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3歳児の遊び(?)

遊びではないのです。

「リリ、何してんだ?」

「るー、しぃー。みちゅかりゅ」


 夜も遅い時間、城のある一室に小さなライトを魔法で出してガサゴソと書類を漁っているリリアス。

 いつもならとっくに夢の中だろう。


「こんな夜にかくれんぼか?」

「なんでよ。ちがうよ」

「じゃあ、何してんだ?」

「あのね、リュカの事件があったでしょ?」

「ああ、奴隷商か?」

「そう。違法だかりゃ儲けてんだりょうけど、そりぇにしては儲かりぃすぎてりゅと思って」

「ん? で?」

「あんなに派手にやっててなんで今まで見つかりゃなかったんだ? て話だよ」

「んで?」

「だかりゃさぁ、だりぇかが手を貸してたのかもと思ってさ。調書を見たいの」

「で、こんな時間に忍び込んでんのか?」

「そう。ここりゃへんにありゅはず……」

 

 普段は自分の部屋から食堂に行くのもニルに抱っこしてもらうのに、こんな時は一人でパキパキと動いている。

 机の上が見にくいから、椅子の上に乗っている。それだけ動けるのなら、食堂まで歩くのも楽勝だろう? と、言いたい。


「もう調べは終わったみたいだかりゃ、こっちにありゅと思ったんらけど……」


 ガサガサと書類をひっくり返している。


「リリ、オクソールに相談してみたらどうだ?」

「るー、何いってんの? なんていうのさ」

「まあ、そうだな」


 だが、何か証拠を見つけても何て言うつもりなのか?


「あ! あった! こりぇだ!」


 リリが見つけたのは、奴隷商に関わった者達の調書だ。


「えっとぉ……ふむふむ。この男爵が1番のお得意さんなんだ。でも、どりぇいを買っただけだかりゃ罰金と短期の勾留ですんでりゅ。爵位は取り上げなかったんら。

 こっちの商人は……え、こいちゅ他国にどりぇいを売ってりゅんじゃない?

 でも……あー、証拠がなかったんだ。そりぇにしては多額の罰金を一度でしはりゃってりゅ。んー、におうよねー。

 ん? この子爵は1番刑がかりゅい。なんれ? なりゃずものを紹介しただけ……て、絶対そんなわけないよねー。この子爵……えっと……」

「リリ。お前さぁ、3歳児だって忘れてないか?」

「ん? 覚えてりゅよ。忘りぇりゅわけないじゃん。動きにくいししゃべりにくいし」

「じゃあさ、今やってることは3歳児がする事か?」

「分かってりゅ。でも、ゆりゅせないの。

 あ! こいつだ。こいつが獣人や子供達をさりゃう手配をしていたんだ! そりぇにきっと街の衛兵も抱き込んでりゅな」

「え! リリ、どいつだ?」

「こいつ。あのね……」


 と、新しい証拠に気づいたリリアス。さて、それをどうするんだ?


「リリ、でまた何してるんだ?」

「だって言えないかりゃね、かいとくの」

「書く?」

「そう。ここをひりょげておいて、そこにメモを残しておくの。ダイリェクトには書けないかりゃね、ありぇ〜? おかしいぞ〜て、思ってもりゃう程度にね」


 カキカキと小さな手で一生懸命一文字ずつ書いていく。書きながら、お口がタコさんになっている。なんでだ?


