3歳児の日常
3歳のリリはやっぱり可愛い。
「ふわぁ〜……」
「殿下、お目覚めですか? おはようございます」
侍女のニルが部屋のカーテンを開けていく。
「ニリュ、おはよう。ん〜……」
ポテン……と、俺はまたベッドに横になる。まだ眠い。身体を丸く小さくして二度寝の体勢に入る。
「殿下、起きてください。エイル様と朝食をご一緒なさるのでしょう?」
う……そうだった。朝くらいは一緒に食べたいと俺から母に言ったんだった。
「ニリュ、起きりゅよ」
俺はノソノソとベッドから出て、顔を洗って着替えをする。
まあ、ほとんどニルがやってくれるんだが。
「ふぅ……ニリュ、りんごジュースちょうだい」
「はい。お待ち下さい」
ソファーに座り足をプラプラさせながらりんごジュースが出てくるのを待つ。
「殿下、どうぞ」
「ありがとう」
りんごジュースの入った俺専用のコップを、両手で持って飲む。
「んぐ……コクコク……」
「殿下、一気飲みはいけません」
「んぐ……だってニリュ。お喉が乾いたの。おいしいの。とっても……」
りんごジュースでベタつく唇を、タコさんのお口にして言い訳をする。
毎朝同じお小言をニルに言われ、俺のルーティンが終わる。どんなルーティンだよ。
ニルに手を引かれながら、ポテポテと歩く。食堂までポテポテと。母の待つ食堂へ……ポテポテと……ポテポテ。
「ニリュ、遠い」
「はい。抱っこしますか?」
「うん、おねがい」
そう言って両手を出すと、ニルがヒョイと抱き上げてくれる。
これも、毎朝だ。なら、最初から抱っこしてもらえよ。なんて思ったら駄目なんだぜ。歩かないとな。練習だ練習。
ま、半分も歩けてないんだが。
「かーさま! おはようございます!」
「リリ、おはよう。今朝も起きれたのね。えらいわ」
母に抱きつきながら思わずスリスリしてしまう俺。いやいや、中身55歳のおっさんがなにやってんだ。て、話だよ。
それがな、自然にできるんだな。普通に母が恋しいんだよ。不思議とさ。
でも、まだ3歳児なのにしっかりしている方だと思うぜ。
「ほら、リリ。食べましょう」
「はい。かーさま」
「おはようございます! 殿下、今朝も早起きですね!」
朝からテンションの高いシェフだ。
「シェフ、おはよう」
「今朝はパンケーキです。ベーコンエッグも一緒にどうぞ」
「とても美味しそうだわ」
「エイル様、ありがとうございます!」
「かーさま、シェフのパンケーキはフワフワです。トロトロ卵もおいしいです!」
「フフフ。そうね、リリ」
俺は小さな子供用の椅子に座らせてもらって、自分の小さな手で大人と同じナイフとフォークを使ってベーコンを切り分け、トロトロ卵とベーコンをフワフワパンケーキにのせて口に運ぶ。
「ハムッ……おいしー! シェフ、じぇっぴん!」
「ありがとうございます!」
「あらあら、リリ。トロトロ卵が沢山お口の周りについているわ」
「かーさま、後でふきましゅ」
「駄目よ。痒くなるわよ?」
「だいじょぶれしゅ。どうせまたよごりぇりゅからいいです」
「まあ、リリったら」
「おはようございます。おや、リリ早いね」
「クーにーさま! モグモグ」
「クッ……」
あ、クーファルが俺を見て笑いを堪えたぞ。
「クーにーさま、おはようごじゃいます! ハムッ……モグモグ」
「リリ、その……お口の周りが凄い事になっているよ?」
「でしょう? クーファル殿下、言ってやって下さい。拭こうと言っても後でと言うんですよ」
「モギュモギュ。だって、また汚れましゅ」
「ククククッ……リリ、それでも一度拭きなさい。ククッ」
「あい。にーさま、わりゃってますね?」
「いや、リリが可愛くてね」
「えー、ちがいましゅ……ボキュを見てわりゃってましゅ……モグモグ」
「リリ、食べてから喋りなさい」
「あい、かーしゃま。ゴクン」
毎朝、兄の誰かに笑われながら朝食を終えて俺は部屋に戻る。
「おなかいっぱいら」
そうなると眠気が……
「殿下、お散歩に行きませんか?」
「ニリュ……いきゅ……」
ポテンとソファーで眠ってしまう。
「殿下、お昼ですよ」
