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385ー昔の夢

 少し、俺の兄弟の話をしよう。


 フレイは、3人の子供がいる。宣言通り、側妃は持たなかった。

 長男と次男は光属性を持って産まれた。長男は転移門をしっかりメンテナンスできるだけの魔力量を持っていた。一安心だ。

 末っ子の女の子は光属性を持たなかったが、そんな事よりもフレイにソックリだった。

 性格も見た目もだ。俺はコッソリと心の中で、女ジャイ◯ンだ! て、思ったね。

 しかも、アンシャーリじゃないけど「私は絶対に騎士団に入るわ! 止めても無駄よ!」と宣言して、女性で初めて騎士アカデミーに進学したんだ。

 俺は応援してしまったよ。この子の一歩が男女の差別を無くす一歩になるかも知れないと思ったらワクワクしたぜ。

 それにな、皇女だから安易に文句も言えないんだ。こんな時にこそ、利用しての身分だよ。


 クーファルにも、2人の子供がいる。

 2人共女の子だ。長女が奥さんのミリアーナ似で、一緒に薬草を育てている。2人して薬草を集め育てるものだから、城の薬草園や温室は帝国で1番の種類を誇る程になった。

 次女が、クーファル似だ。静かだが、聡明な子だ。よく城の庭園で本を読んでいて、クーファルを質問攻めにしている。


 テュールは4人の子供がいる。皆男の子だ。しかも、下の2人は双子だ。

 4人共、両親に似て剣術が好きだ。そして、見事に4人共テュールにソックリだ。

 其々の歳の頃のテュールに似ているものだから、「成長記録を見ているみたい!」なんてフォルセは言っている。


 家族の事はこんなもんかな。ああ、フォルセだ。俺に話していた様に婚姻はしなかった。

 だが、後進を育てる事に時間を費やしていた。


「なんて言うのかなぁ。僕が見つけて育てた才能だと思ったらね、ゾクゾクするんだ。情熱が止まらないよ!」


 だ、そうだ。フォルセは絵画も彫刻も、バイオリンにも才能があった。

 貴族や平民に拘らず、惜しみなく指導し援助していた。




 そう……長い年月が過ぎたんだ。


「リリ」

「ん……ああ、ルー」

「寝ていたのか?」

「ああ。懐かしい夢を見た気がする」

「リリ、またアウルに会いに行くんだろ?」

「ハハハ……行きたいなぁ」

「行こうよ。また、ユキに乗って走ろう」

「ああ。我はいつでもいいぞ」

「アハハハ、もう無理だ。ユキだって重いだろう?」

「リリ、神獣を舐めるでないぞ」

「ユキ、有難う。ルーも、有難う」

「リリ、何水臭い事を言ってるんだ」

「そうだな、らしくないな」

「そうだよ」

「ああ……」



 眠いな……最近はずっと眠い。いつも、昔の夢を見る。俺も、歳をとったんだ……




「ルー、ここは何?」

「リリ、ここから先はリリだけだ。クーファルやオクソール達もユキもここで待つんだ」


 これは……何だ? 何であの洞窟なんだ? 10歳の時だ。北の鉱山に行った時に見つけた洞窟だ。

 ああ……俺はまた夢を見ているのか。あれは、衝撃的だった……



「ルー様、いきなり何なのですか? リリの安全は!?」

「大丈夫だ。僕も一緒に入る」

「ルー?」

「リリ、分かるか。扉を開けられるか?」


 クーファルが、ルーに食って掛かったのはこの時が初めてだったな。

 切羽詰まった顔で心配してくれている。

 あの時も分かっていたが、改めて見ると申し訳なくて心が痛む。



「リリ!」


 クーファルが、叫ぶ様に俺を呼んだ。


「兄さま、大丈夫です。待っていて下さい」


 そう言って、俺はルーと一緒に洞窟に入って行ったんだ。

 ルーが、俺の肩に止まる。俺が入ると、扉がまた大きな音を立ててゆっくりと閉まった。

 俺はあの時、クーファルを振り返らなかった。振り返れなかったんだ。あんなに余裕のない兄を見るのは初めてだったから。


 俺達が進むと順に両側の壁に灯りが灯って行った。奥へ進めと誘導するかの様に。

 俺はルーと、洞窟の奥へと歩いて行く。ゆっくりと。心の準備をする為にほんの少しの時間が必要な様にゆっくりと。


「リリ、あれだ」


 ルーが示す場所を見る。祭壇なんかではない。ただ、ポツンと小さな小箱が一段上がった場所に置いてあった。

 まるで、ダンジョンの宝箱だ。


「ルー、ボクが開けてもいいの?」

「リリにしか開けられないだろう」


 近寄って小箱を見ると、またあの模様だ。

 幾何学模様のアラベスク柄。そして、中心には透明な丸い魔石。

 俺は、その魔石に魔力を流した。


 ――カチャ


 小さな音がして、鍵が開いた。


「リリ、これはな初代皇帝が残した物なんだ。後に、初代と縁が深い子が産まれた時に見せて欲しいと言ってな」

「縁が深い。皇帝の子孫だからかな?」

「いや、まあその意味もあるが。この世界はまだまだ不安定なんだ。リリがいた元の世界とは違って少しの事で揺らぎ国が滅びる。それを食い止める為に、この世界の光の神はリリの様な魂を呼ぶ」

「ボクの様な?」

「そうだ。もし、初代皇帝がこの世界に来なかったらこの国は魔物に蹂躙されていた。

 もし、リリが光属性を持って産まれなかったら、国が滅びていた。欲深い貴族達のせいでな」


 だから、俺が呼ばれたのか。どうして、俺だったんだ? じゃあ、あの事故は何だったんだ?


 俺が、この世界に来るきっかけになった事故だ。湖に車ごと落ちた。


「必要だったんだ。魂をこの世界に呼ぶ為にな」


 そうか。余りにも突拍子もなくて、頭が付いていかない。


「リリ、すまない」

「ルー、何で謝るの?」

「リリの大切な人生だ」


 そうだった。俺の人生。俺の大切な家族。悲しませてしまったかなぁ。


「初代皇帝も、リリと同じ国の魂だと聞いているな?」

「うん。鑑定の儀の時に光の神に聞いた」

「リリの近い肉親なんだ」


 なんだと? 肉親だと?


「初代皇帝がこの世界に呼ばれた事で、縁が出来てしまった。何より、初代皇帝の家系の魂は光属性に都合が良い」


 都合が良いだって!? 都合なのか? そんな事で、俺は家族を失ったのか。


「リリの家族はどうだ? 真っ直ぐではないか? 妬み、僻みなど持たないだろう?

 些細な事で揚げ足を取ったり、非難したり、蹴落としたりしないだろう?

 人を救う事に、見返りを求めるか? そんな事、考えもしていないだろう?

 正直に、真っ直ぐだ。気に入らないからといって非難したり、些細な事を突っ込んだりするよりも、他人を素直に応援できる。そんな単純な事がどれだけ素晴らしい事なのか、人は分かっていない。

 光の神はそんな魂を慈しむ」


 ルーが、小箱の横に飛び移った。


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