参りましょう」

「はぁい…… 」


 オクソールに連れられトボトボ歩く。連行だよ。強制連行だよ。本当に、気が乗らない。


 連れて来られました。騎士団の鍛練場。最初からガッツリ、オクソールにしごかれている。体力作りの為の基礎訓練だって。でももう膝ガックガクだ。膝が大爆笑してるよ。


「……ハァ……ハァ……ハァ」

「殿下、あと3セットです」

「……グッ……せーーのッ」

「はい、1、2、3、4、5……」


 参った……! てか、5歳にここまでさせるか? 遠巻きに騎士団の連中が取り囲んで見てる。そんな中でカッコ悪い事できないっしょ! 意地だよ!


「はい、殿下お疲れ様でした」

「……有難うございました……! ハァ、ハァ……」


 俺はハァハァと息を切らしながらオクソールに言った。やり切ってやったぜ!


 ――おおおーーー!!


 と、何故か見ていた騎士団から、歓声と拍手が起きた。


 ――殿下、お疲れ様ですー!

 ――殿下スゲー!

 ――良くやったー!

 ――おおーー!


 ん? ん? どう言う事だ?


「殿下、普通5歳の子供に今のは無理です。出来ません」

「……リュカ……ハァ、ハァ……」

「騎士団でも入りたての新人は途中で根を上げます。はい、お水に砂糖と塩を入れた物にリモネンの果汁を混ぜたものです。飲んで下さい」


 それって、まんまスポドリじゃねーか! リュカに貰い一気飲みする。


「リュカ、それ本当?」

「はい。ですので、騎士団のあの反応です」


 なんだって!? オクソール、お前5歳児に何やらせるんだ!

 しれっとしてんじゃないよ!


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