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38ー光の精霊

 その日、光の大樹近くにある街へと降り注ぐ光の粒子。


 キラキラ……キラキラ……キラキラン……


 毒で苦しんでいる人々を癒す光が……

 光の粒子が街の隅々にまで降り注いだ。


 光の加護を受けると言われる帝国の神話がまた1つ生まれた。


 人々は見た。街の上空を光の粒子を降りまきながら翔ぶ、孔雀の様な見事な尾羽を持つ一羽の白い小さな鳥を。

 頭の鶏冠にある淡いブルーの羽根がまるで冠の様で自慢気に見える。

 同じ淡いブルーの小さい胸を張り、豊かな白い羽根を広げて街の上を旋回する。


「あ……あれ? 治った……!」

「苦しくないわ!」

「なんだったんだ……?」


 毒に侵された全ての人々を癒やすと、街の上空を数回旋回し白い鳥は飛び去って行った。

 光の大樹の方に……

 聖なる湖の方に……


「あれはきっと、光の妖精様だ!」

「光の妖精様が守って下さったんだ」

「光の大樹に花が咲いたそうだ」

「光の精霊様の加護を受けた皇子殿下がいらっしゃるからだ」

「光の精霊様だ」


 王国の工作員達も見た。街に光の粒子が降るところを。

 光の粒子が全ての毒を癒やしてしまうところを。


「何なんだ、この街は!」

「この光、何だよ?」

「毒が消えたぞ!」

「そんな馬鹿な。嘘だろ?」

「クソ、失敗だ! 行くぞ!」


 王国の工作員、5名。街人の格好をして、聖なる湖の方へ走り去って行った。

 工作員達の任務は、街を毒で侵して騒ぎを起こす事。そして、皇家の別邸に滞在している光属性を持つアーサヘイム帝国第5皇子リリアス・ド・アーサヘイムを誘き出し、事故に見せかけ殺害する事。

 その後、帝国が衰退するのを待って侵略し、王国の領土とする。そうすれば、光の神の加護を王国の物と出来る。繁栄は王国に約束される。王国にだって光属性を持つ者はいると、欲深い王の馬鹿な浅はかな考え。


 まんまと王国に利用された、ファーギル・レイズマン子爵。

 しかし、相手が悪かった。計画は全て、小さい第5皇子に心を寄せ付き従う者達に砕かれて行く。

 そうとも知らずに、皇家別邸を目指し静かに駆け抜けて行く王国の工作員達5人。


「簡単な仕事だ。たった3歳の小さな皇子を殺害するだけだ」

「失敗などする筈がない」

「のんびり静養しているがいいさ」

「勝利は俺たちの手の中に」

「王国の工作員の俺たちが失敗する筈ない」


 そして辿り着いた皇家の別邸。


「おい、静かだな」

「ああ、誰もいないのか?」

「たかが末の小さい皇子一人だ」

「警備も大した事はないのだろう」

「行くぞ!」


 静かに気配を消して5人は別邸へと入って行く。


「おい、誰もいないぞ」

「楽勝だな」

「馬鹿な奴等だ」

「王国の力を見せてやろうぜ」

「シッ、声がするぞ」


 邸の一室から、子供らしい声が聞こえる。


「だかりゃぁ、ボクはりんごジュースがいいの!」

「殿下、葡萄ジュースも美味しかったですよ」

「うん。ありぇはとっても美味しかったねー」

「殿下、あの葡萄ジュースはもう来年まで飲めません」

「えー、そりぇは残念だねー」


 リリアスの呑気な声が聞こえてくる。


「はっ、馬鹿が」

「何が葡萄ジュースだ」

「お気楽なもんだぜ」

「狙われているとも知らずにな」

「行くぞ」


 5人の工作員は、自分達に隠密を掛けて声のする方へと進んで行く。そして部屋の前まで来た。


「行くぞ」

「「「「おぅ」」」」


 5人は思い切りドアを蹴り破り入って行く。


 ――バンッ!


『ライトバインド』


「ウワッ!!」

「動けない!」

「なんだッ!?」

「何が起こったんだ!?」

「クソッ!」


 自分達に何が起こったのか理解できていない。


「オク! リュカ!」

「「はいッ!!」」


 オクソールとリュカが、あっと言う間に拘束していった。二人で剣を5人の工作員に突きつける。


 5人の工作員が見たものは……街の上を飛んでいたあの白い鳥を肩に乗せた、小さな小さな皇子。

 その皇子を中心に、侍女やメイド、医師、シェフや使用人まで剣を手に、皇子とその母であろう側室を守っている。そして、その皇子達全員を囲む様にして守る、帝国騎士団の騎士達。

 目の前には、自分達に剣を向けている男と一人の騎士。そうか、自分達は失敗したんだ。どうして? 楽な仕事の筈だったのに。


「王国の工作員、お前達の計画は失敗だ」


 背後から声がした。


「ああ、工作員なら私の顔位知っているだろう?」

「父上、当たり前でしょう」


 その声の主は……言われた通り、工作員なら当然知っている。

 アーサヘイム帝国皇帝 オージン・ド・アーサヘイム。

 アーサヘイム帝国第1皇子 フレイ・ド・アーサヘイム。


「何で……帝国皇帝と第1皇子が……!?」


「父上、やはり知っていましたね」

「ああ、馬を飛ばして戻って来た甲斐があったよ」

「お前達にはこれから全て話してもらう。王国との交渉にも良い材料だ。お前達の国の国王はよっぽど欲深いらしい。周辺諸国にも大々的に発表するとしよう。王国の国王は、工作員を5名も使って僅か3歳の皇子を殺害しようとしたとね。ああ、その3歳の皇子から返り討ちにあって拘束された事も発表しないとな」


「3歳の皇子から返り討ちにあっただと!?」

「馬鹿な!」

「そんな事できる筈がない!」


「お前達を最初に拘束したのは、その3歳の皇子だ。帝国を甘く見るなよ。なあ、リリ」

「はい、にーさま! 残念ながりゃ1番最初に拘束したのは3歳のボクです! 罠だと分かりゃなかったなんて油断しすぎです。3歳だかりゃと甘く見た貴方達の負けです!」


「…………!!」

『らりるれろが言えてないじゃないか!? 』と、思ったかどうかは分かりません。


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