「よしっ! こりぇでいいや。ふわぁ〜、ねむい」

「ほら、早く部屋に戻りな」

「うん。そうすりゅ」


 眠さが勝っているのか、周りを気にする事もなく堂々とポテポテと歩いて部屋に戻るリリアス。

 警備に立っている兵達の方が気を遣って柱の陰に隠れている。



「早く寝な」

「うん。るーおやすみ」


 直ぐにスヤスヤと寝息をたて出すリリアス。

 ルーが部屋の外に消える。


「ルー様。ありがとうございます」

「いいよ、これくらい。セティ」


 リリアスの部屋の外には、皇帝の側近セティが待っていた。


「今度は何でしたか?」

「ああ、捕まった奴隷商の件だ」

「やはり、そうですか」

「なんだ、セティも分かっていたのか?」

「まあ、不自然なところがありましたから。しかし、リリアス殿下が」

「目星をつけていたよ。メモを残してある」

「分かりました。では」

「ああ」


 セティが去っていく。リリアスの残したメモを確認しに行くのだろう。



 また別の日の夜。


「リリ、またかよ」

「ん? るー、何?」


 ガサゴソガサゴソ。またリリアスが城の一室に忍び込んでいる。


「今度はなんだ?」

「んー? 女官長」

「はあ? 城の者かよ」

「うん。最近つけてたアクセサリーがね、気になって……」

「はぁ? なんだ?」

「ブリョーチと髪かじゃりなんだけどね。ボキュが褒めたりゃ、母親から受け継いだものだって言うんだ。でもね、どう見てもピカピカであたりゃしいし高価な物だと思うんだ」

「それだけでか?」

「るー、何言ってんの? 大金だよ?」

「だからって」

「るー、降って湧いたお金じゃないんだよ。民から徴収した税金なんだよ。少しも無駄にしたりゃだめだ」

「お、おう」

「多分、ここりゃへんに……」


 ガサゴソガサゴソ。また椅子に乗って机の上にある帳簿や書類を漁るリリアス。


「あ、この請求書と帳簿をみくりゃべたりゃわかりゅかな。えっと……」


 真剣に2種類の書類を見比べるリリアス。もう既に床に座り込んで書類や帳簿を広げている。


「リリ、クッキー食べるか?」

「え? るー、何でクッキーなんか持ってんの?」

「いや、小腹が空いた時にな」

「なんだよそりぇ、るーは食べないじゃん。もりゃうけろ……」

「ああ、食べな」


 ルーが何処からか綺麗な布で包んだクッキーを出す。


「モグモグ……あれだね、るー」

「なんだ?」

「クッキー食べりゅと、りんごジュースがほしくなりゅよね」

「ああ、飲むか?」

「え、また何で持ってんの? もりゃうけろ…… 」


 また、ルーが何処からかりんごジュースが入っているだろう容器をだす。


「コクコクコク……ああ、やっぱりんごジュースはおいしい。どんな時でもおいしいねー」

「そうか。良かった」

「……あ、あった。るー、ほりゃここだ。女官長が水増ししてんりゃね」

「水増し?」

「そう。パッと見て分かりゃないように細かいことやってりゅよ。この差額をね、横領してんりゃ。よし」

「また、書いておくのか?」

「うん。請求書と、納品書と帳簿となりゃべてぇ……」

「リリ、よく気が付いたな」

「ん? ボキュじゃないよ。メイドさん達が噂してたんりゃ」

「そうなのか」


 また、タコさんのお口になりながら、小さな手で一文字ずつ丁寧に書いている。

 時々、ヨダレを垂らしそうになりながら。


「うん。よし、こりぇでいい。ふぁ〜、ねみゅい……」

「早く戻りな」

「うん。るー、クッキーとりんごジュースありがとね」

「いいさ」


 ルーと話しながらポテポテと部屋に戻って行く。こっそり部屋を抜け出していると言う緊張感がまるでない。

 リリアスがベッドに入ってスヤスヤと寝息をたて出す頃に、ルーが部屋の外に消える。そしてまた、部屋の外にはセティが待っていた。


「ルー様、度々申し訳ありません」

「構わないよ。セティ」

「今度は何でしたか?」

「女官長だ」

「女官長ですか!?」

「ああ。メイド達が噂をしていたらしい。それで、リリが気付いたんだって。いつもみたいにメモを残してある」

「分かりました。ありがとうございます」

「セティも大変だな」

「いえ、とんでもございません。私達大人が不甲斐ないせいで」

「あんまり気にするな。リリは特別だから」

「ありがとうございます。では、私は」

「ああ」


 セティが去って行った。


 リリアスは誰にも知られていないと思っているが、皇帝とその側近であるセティ、そしてリリアス付きの侍女ニルと専属護衛のオクソールは知っていた。

 いくらなんでも、たった3歳の皇子が夜中に部屋を抜け出して騒ぎにならないはずがない。

 皇帝の考えにより、3人はそれを見守っていた。


「まだ3歳なのに、うちの子はもう夜遊びを覚えてしまったよ」


 本気なのか冗談なのか、こんな事を言う皇帝は呑気なのか? 腹が座っているのか?

 人知れず捕らえられた貴族や兵士、女官長達の罪を明らかにしたのは第5皇子のリリアスだった。

 本人はまったく気がついていない。可愛い無邪気なだけではない3歳児のリリのお遊び(?)でした。


読んで頂きありがとうございます!

まだまだ番外編を読みたいなぁ〜と、思って下さる方、もちろんそうでない方も宜しければブクマと評価を宜しくお願いします!

皆様の声が大変励みになるのです!

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― 新着の感想 ―
[一言] リリ君て3歳ですよね!? いやぁ、名探偵ですわぁ(笑) 言ってる時は、55歳に戻ってません? 喋り方は可愛いんてすけどねぇ(笑) まだまだ、知らないエピソードがあるみたいで、これからも、とて…
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