初代皇帝 3
初代皇帝のお話はこれで最後です。
次は出来ればリリのお話にしたいなと、考え中です。
4/20 ファンタジー、異世界、日間ランク 12位ありがとうございます!
最高ランク13位だったのが12位に更新しました!
感謝感謝です!ありがとうございます!
「俺はお前を応援する。お前は国全体を見ろ。俺は、此処で国を守る。それが俺の覚悟だ」
「アーサー……本気かよ?」
「ああ。お前以外にはいないと思っている」
「いやいや、待てよ。マジかよ。俺はそんな器じゃねーし」
「直ぐにとは言わない。考えてくれ」
そんな話をしてから何年たっただろう。
北の山脈沿いから南端の小島まで、隅々まで澱みを消してまわった。
全ての澱みを消して、2人で記念の木を移植した。
俺達の絆は変わらないと誓った。
俺には4人の子供ができた。
アキラにも、3人の子供ができた。
帝国として統一すると言っても、最初は大変だった。
澱みを消し魔物の脅威を取り除いた功績と、強大な光属性を持つ事、そしてアキラが元々もっている資質で貴族達の反発は思った程ではなかった。
それよりも、深く根付いている種族差別、人種差別、身分差別の方が深刻だった。
それを、アキラは根気よく諭してまわった。皆、同じ命なんだと。
最終的に、貴族制度は無くせなかったが、貴族としての在り方や務めに対する意識を変えていった。
そして、お互いのやるべき事をしようと、アキラは皇帝になり俺は辺境の地を守っている。
「よう! 久しぶりだな!」
「アキラ! お前何してんだ!?」
ある日突然アキラが邸に現れた。
「城からここまで遠いからさぁ、なんとかならないかと思ってさ。あ、紹介するわ。光の精霊だと」
なんだと!? 光の精霊だと!? こいつ何をサラッと言っているんだ!
アキラが、いや皇帝が軽く紹介した男性。見るからにオーラが違う。
真っ白な衣装に、真っ白なヴェール。
髪は金糸の様に煌めき、瞳も金なのに透ける様だ。
一眼で人ではないと判る美しさと風格。
そして僅かに身体が光っている様にも見える。
「其方がこの地を治めているのか?」
話し出すと、心に響く様で威厳が感じられた。
「本当に光の精霊様……!?」
俺は思わず跪き頭を下げた。
「ああ、楽にしてくれ。堅苦しいのは好きではない」
「はっ。しかし、精霊様」
「皇帝の我儘に付き合っているだけだ。気にするな」
「アキラ、お前……」
「いや、だからさぁ! ここまで遠いだろ? 何とかできないかと思ってたら手伝ってくれるっつうからさぁ」
「お前、精霊様を何だと思ってるんだ」
「気にするでない。我も色々と楽しんでおる。して、この邸の地下を借りるか」
「ああ。城と繋げたいんだ」
「まあ、お主ならできるであろうな」
いや、待て待て。2人で何を言ってるんだ? いや、それ以前にここまでどうやって来たんだ?
