はじめてのおつかい 2
「おや、殿下どちらに?」
白いエプロンをした男性が声を掛けた。
「あのね、おちゅかいなの!」
「それはそれは! お利口ですね!」
「エヘヘへ!」
「そうだ、殿下。クッキーを持ってます。食べてみられますか?」
「クッキー! うん! 食べたい!」
白いエプロンの男性と2人で、廊下の隅で座り込んでしまった。
「おいしぃー! しゅっごくおいしぃー! 天才!」
「アハハハ、有難う御座います」
「こりぇ、皇后しゃまおすしゅきかなぁ?」
「皇后様ですか? 甘いものがお好きですから、きっとクッキーもお好きでしょう」
「そう!?」
「はい。お持ちになりますか?」
「うん!」
白いエプロンの男性が、紙ナプキンにクッキーを丁寧に包んでいる。
「これで如何でしょう」
「ありあとー!」
「殿下、お待ち下さい。お口の周りにクッキーのクズが」
「ん……」
大人しく口の周りを拭いてもらっている。微笑ましい光景だが、後を付けているオクソールとニルは気が気ではない。
早く行ってくれ。と、早く皇后の元にたどり着いてほしいのだろう。
「ありあとー! おいしかった!」
「宜しゅうございました。お気をつけて」
「うん!」
今貰ったクッキーと、さっき貰ったお花と、皇帝に持たされたお手紙と両手に大事に抱えてまた走り出す。
「らめ、走りぇない。見えない」
おやおや、手に沢山持っているので足元が見えないらしい。走る事を諦めて歩き出した。
「らんらら〜ん。らんらん。らんらんら〜ん♪」
ご機嫌だ。歌まで歌い出した。
「グフフッ」
「オクソール様、笑ってはいけません。気付かれます」
「ニル殿、すまない」
と、注意している侍女のニルも、必死で笑いを堪えているのか口元がプルプルしている。
「らんらんら〜ん! お土産が〜いっぱい〜!」
おや、スキップまでしだした。
「ブフフッ!」
「ククク……」
駄目だ。もう2人は我慢できないらしい。
「らんら〜ん! ららら〜ん。らんらんら〜ん♪」
スキップスキップスキップ。もう止まらない。
「……ん? 皇后しゃまのお部屋はどっちらっけ???」
分からなくなってしまったのか、立ち止まってしまった。
「ああ、リリアス殿下。そこを右ですよ、右」
「ニル殿、声が大きいです」
「あら、すみません」
2人が葛藤していると、小さな皇子の前方からまたメイドが歩いてきた。
メイドは、後ろの2人も見つけて変な顔をしている。どうしたら良いのか、戸惑っているのだろう。
オクソールがしぃ〜ッと人差し指を口の前に立てる。
「リリアス殿下、どうされましたか?」
メイドが皇子に話しかける。
「あのね、皇后しゃまにおちゅかいなの!」
「まあ! 皇后様ですか? では、一緒に参りましょう」
「らめ! ボキュ1人でいくの」
「え? 1人?」
メイドの目が泳いでいる。後ろに2人いるのだが。1人で行くとは。
「えっと……殿下、皇后様のお部屋はお分かりですか?」
「あのね、分かんなくなっちゃった」
「あらあら、大変です。そこを右ですよ」
「み、みぎ?」
「はい。あっちです」
メイドが手で方向を示す。
「ありあとー!」
「いいえ。お気をつけ下さい」
「うん!」
また、小さな皇子はトテトテと歩く。皇后の部屋はすぐそこだ。
「んと、んと……ここら」
ドンドン。ノックのつもりだろう。ドアを叩いている。無事に到着したのだろう。
「はい。まあ、リリアス殿下!」
「こんにちは! 皇后しゃまにおちゅかいりぇす!」
「まあ! リリアス!? お入りなさい!」
「あい! 皇后しゃま!」
「リリアス、1人なの? どうしたの?」
「皇后しゃま! おちゅかいれす! どーじょ! お返事くらさい!」
「まあ、有難う! 綺麗なお花だわ!」
「あい! 途中でもりゃいました!」
「まあ、クッキーもあるわ」
「あい! 美味しいれす!」
「フフフフ、そうなのね。リリアス有難う」
「あい! 皇后しゃま!」
「待ってね。お返事書くわね」
「あい!」
「リリアス殿下、りんごジュース飲まれますか?」
「うん!」
両手を出して侍女に座らせてもらう。
「リリアス殿下、どうぞ。お一人で飲めますか?」
「うん! らいじょぶ! コクン……美味しいー! やっぱりんごジュースは美味しいねー!」
「リリアス、お返事書けたわ」
「あい!……コクコクコク」
「慌てて飲んでは駄目よ。ゆっくり飲みなさい?」
「あい。コクン……ごちしょうしゃまれした!」
「あら、もう飲んでしまったの? リリアス、一緒にクッキー食べない?」
「皇后しゃま、ボキュもうさっき食べました!」
「もういらないかしら?」
「えっと、えっと。しゅこしらけ食べましゅ」
「そう? 沢山食べてもいいのよ?」
「皇后しゅまに食べてもりゃおうと思って持ってきたかりゃ。食べてくりゃしゃい!」
「まあ! 有難う。リリアスは可愛いわね」
「エヘヘへ」
皇后に頭をナデナデされてご満悦だ。
やっと、皇帝の執務室に戻ってきた小さな皇子。
「とうしゃま。お返事れしゅ!」
「リリ、有難う。ちゃんと1人で行けたのかな?」
「あい!」
「そうか、偉いぞ」
「あい!」
「リリ、偉いわね。皇后様も喜んでらしたでしょ?」
「あい! ナデナデしてくりゃしゃいました!」
「フフフ、良かったわね」
「あい! えっと、えと……ニリュ」
「はい、殿下。どうされました?」
「あのね、あのね」
「はい?」
「ニリュ、ちっこでりゅ!」
「まあ! 大変!」
侍女のニルが小さな皇子を抱き抱えて走り出す。
「きっと、りんごジュースを沢山飲んだんだわ。クッキーも食べたわね」
母よ、流石だ。その通りだ。
こうして、小さな皇子のおつかいは無事に終わりました。
まだリリアスが3歳になる前のお話です。
お目汚し失礼しました〜!
完結してから沢山の方に読んで頂き本当にありがとうございます!
また、変わらず誤字報告して下さった方々、有難う御座います。
ブクマ、評価、いいね!して下さった皆様、本当に有難う御座います!