386ー父親
投稿が遅くなりました。
申し訳ないです!
ちゃんと、ルビが出来ているか少し不安。
「リリ、初代皇帝の思いだ」
俺は、ゆっくりと小箱を開けた。
中には一通の手紙と、小さなカードが入っていた。
「リリは転生だったが、初代皇帝はそのまま転移だったんだ。国が魔物で荒らされていたから、成長を待っている時間がなかった。だから、身体も記憶もそのままこっちの世界に渡ってきた。
当時、この世界に来た時に持っていた物の一つだ。もうそれしか残っていない」
これは……運転免許証じゃないか!
「え……嘘だ」
俺は、目を見張った。信じられなかった。だって……
「だって、親父は生きていた! 医者として生涯を全うしたんだ! 何で!? どうなっているんだよ!」
その免許証には、若い頃の親父の写真があった。日付を見ると、まだ俺が産まれる前だ。いや、結婚する前だ!
免許証の写真には、確かにあの豪快だった親父の面影があった。若い頃、優柔不断だった俺に、喝を入れてくれた親父だ。
俺は、恐る恐る手紙を読む。親父らしい短い文だった。
いきなり、初っ端から謝っている。ただ、すまないと。なんだよ。謝るなよ。
『すまない。
俺がこの世界に来た事で、縁が出来たそうだ。
これを読んでいる俺の子孫に願う。
どの世界であろうと、
どの人種だろうと、
どの種族だろうと関係ない。
手が届く範囲だけでもいい。
救える命を諦めないで欲しい。
宜しく頼む』
確かに親父の名前が書いてあった。懐かしい日本語だ。漢字だ。何が、宜しく頼むだよ。
「日生 輝
それが、初代皇帝のリリの世界での名前だ」
意味が分からない。確かに親父は生きていた。でないと、俺が産まれてないだろう? それに、家族で葬式をして送ったんだ。
そうだ。俺のあの事故の次の日には、家族で墓参りに行く予定だった。
確かに親父は78歳まで生きていたんだ。
「ルー、意味が分からない」
「転移だったと言ったろう? 初代皇帝はこの世界で55歳まで生きた。そして、元の世界に帰したんだ。身体を戻して魂ごとな。元の世界で、丁度1年後にだ」
1年後? 何だ? 何だっけか……何か言われたんだ。
「あッ……! お袋が、湖に近付くなと、気をつけろと言ってた……」
お袋は何か知っていたのか? いや、そうだ。昔、俺も祖母ちゃんに聞いた事がある。俺から見た祖母ちゃん、親父の母親だ。
親父は若い時、研修医時代に1度行方不明になっていた事があるそうだ。
俺が車ごと落ちた湖。昔、そこに魚釣りに行った親父が戻らず丸1年行方不明だった。
だからか祖母ちゃんは、あの湖には近付くなと俺達孫に言っていた。
行方不明だった親父は、1年後に同じ湖で釣りをしていた人に保護された。
その時親父は放心状態で、しかも何故か見るからに高価そうな服装だったらしい。
それからの親父は変わった。1年のブランクをあっという間に取り戻し、精力的に仕事に取り組む様になり、海外で医師として活躍していた。
祖父さんが身体を壊して、実家の医院を継ぐ事になり日本に戻ってきたんだ。
そして母親と結婚。姉、俺と生まれて2人共医師と言う職業を選んだ。姉さんも俺も、親父の医師としての姿勢を見ていたからだと思う。
そんな大事な事を、俺は何で忘れていたんだ?
じゃあ、親父は2度生きたのか? こっちの世界での記憶はあったのか?
「記憶は操作していない。こっちの世界でも、思い出すタイミングを計るだけで消してはいない。リリもそうだろ? そんな状態に、耐えられる精神力を持つのも初代皇帝の血筋だ」
「ルー、本当に?」
「ああ。真実だ。リリの、元の世界での名前は『日生 光輝』
皇帝が、元の世界でもしも息子が産まれたとしたら、その名前を付けたかったと言っていた。
女の子なら、『結輝』どっちも光の意味がある文字を使っていると言っていた」
そうだ。姉さんの名前が、『結輝』
俺は、『光輝』だった。
俺が、獣医師になりたいと言い出した時、親父はこれを言いたかったんだ。
どっちも救えなんて、無茶振りも過ぎるだろうと思っていたが、そのまんまだったんだ。
親父はこの世界で、そうやって生きてこの帝国を作ったんだ。どっちも救う為に、多種族多民族の帝国を。
「リリ、もっと大人になってからと思っていたんだ。いくら、魂が大人だと言っても身体は10歳だ。思考も心も引っ張られる。まだ脳も身体も心も未熟だ。なのに、リリは見つけてしまった。自分で見つけたんだ。そう言う事なんだろう」
何だよ。何なんだよ。中途半端に隠す方が余計にキツイだろうが!
「待って、ルー。まさかボクの後にもこっちに来る魂があるの?」
そうだよ、縁があるんだろ? 俺だけで済まないのじゃないのか?
「こんな事は初めてなんだが、もう1人こっちに来ている。分かるだろう? リリ、予想がつくだろ?」
何だ? もう、来ている? 俺が分かる?
兄弟か? 姉さんじゃねーよな? もしも姉さんなら、絶対にフィオンだ。それとも、まさかの母親か?
いや、違う! 何で……! 何で真っ先に思いつかないんだ! そうだよ! 分かるよ! それしかないじゃないか!
大きな口を開けて食べる癖、笑い方、そっくりじゃないか!
「ああ。リリ、そうだ」
「アウルース……『日生 陽輝』
俺の息子だ。長男だ」
俺は愕然とした。駄目だ。自分だけならまだしも、息子までなんて耐えられない。
俺はまだ良いさ。結婚もした。息子も2人できた。55年生きた。
だが、息子はまだ大学生だ。まだこれからなんだ。何でだよ。何で……!
「アウルは……アウルは思い出してるの?」
「いや、まだだ。だが、本能で分かるのだろう。あれだけリリに懐いているんだ」
「アウルもその内思い出すの?」
「その内な。だが、もっと心が安定してからだ。リリもそうする筈だった。だが、リリは湖に突き落とされて命が危なかった。
それがきっかけになって思い出してしまったんだ。リリは本当に予想外な事が多かったんだ。僕が加護を授けた理由の一つでもある」
そんな事はどうでもいい。俺はいいんだ。
「ルー、無理だよ。こんなの、耐えられない!」
俺は、泣いた。そうしないと、気が変になりそうだった。
親父、俺は良いから俺の息子に謝ってくれ。息子はまだ若い。まだこれからなのに。
「う……うう……うあぁーーー!!」
暫く泣いた。ルーは何も言わずに俺が落ち着くのを待ってくれていた。
泣いていても仕方ない。外では、心配してクーファルが待っている。
「ハァ……ルーごめん」
「いや、リリが謝る事はない。でも、リリ。この世界のリリの家族もみんなリリを大切に思っている。家族だけじゃない。リリに仕えている者達もだよ」
そんな事、分かっているさ。とにかく、今だ。こうなってしまったんだ。
親父、今だよ。今こそ、俺に喝を入れてくれよ!
明日、2話の投稿で最終話になります。
今迄読んで頂いて本当に有難う御座いました!
もう、終わってしまいますが、ブクマ、評価宜しくお願いします!
私のiPhoneでは、ルビは問題なく表示されていますが、もし読めない等不具合がありましたらお知らせ下さい。