「精霊様、あの話が分かりませんが?」
「お主、説明しておらんのか?」
「まあ、とにかくやってみれば良いかと思ってさ」
いやいやいや、説明しろよ。
「アキラ、先に説明してくれ。それに、お前どうやって来たんだ?」
「あぁ? 転移してきたんだ。スゲーだろ? 一瞬だぜ。だからな、ザックリ言うとだな。この邸の地下と城の地下に転移できる装置を作るんだ。
そしたら、いつでも行き来できるだろう? それにな、もしもの時に助けが間に合わないなんて事を避けたいんだよ。
この辺境の地はまだまだ魔物が出るからな」
お前は……ザックリすぎるだろ。
アキラはいつもそうだ。思いついたら、周りに相談するより先に行動してしまう。婚姻して子供もできて、落ち着いたかと思っていたのに。
そうだ。婚姻する時も突然だった。
ずっと、この世界では婚姻しないと言っていたクセに。ある日突然……
「俺、結婚するわ」
などと言い出した。相手の令嬢に押し切られた感はあったが。
それでも、身を固める事には賛成だった。
「おい、アーサー。聞いてんのかよ」
「聞いている。変わってないな、お前は」
「は? 何言ってんだよ」
「いや、少しでも落ち着いたと思っていた俺が間違いだった」
「うわ、何だよその言い方。ヒデーな! アハハハ!」
アキラ、いや皇帝と二人三脚で駆け抜けた33年間だった。
皇帝は、55歳になって急に寝込むようになり、あいつはこの世界に来た時と同じようにアッと言う間に逝ってしまった。
幸せだっただろうか。
心残りはないだろうか。
この世界を恨んでないだろうか。
重荷を背負わせたのではないだろうか。
50歳を過ぎてから光の精霊様と何やらやっていた様だが。思い立ったら急にいなくなるから、いつも心配すると皇后が愚痴を溢していた。
俺は、皇帝との思い出を日記に残そう。
アキラがこの世界で生きていた足跡を残そう。
ある日突然、大きな光と共に現れた転移者。日生 輝。
ありがとう。お前に対する思いが大き過ぎて言葉が見つからない。
ありがとう。ただ、その一言をお前に贈ろう。
ありがとう。楽しかったぜ。俺の生涯でただ1人の盟友よ。またいつか一緒に冒険しような!
◁◀︎△▲▽▼▷▶︎
「おい、おい! 君、大丈夫か? どうした?」
「え? え……えぇ? グハッ!」
急に肺に空気が入ってきたような苦しさを感じて、俺は驚いて目を開けた。
犬を連れた見知らぬおじさんが、心配そうに見ている。声を掛けてくれていたのはこの人か?
「大丈夫か? 体調悪いのか? 起きれるか?」
「あ? あぁ……え? 何? ここどこ? 日本?」
重い身体をゆっくりと起こした。
「君、何言ってんだ? 大丈夫か? 日本だよ。湖に落ちたのか? 頭打ったか? とにかく救急車呼ぼうな」
親切なおじさんが、携帯で電話をしている。
あ? 何だ? 俺、だって55歳で死んだよな? 日本? 日本に帰って来たのか?
自分の身体を見てみる。いや、夢じゃない。今俺が着ている服は、あっちで死ぬ時に着ていた寝衣だ。
え? どうなってんだ? 手が……身体が、若くないか?
「君、救急車直ぐに来るからな。大丈夫か?」
「あー、はい。すんません。あの……今って、何年ですか?」
「え? 20XXだよ。君、本当に大丈夫か? 顔色が悪い」
マジかよ……!? 無理だ。意味が分からん。頭が重い……俺はまた目蓋が重くなった。
「君! 君……」
「……ん、あ……あれ……?」
「輝! 輝!」
「あれ? 母さん?」
次に俺が眼を覚ますと、もう二度と会えないと思っていた母の顔があった。
「馬鹿! あんた何してんのよ! 1年も!」
「え……1年?」
いや、俺55歳で死んだよ? え? 何がどうなってんだ?
「お父さんも診察が終わったら直ぐにこっちに来るから」
「母さん……本当に母さんか?」
「馬鹿! 1年で親の顔忘れたの? 親不孝もん!!」
――バシッ!
「イッテー!」
ああ、この感じ。懐かしい。
「母さん、ごめん。心配かけたんだな」
「ばか輝! もう! あんたの心配なんかしてないわよ!」
確かに母だ。ツンデレさんだ。ああ、泣かせてしまった。本当に心配をかけたんだな。
俺は日生 輝。22歳いや、もう23歳の多分まだ医大生だ。
そして1年前に転移した。アーサヘイム帝国の初代皇帝だった。
向こうで55歳で死んだ筈が、どうやら転移した1年後に戻ってきたらしい。
病室から窓の外を見ると、豊かな尾羽が扇状に広がっている全身雪の様に真っ白な小さな鳥が、大きく円を描きながら雲間から降り注いでいる光の中に溶け込む様に飛び去っていった。
本編が完結したのに、沢山の方に読んで頂けて本当に嬉しいです!感謝しております!
完結しましたが、変わらずブクマと評価を宜しくお願いします〜!!