「ん……ニリュ、もう? ん〜」
ソファーで寝てしまった筈なのにベッドにいる俺。んんん〜と思い切り伸びをする。
「よく寝ておられました」
「うん。よく寝た。げんき」
「それは良かったです。昼食は如何なさいますか?」
「もちりょん食べりゅよ」
「では、参りましょう。今ならどなたかご兄弟がおられると思いますよ」
「そう! じゃあいく」
そして俺はまたニルに手を引かれて食堂へ向かう。ポテポテと……ポテポテ。
「ニリュ、遠い」
「はい。抱っこしますか?」
「うん、おねがい」
そう言って両手を出すと、ニルがヒョイと抱き上げてくれる。
これは毎回だ。どこに行くにも途中でニルに抱っこしてもらう。だって城は広いんだぜ。マジで。
3歳児にとっては広すぎる。
食堂に入ったら、フレイとフィオンがいた。
「リリ、今からか?」
「はい、にーさま」
「リリ、いらっしゃい。姉様が食べさせてあげるわ」
「ねーさま、ボクは自分で食べます」
「リリ、兄様が食べさせてあげよう」
「にーさま、自分で食べます」
「でも、リリ。今日のお昼はパスタよ」
「ありゃりゃ」
ニルに、俺用の子供の椅子に座らせてもらう。
「殿下、クリームパスタです」
「シェフ! ボクすき!」
「はい! たくさん食べてください!」
「うん! いたらきます!……おいしー! シェフ、てんしゃい!」
「ありがとうございます!」
「リリ、ほとんど溢れているわよ」
「ねーさま、む、む、むじゅかしいのでしゅ……クルクル……」
フォークに巻き付けようとしているんだが、なんせ3歳の俺の手は小さい。
大人が使うフォークは大きくて重いんだ。
「ほら、姉様が食べさせてあげるわ」
フィオンにフォークを奪われた。
「あ、ねーさま」
「はい、あ〜ん」
「あ、あぁ〜……ハムッ。おいしーれしゅ!」
「フィオン、ズリーぞ。俺だってリリに食べさせてやりたいんだ!」
「モグモグモグ……」
ま、こんなことも日常だ。
で、昼食の後は昼寝だ。グッスリだ。
「殿下、お目覚めですか?」
「ん〜、うん。ニリュ、りんごジュースちょうだい」
「はい、殿下」
それから俺は、城の中庭をお散歩だ。
「ねえ、ニリュ」
「はい、殿下」
「おりょして」
「殿下、でも危ないです」
「ニリュ、だいじょぶ。ボク、ありゅく」
「気をつけて下さい」
「うん」
やっと下ろしてもらったぜ。
俺は、ポテポテ歩く。ポテポテと……ポテポテ。
「ニリュ、広いね」
「はい。殿下」
「あ〜、お花がいっぱい!」
中庭にある花壇に走っていく。幼児はやっぱポカポカおひさまが好き。いや、俺が好き。
「殿下! 走ったら危ないです!」
「ニリュ、だいじょーぶ! ニリュ、リェピオスのとこりょにいく」
「レピオス様ですか? では、医局に」
「ううん。薬草園にいく」
「あら、今日は薬草園におられるのですか?」
「うん、多分。昨日もう薬草がない、ていってたかりゃ」
「そうですか。では、裏ですね」
「うん」
ニルに手を引かれてポテポテと歩く。ポテポテと……ポテポテと……
「ニリュ、遠い」
「抱っこしますか?」
「うん」
「殿下、距離がありますから私が抱っこしましょう」
「オキュ、うん」
俺は両手を出す。抱っこ待ちの体勢だ。
「いえ。オクソール様、大丈夫です。私が殿下を抱っこします」
「ニル殿、いえ私が」
「オクソール様、抱っこしていては護衛できませんよ」
「何を仰る。抱っこくらい楽勝です」
ま、こんなことも日常だ。
どっちでもいいから、早く連れて行ってほしいんだが。
仕方なくポテポテと歩く……ポテポテと。
「さ、リリアス殿下。行きましょう」
「うん、リュカ」
ヒョイとリュカが抱き上げて連れて行ってくれる。
最近入ったリュカ。俺のヒマ友だ。
「「リュカー!」」
「ほら、オクソール様ニル様、さっさと行きますよ」
はい。これも最近ではよくある日常だ。
誤字報告ありがとうございます。助かってます。
完結しましたが、まだまだリリは元気です。
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