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370ークーファルの思い 1

読んで頂き有難う御座います!

昨日、久しぶりに2万PVを超えました!

有難う御座います!

「兄さま、大丈夫です。待っていて下さい」


 リリがそう言って微笑んだ。ルー様と一緒にリリが扉の中に消えて行くと、また大きな音を立てて扉が閉まった。

 両脇に控えていた白い狐達は、番をするかの様に扉の前に並んだ。


「ここからはお前達の領域ではない。近寄るな」


 と、でも言っている様に思えた。


 嫌な予感がする。リリ、やはり1人で行かせるのではなかった。無理矢理にでも付いて行けば良かった。私は直ぐに後悔した。

 ルー様がいる。大丈夫だ。そう思いながらも、不安は拭えなかった。

 私は、待つしかできない。扉の中を見るどころか、触れる事さえできない。

 リリ。お前は帝国に必要なんだ。光なんだ。

 いや、そんなんじゃない。そんな事じゃない。私の、私達の大切な末っ子の弟なんだ。可愛い弟なんだ。

 まだ小さい。守ってやらないといけないのに、どうして私は一人で行かせたんだ。

 リリ、どうか無事に出てきてくれ。私はそう祈った。きっと、この場にいる皆が同じ気持ちだろう。


「クーファル、大丈夫だ」

「ユキ」


 そうか。ユキは分かるのだな。待つしかない。


 然程、時間は経っていなかっただろう。

 扉が開いて、中からリリとルー様がゆっくりと出てきた。

 ああ、良かった。取り敢えず、リリは無事に生きて出て来た。


「リリ!」


 私は名前を呼んで駆け寄り抱きしめる。疲れた顔をしている。


「兄さま、大丈夫です。何でもありません」


 そう言って微笑んでいたリリが、私の腕の中に崩れ落ちた。


「リリ! リリアス!」


 身体中の血の気が一気に引いていく気がした。自分の心臓の音がやけに煩く耳に障る。


「クーファル、大丈夫だ。少し疲れただけだ」

「ルー様! リリアスに何があったんですか!」

「それは詳しくは言えないが、ここには初代皇帝の遺品が保存してあったんだ。クーファル、大丈夫だ。連れて帰って寝かせてやると良い」

「ルー様!」


 私は、思わずルー様を睨みつけていた。


「クーファル、お前達がリリを大切に思っている気持ちはよく分かっている。僕も同じだ。リリを大切に思っている。大丈夫だ」


 どこが大丈夫なんだ! 実際に、私の腕の中に崩れる様に倒れたじゃないか! 真っ青な顔色をしている。


「クーファル! 落ち着け、大丈夫だと言っている!」

「クーファル殿下、大丈夫です。気絶ではなく寝ておられる様です」


 オクソールがそう言った。そうか、オクソールも分かるのだな。私は何一つとして分からないのに。


「寝て? リリは寝ているのか? では、目は覚めるのだな?」

「はい、きっと。とにかく、此処を出ましょう。私達が此処にいても何もできません」

「ああ。ああ、そうだな」


 私は、リリの小さな身体を抱き上げる。自分の手が震えている事に、この時初めて気が付いた。

 私は、それ程動揺していたらしい。


「僕が外に転移させるよ。集まって」


 ルー様がそう言った。

 私はリリを抱き上げたままルー様の側に立つ。


「クーファル、済まないな。まだ早かったんだ。本当に……リリがもっと大人になってからと思っていたんだが」

「ルー様。リリアスが目を覚さなかったら、私はルー様を怨みます」

「クーファル……」


 そして、目の前が白く光ったと思ったら、次の瞬間には滝の前にいた。


「殿下!」


 滝の前で待機していた騎士団が駆け寄ってくる。


「レピオスを連れて来てくれ!」

「はいッ!」


 騎士団が走って行く。


「クーファル、リリは大丈夫だ」

「ルー様」

「僕は、リリに加護を与えている。その僕がリリを害する筈がない」

「はい。ルー様」

「リリを寝かせたら僕が話をしよう。だから、悪いがそれ以上リリに聞かないでやってくれないか?」

「ルー様、そんな!」

「頼むよ。僕が話す事で収めてくれ」

「殿下! どうされました!?」


 レピオスが走ってきた。皆、リリアスが心配なんだ。


「レピオス、何でもないと思うのだが。リリを見てくれ」

「はい!」


 レピオスはスキャンの能力がある。それにリリを赤ん坊の頃から見ている。何か異常があったら、レピオスなら見逃す筈がない。


「クーファル殿下、大丈夫です。寝ておられるだけです」

「そうか」


 そうか。良かった。取り敢えずだが、良かった。だが、リリが目覚めて、いつもの様に私を呼ぶまでは安心できない。



 ルドニークが私に抱かれているリリを見て真っ青になっていた。

 リュカが説明して、落ち着かせている。

 リリを抱えて馬で町の宿屋に戻った。いつもの様にオクソールが抱えて馬に乗ると言ったが、任せられなかった。自分の腕の中から離せなかった。

 その間、ルー様はずっとリリについていた。白い鳥の姿なのに、何故かリリに申し訳なさそうにしている様に思えた。

 ルー様は、一体何をご存知なんだ?

 リリに、何があったんだ?

 部屋には心配して皆が集まっている。普段から、リリに付いている者達だ。

 リリが、青白い顔色で寝ているベッドの側でルー様が話し出された。

 


「あの洞窟は初代皇帝が作った物なんだ。将来、初代に縁の深い子孫が産まれた時に導く様にな。

 それが、リリだった。600年以上経って生まれてきた皇子だ。

 僕は、リリの魂を見て直ぐに分かった。

 初代皇帝もそうだが、リリもこの世界に愛されているんだ。この世界の神に呼ばれた魂なんだ」


 意味が分からない。一体、ルー様は何を仰っているんだ。

 この世界に愛されている、までは理解できる。その通りなのだろう事はリリを見ていれば分かる。リリは特別なんだ。

 だが、この世界の神に呼ばれただと? 何だ、それは? どう言う事なんだ?

 私がそう思っていると、ルー様が仰った。


「分からなくていい。初代やリリがこの世界に必要だったと言う事だけ理解していれば良い」


 ああ、私はリリを分かってやれないのか?

 ルー様はそうではないと仰った。


 あの洞窟の部屋には、初代皇帝の遺品が保存してあったそうだ。初代皇帝は魔力が強い。魔力の残滓でもリリは意識を引っ張られる事があった。

 だから、洞窟の部屋でリリはまた初代の魔力に引っ張られたそうだ。

 リリが5歳の時だ。辺境伯領に行った時にもそんな事があった。

 辺境伯領の小島で、転移門で、ルー様はそう仰っていた。気をつけろとも言っておられた。

 だから遺跡の事も、リリが大人になるまでは教えるつもりはなかったと。

 なのに、リリは呼ばれたかの様に自分で洞窟を見つけた。もう、誤魔化せなかったと。


 初代の話をして、遺品を見つめて、それを手に持っていた時にやはりリリは引っ張られてしまった。

 直ぐにルー様が引き戻して下さったそうだが、それでもリリにとってはショックだったかも知れない。

 それで、一気に疲れたのだろう。


 リリは、その時に見た事を覚えているのだろうか?

 疲れ果てる程、ショックを受ける様な内容を見たのなら覚えていない方が良い。

 私はそう思った。


「いや、今迄もそうだったが、覚えていたとしても恐らく断片的にだろう。覚えていない可能性の方が高い」

「ルー様、そうですか」


 そうか。良かった。その方が良い。

 建国当時の、混乱した荒れた状況下の事等覚えていない方が良い。


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