初代皇帝 2
俺は、ネヴィーアから鑑定結果を聞いて自分の耳が信じられなかった。
だが、ネヴィーアは真剣だ。それに、ネヴィーアがそんな馬鹿げた嘘をつく訳がない。
「お前、転移者……!?」
「はあ!? 転移!?」
「アーサー様、間違いありません。転移者と出ております。それに、光の精霊様の加護も持っています。魔力も膨大です。私の鑑定では最大値を見る事ができませんでした」
「転移とか、精霊とか、魔力とかさぁ。ふざけんなってんだよ。意味わかんねーよ。俺、どこに来たんだよ。帰してくれよ!」
帰してやりたいのは山々だが、俺達だって転移者など信じられない。
バタバタと、アキラがいた付近を捜索していた兵達が戻ってきた。
「アーサー様! 失礼します!」
「どうした?」
「はい、この者がいた付近を捜索したのですが」
「どうした?」
何だ? 何かあったのか? 俺は一気に不安になる。
「それが、魔物がいなくなっています! この者がいた付近を中心に四方に馬で四半刻駆けましたが一度も魔物にあいませんでした!
しかも、魔物に荒らされて地面に亀裂が入る程だったのですが、なくなっています! 地面が復活しているのです! 今すぐにでも、作物を作れそうな程です!」
なんだと!? そんな馬鹿な! 四半刻馬で移動して魔物に出くわさないなど有り得ない。
しかも、地面が復活していただと!?
「アーサー様、光の精霊様のご加護ではありませんか? この者が現れた時に大きな光が発生しておりました。それが原因で魔物が消滅したのではありませんか?」
「ネヴィー……」
「私、古い書物で読んだ事があります。
光の神が遣わす事があると。その者は光の精霊の加護を受けていると。この、大陸に必要な者なのではありませんか?」
ネヴィーアが言う。しかし……いや。だが、光の精霊の加護を受けているのは確かだ。
ならば、俺は……
「アキラ、どうだろう。アキラが何故ここに来たのか分からない。だが、何か分かるまで俺の元にいないか?」
光の精霊様の加護を持つ者を野に放つ訳にはいかない。まして、魔物が我が物顔で闊歩しているのだ。直ぐに命に危険が及ぶだろう。
「それは、あれか。今その人が言ったこの大陸に必要かも知れないからか?」
やはりこの男は聡い。思った通りだ。
「それもあるが。それよりも、アキラは今この大陸がどの様な状況か知らないだろう? アキラがどの様な世界で生きていたかは知らないが、この大陸は今魔物が出る」
「ま、魔物!? 魔物ってなんだよ!?」
「獣よりももっと凶悪だ。剣や魔法の心得がないと命が危ない」
「はぁ? 剣? 魔法?」
「ああ、そうだ。アキラの命を守る意味もある。ここにいて、帰る方法を探すのも良い。魔物に対抗する力をつけるのも良い。それまで、ここにいる方が良いと俺は思う」
今、放り出す訳にはいかない。俺はそう思った。
あれから、何年たっただろう。
アキラはあれからずっと俺と共に戦ってくれている。アキラは、ネヴィーアの指導で、あっと言う間に魔法を覚えた。
エレックの指導で、剣も覚えた。
アキラと一緒に戦って分かった事がある。アキラの光属性魔法は強力だった。効果も今まで見た事もない程だ。
アキラの、光属性魔法で魔物が消滅する。
領地内をまわるうちに、澱みが魔物の発生源だと分かった。
それからは、アキラと一緒に大陸中の澱みを消してまわった。
あと一息で、大陸の全ての澱みを消す事が出来るとまでになった。そんな時だ。
「アーサー。少し良いか?」
「ああ、アキラ。どうした?」
アキラが手に酒を持ってきた。
「俺さぁ、覚悟を決めないといけないと思うんだ」
覚悟か……?
「ネヴィーも調べてくれてるけどな。俺、どうやら元の世界には帰れないみたいだわ」
それは、俺も薄々気付いていた。
「俺な、元の世界では医師になる為の勉強をしていたんだ。あっちの世界もこっちの世界も同じ命なんだよ。俺の手が届く範囲の命は守りたいんだ。全部とは言わない。無理だしな。でも、人間だけでなく獣人や獣の命も守りたいんだ」
「ハハ……欲張りだな」
「そうだな。でも、俺のいた国ではこの世界程の差別はなかった。まあ、獣人自体がいないけどな。それに、この世界ほど理不尽に命を奪われる事もない。全くない訳じゃないが、この世界よりずっと平和なんだ。
俺はそんな命を救いたい。だからな、覚悟を決めないと」
そうか。平和な国から突然この国に来たのだから、戸惑うだろうに。
アキラは不自然な程、すぐに馴染んだ。それはやはり光の神が使わした者だからなのか?
「俺、日生輝の名前は封印するわ。お前がアーサーなら、俺はマーリンだ」
「アキラ、意味が分からん」
「アハハハ。あっちの世界の物語でな、あるんだ。アーサーて王の元にいる魔術師がマーリンて言うんだ。ほら、俺魔法が得意だろ? 丁度いいじゃん、て思ってさ」
「アーサーが王なのか?」
「ああ。アーサー王物語。有名な物語だ。魔術師のマーリンも超有名だ」
そう言ってニカッと笑うアキラ。辛い決断だろうに。
「この大陸にとってお前の選択は願ってもないものだ。だからと言う訳でもないが、俺は……お前の決断を応援するよ。もしそれが、ここを去ると言う選択だったとしてもだ」
「そうか。ありがとう」
「アキラ、俺はお前を盟友だと思っている」
「ブハハッ! 盟友てか! 照れ臭いな! 戦友の間違いじゃねーのか! アハハハ!」
笑い事じゃないんだが。こいつは直ぐに茶化す。照れ臭いのを誤魔化しているのだと丸分かりだ。
「俺も真剣な話をする」
「あ? ああ」
お互い、何杯目かの酒をコップに入れる。俺の覚悟を話す番だ。
「アキラ、お前アーサヘイムを名乗れ」
「ああ!? 何だ? もう酔っ払ったか?」
「真剣な話だと言っただろう」
「アーサー。お前、馬鹿かよ。何で余所者の俺が」
そうか。余所者か。そう思っているか。そうだよな、だがな。
「俺は、お前にこの大陸を統べる者になって欲しい。お前しかいないと思っている」
「いやいや、ちげーだろ。それは、アーサーだろ? さっき言ったじゃねーか、アーサー王て有名な王の物語があると」
「いや。俺では駄目だ。俺は、お前の言う差別や理不尽が当たり前になっている。
その違いを分かるお前じゃないと駄目だ。人間も獣人もどんな種族も平和に安心して住める国を作るんだ。王国じゃなくて帝国だ。王ではなく、皇帝だよ。多種族多民族の国家だ。アーサヘイム帝国の初代皇帝だ」
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