37ー毒
リュカがノックもしないで、慌てて入ってきた。
「リュカ、どうしたの?」
「レピオス様に言われて、症状のある者の身体を兵達と調べていたのですが此れを! 同じ針が数名の服に刺さっていたのを発見しました!」
リュカがハンカチに包んでいた数本の針を見せた。縫い針よりもっと細い針だ。この細さだとチクッとしても気付かないかも知れない。
「リュカ! お手がりゃだよ!」
凄いぞ! よく見つけた!
「リェピオス、おねがい!」
「はい、殿下! リュカそれを持ってついて来なさい!」
「はい! レピオス様! 殿下、失礼します!」
レピオスとリュカが慌てて部屋を出て行った。針に毒がついていないか、その毒を解析して解毒薬を作るんだ。
「なあ、リリ。盛り上がってるとこ悪いんだけどね」
ルーがテーブルに乗ってきた。
「うん?」
「リリ魔法でさっき教えたよな?」
「なに?」
「覚えてないのか? 毒と言えば?」
なんだよ、ハッキリ言えよ。毒と言えば……毒……
「アンチドーテ!」
「そうだ」
早く言えよ! レピオスがいる時に言ってくれよ。
「リリ、バタバタしている様だけど。何かあったの?」
母が開けっ放しのドアから顔を出した。丁度いい!
「かーさま! アンチドーテ使えますよね?」
「ええ、勿論。初歩だもの」
「るー、手伝ってくりぇりゅ?」
「当たり前だろ!」
「かーさま、リェピオスのとこりょに行きましょう!」
俺はソファーからぴょんと下り、そう言って母の手を引っ張った。
「え? え? 何?」
「エイル様、歩きながら私がご説明を」
「ニル、分かったわ」
ニルは俺をヒョイと抱き上げた。やっぱそうなるよな? 俺、チビだから。歩くのも遅いし。
「リェピオス!! リュカ!」
「殿下、エイル様! どうされました?」
レピオスが毒のついた針を薬液に浸けていた。
「リェピオス、魔法がありゅじゃない!」
「殿下、アンチドーテですか?」
「そう!」
「え? 殿下は覚えてらっしゃるので?」
「さっき、るーに教えてもりゃった!」
フンスッ! と、胸を張っちゃうぞ。
「……さっき……!」
「でもリェピオス、でいす……でいえん……? なんだっけ?」
「リリ、もしかして、ディスエンチャントかしら?」
「そう! かーさま、そりぇです! そりぇもリェピオスに教えてもりゃって直ぐできたかりゃ、だいしょうぶだよ。たぶん」
「殿下…… 」
あれ? レピオス、疑ってる? だって前は出来たじゃん?
「もし、リリが出来なくても、私が出来るわ」
「エイル様……!」
あれれ? 喜んでる?
「ダメです! リリ殿下!」
あれれれ? リュカ、ダメなの?
「リュカ、どうして?」
「あ、いえ。魔法がダメなのではなくて、殿下が邸を出るのはダメです!」
「リュカ、なんで?」
「殿下、この毒針を見て下さい」
そう言って、リュカは針を1本見せた。
「これは素人ではありません。例えばです。すれ違う時に、ドンと肩がぶつかった振りをしてこの針で刺します。そうしたら、ぶつかった事に気が取られて刺された事には気付かないでしょう。そして、服に針が刺さったまま何本も残っていると言う事は、犯人は針を回収するつもりがないのです。そのまま放っておいても、針が自然に落ちて気付かれないと踏んでいるんです。こんな針を使うのは訓練された者の仕業です。それに毒の症状が出ている者も命に関わる訳ではありません。重症者もいません。毒で殺そうと思えば殺せるのにです。おかしくないですか? ですから、この騒動は殿下を誘き出す為のものではないかと俺は思います」
リュカ、お前なんかスゲー進化してないか?
「「おおー!」」
パチパチパチ。ルーと一緒に感心したわ。拍手してしまったよ。マジで。リュカ洞察力スゲーじゃん。
「じゃあ、どうするのかしら?」
はい、母。ごもっとも。
「どうしよ……?」
「リリ、僕を忘れてないかい?」
「忘りぇてないよ?」
「いやいや、違うだろ。僕はリリの何かな?」
「お友りゃち。」
「それは、ら行入ってないだろうよ!」
「るー何言ってんの?」
「いや、だからさ。僕はリリの魔法の師匠だ!」
「え? そうなの?」
ルーが足蹴りしてきた。ぺチッて。ぺチッて。
「るーなによ?」
「だからな、光の精霊の僕がね、ひとっ飛びして空からアンチドーテ掛けまくってきてあげるよ!」
……まあ! なんと言う事でしょう〜!!
そうだ、唯の白い鳥さんじゃなかったぜ。
「るー! えりゃい!!」
「だろ? だろ〜? もっと褒めていいよ!」
「まあ! ルー様、素晴らしいです!」
「そうでしょ、そうでしょ! でもな、あの街を狙ってるって事は、リリの居場所がバレてるって事だ」
ルーが俺の肩でドヤってる。鳥さんなのに。
「そうなんです! だから、殿下! 殿下は邸から出ないで下さい! 殿下が街に行かないと分かれば、邸にやって来る可能性があります。邸で迎え討ちましょう!」
「リュカ! 凄い! 賢い!」
でもなんか、緊張感ないな……
「じゃあ、僕どーすんの? 魔法掛けに行っていいの?」
「うん、るーおねがい! くりゅしいのはつりゃいかりゃ早く治してあげたい!」
「よし! じゃあ行ってくるわ。リュカ、リリを頼んだよ!」
「はい! ルー様! お気をつけて!」
「おうッ!」
そう言ってルーはポンッと光って消えた。
「では、殿下。皆で応接室に行きましょう」
「リュカなんで? ボクのお部屋じゃなくて?」
「はい、応接室の方が広いので戦いやすいです。それにもし、オクソール様が戻って来られたら、応接室にいれば気付いてもらえます」
まあ! リュカ凄い!
「あなた、冷静なのね。心強いわ」
お、リュカ、母にも褒めてもらったよ。
「あ、有難うございます! 殿下のお側にいられる様、頑張ります!」
あらあら、直立不動になっちゃった。やっぱ母は美人さんだからか? リュカ、顔が赤いぜ?
「リュカ、私は殿下とエイル様をお連れするから、邸の皆に知らせてまわってくれる? 各自武器を持って、応接室に集合よ」
「はい! ニル様、了解です!」
リュカは走って行った。そうだった。邸のみんなは強いんだった。
「では、殿下、エイル様、参りましょう。レピオス様も」
「はい」