371ークーファルの思い 2
「すまないな。リリにばかり背負わせてしまって」
「ルー様。リリはこの世界に愛されているのでしょう? なら、どうしてリリは辛い思いをするのですか? リリが赤ん坊の頃からそうです。リリは狙われる。だが、今帝国が平和で栄えているのもリリの力が大きい。
私は……いえ、私達家族は皆リリアスを守りたいのです」
帝国の皇子だからではない。光属性を持つからでもない。
リリアスは私達の大切な家族なんだ。可愛い末の弟なんだ。
私達は、どうすればリリアスを守れるんだ?
「クーファル、今迄通りで良い」
「ルー様」
「今迄通り、接してやる事だ。今迄通り、これからもリリを慈しみ愛して可愛がってやれば良い。リリが間違った事をしたら叱り導いてやってくれ。
クーファル、お前の役目は大きい。リリ自身もクーファルを頼りにしている。この場にいるのがクーファルと言う事にも意味があるのだろう」
「そうですか。リリに頼られるのは嬉しい事です。私はリリを愛するだけでなく、叱り導く役目ですか」
「クーファル、お前しかいないだろう」
「そうですね、分かりました」
「クーファル、頼んだよ。オクソール、リュカ、レピオス、リーム、ニル、ラルク。お前達もだ」
「はい。心して」
「もちろんです!」
「私に出来る事なら何でも致しましょう」
「はい、私もです! ルー様は、私の名前をご存知だったのですね?」
「シェフ、もちろんだ。リリもちゃんと知っている」
「そうですか……嬉しく思います」
「私は生涯リリアス殿下の侍女です」
「僕もです! 生涯、リリアス殿下にお仕えします!」
「ユキも頼んだ」
「任せてくれ。側を離れないさ」
「心配かけて悪かったな。じゃあ、リリを頼むよ。僕も見ているけどな」
そう話してルー様は消えられた。
ルー様は、『詳しい事は言えない』と最初に仰った。今、私達に話して下さった事は私達が知っても大丈夫な事だけで全てではないのだろう。
一体、あの洞窟の部屋の中で何があったんだ? リリが倒れる程の事なんて、何なんだ?
考えるんだ。話してもらえないなら、推測する。今迄、ルー様が仰った事。ルー様の説明。何だ? 何か引っかかる。
私は何に納得できていないんだ?
「クーファル殿下、大丈夫です。あまり、考え込まれない方が宜しいかと」
「レピオス。大丈夫と分かってはいても、実際にリリが目を覚ますまで気が気でないんだよ」
「殿下、皆そうです」
「ああ、そうだな」
そうだった。リリは皆に好かれている。リリに仕える者は皆、リリが大切だ。
リリは結局、翌日の昼過ぎまで起きなかった。だが、起きて第一声が……
「ニル、りんごジュースちょうだい!」
「はい! リリアス殿下!」
なんとも、リリらしいと言うか肩透かしと言うか。
りんごジュースなのか。お陰で肩の力が抜けたよ。
「リリ、気分はどうだ?」
「クーファル兄さま、おはようございます。どうしたのですか?」
ああ、リリだ。いつものリリが戻ってきた。
「リリ、もうおはようじゃないね。昼も過ぎている」
「え!? そうなのですか!? あれれ? そう言えば……ボク洞窟から記憶がありません」
「そうか。身体はどうだ?」
「はい? 元気ですよ? 兄さま、どうしました?」
ああ、本当に肩透かしだ。いつも通り過ぎる……ああ、そうか。これが、リリの意志なのか。なら、私がする事は一つだ。
「リリは疲れて寝てしまったんだよ。みんな、心配していた」
そうだ。私もいつも通りのリリアスの兄でいよう。
「あらら。すみません」
そう言って、リリはりんごジュースを一気に飲み干した。
「うまッ!」
「リリアス殿下、ですからりんごジュースを一気飲みするのは止めて下さいと言っておりますのに」
「ニル、だってお喉が乾いていたの。美味しいの。おかわり!」
「もう、仕方ありませんね」
ニルも、何もなかったかの様にいつも通り接している。それしか、今の私達に出来る事がない。
リリ、いつかは話してくれるのだろうか?
私達は、リリを大切に思っているよ? リリはどうなんだろう?
「エヘヘ、兄さまもりんごジュース飲みますか?」
「いや、私はいい」
「あらら」
可愛い。リリは本当に可愛い。自分では分かっていないらしいが、民に1番人気があるのはリリなんだよ。
どこに行っても、リリは好かれている。
辺境伯領では特にだ。5歳の時に長い期間滞在したから余計だろうが。
中でも、ニルズとアウルースだ。アウルースは無条件でリリが大好きだ。さすが、フィオンの息子だ。ニルズはリリが本当に可愛いという眼で見ている。領主隊も皆、リリの事が大好きだ。
リュカの村でもそうだ。リュカの父親、村長が甚くリリを気に入っている。
リリには辛い思い出かも知れないが、リュカの村の女の子が拐われていた町の人達もそうだ。リリに救われたと感謝している。
別邸近くの街でもそうだ。あれはリリが3歳の時だからもう7年になる。
それなのに、未だにリリに助けてもらったと街の民は言っている。リリが光の精霊様を呼んで助けて下さったと。
実は、隣国の王国でも未だにリリは人気がある。王都の商人や、王都までの村々、王都を守る兵士達。
もう、そんな事を挙げたらキリが無い。
実は1番はセティだと私は思っている。顔にも態度にも出さないが、実はセティはリリが可愛くて仕方がないのだ。
セティが率いている特殊部隊。その名の通り特殊な案件を扱う影の部隊だ。
皇族一人一人全員に、この特殊部隊の隊員が最低1人が付いている。
この事はまだリリは知らない。だが、実際にリリにも影が付いている。しかも、特殊部隊の中でも選び抜かれた隊員でリリだけ複数人付いている。
次期皇帝であるフレイ兄上よりもだ。これはどうなんだ? セティ、良いのか?
赤ん坊の頃から、リリは狙われてきたから仕方のない事だが。
その、影の隊員が潰し未然に防いできたリリの暗殺計画がいくつもある。
表立ってはいないが、セティの手に因って消えていった貴族がどれ程いる事か。父もセティも容赦なく断罪する。
当然だ。帝国の皇子を狙ったのだからな。
「兄さま? 何を考えているのですか?」
「いや、何でもない。リリ、お腹は空かないか?」
「空きました! 兄さま、見ていて下さい。きっと居ますから」
「何がだ?」
エヘヘと、リリが笑う。
「シェフー! お腹すいたー!」
「はい! 殿下!」
「え? 何だ? 居たのか?」
「ね、兄さま。居たでしょう?」
「アハハハ。リリのシェフは凄いね!」
「はい! 自慢のシェフです!」
リリのこの笑顔を守っていこう。
私は時には叱らないといけないそうだ。しかし、それ以上に笑顔を守っていこう。
私達の大切な家族なのだから。