368ー滝
「殿下、サーチはしてますか?」
「オク、してない。何で?」
「お願いします」
「分かった」
何だ? オクソールとリュカが何かを警戒しているぞ。とにかく、サーチを広げてみる。
「オク、よく気がついた。何かいるよ。遠巻きにボク達を見ている感じだ」
「殿下、離れないで下さい。ユキ」
「ああ」
ユキがブワッと元の大きさに戻った。
「あ、離れて行く。凄い」
ユキが元の大きさに戻った途端に、遠巻きに見ていた何かの反応がゆっくりと離れて行った。
「ユキは神獣ですから。最上位種です。敵わないと思ったのでしょう」
なるほど。しかし、気付いたオクソールとリュカも凄い。
だって、当の最上位種のユキさんは無心に肉に食い付いていたからな。ユキさん、そこんとこどうよ?
「……シェフの料理は美味い」
あら、そう。夢中になっていたんだね。ふぅ〜ん。
「殿下、私はこの辺りで薬草を採取しております」
「レピオス、そう? 気をつけてね」
「はい、大丈夫ですよ」
今、何かいたしさぁ。気をつけるに越した事ないよ。
俺達は、昼食後レピオスと分かれて移動した。
「オク、滝があるんだって。そっちに行ってみる?」
「はい、そうですね」
オクソールがジッと何かを見ている。同意したと言う事はそっちに何かあるのかな?
「リリ、どうした?」
クーファルに昼食時の事を話す。何かがこっちを遠巻きに見ていたと。
「そうか。何だろう?」
「兄さま、まだ分かりません。向こうに滝があるそうなので行ってみます」
「滝があるのか。これだけ落差があると不思議ではないか。雪解け水なのかな?」
「はい、兄さま。そうらしいです」
冬には凍ってしまうと言う位だから、そう大きくもないだろう。
進むうちに滝の水が落ちる音が聞こえてきた。もう近いのだろう。
カール壁が重なった場所を抜けるとそこに滝があった。
確かにそう大きくもない。が、滝だ。カール壁に出来た滝だからか、落差がかなりある。今は水量もある。
日本だと確実に観光スポットになっているだろうな。
しかし、この滝が凍りつくなんて冬はどれだけ気温が下がるんだ。厳しい冬なんだろうな。
「冬の寒さはもう痛いですから。外に出るのも最低限にします」
ルドニークが言う。痛い程の寒さか。俺は経験した事ないな。
「殿下、サーチと鑑定を」
ああ、オクソール、忘れてたぜ。サーチを広げて滝を鑑定する。
「え? オク、何? 遺跡があるの?」
「はい。そう出ますが、どこにでしょう?」
サーチも確認する。この場所は……あれだ、きっと。
「リリ、どうした?」
「兄さま、遺跡です。多分、この滝の向こうです」
「遺跡!? それは知らなかった。帝国建国以前のものだろうか? 私はこの場所に遺跡があるのは初耳だ」
そうなのか? クーファルが知らないと言う事は、本当に帝国が建国されるより前のものかも知れない。そうなると、かなり古い。でもな……
「オク、いるよ」
「はい」
オクソールとリュカが俺の側を離れない。
「ルドニーク、ちょっと滝の向こう側に行ってくるよ。ここに居て」
「殿下! 滝の向こうって、どうやって!?」
「多分、滝の向こう側に洞窟か何かがある筈だ」
「殿下、俺も行きます!」
「いや、ルドニーク。ここに居る方が良い」
「オクソール様。俺、足手まといですか?」
「ああ、悪いが。もしもの時にルドニークまで守れるか保障が出来ない。何があるのか分からないからな」
「そんな! オクソール様! そんなところに危険です!」
「ルドニーク、大丈夫だ。君はレピオスと一緒にいると良い。レピオスも強いからね」
「クーファル殿下。分かりました。どうか、お気をつけて下さい。俺、待ってますから!」
ルドニーク、悪いな。何がいるのか分からないから念の為だ。
「心配しないで。大丈夫だから」
そう言って、ルドニークを置いて俺達は滝へ向かう。クーファル、ソール、オクソール、リュカ、ユキが一緒だ。
騎士団が5名付いて来ていたが、念の為滝の側で警戒しておいてもらいながら、馬を預ける。薬草を採取している人達もいるからな。そこまでじゃないとは思うが。
滝の裏側に行くには……だな。どうすんだ?
「殿下、ユキに乗って下さい。ユキ」
「ああ」
オクソールに抱き上げられ、ユキに乗る。
「オク、どうやって行くの?」
「横を登るしかないですね。幸い、足場はありますので」
足場と言っても、カール壁だぞ。どうすんだ? と、思っているとリュカがヒョイヒョイと登って行く。
「リュカ、凄いじゃん!」
感心して見ていると、リュカが途中で止まった。
「殿下! 此処に洞窟らしきものがあります!」
滝の下1/3位の場所だ。やはりあったか。
「大丈夫です! 俺がマルチプルガードします!」
え? マルチプルガードしたら濡れないのか? そうなのか?
リュカが滝の脇から、滝に向かってジャンプした。
「うわ! ビショ濡れになっちゃうよ!」
「殿下、ですからマルチプルガードです」
「オク、濡れないの?」
「はい。マルチプルガードですから」
そうなんだね。もういいや。行こう。
オクソールを先頭に崖を登って行く。ユキはヒョイヒョイとジャンプして楽勝みたいだ。いや、みんな楽勝かよ。息も乱れてないよ。
垂直ではないが、5m程か? うまく足場を見つけながら全員無事に登って行った。
「大丈夫です! 足場がありますからジャンプして下さい!」
リュカが滝側から言う。
いや、コエーよ。普通にさ。高さもあるんだぜ。
「リリ、怖ければ目を瞑っているといい」
「ユキ、大丈夫。しがみついているよ」
「ああ。行くぞ」
ユキがシュタッと一気に滝の向こう側へジャンプした。
オクソールはもちろん、クーファルもソールもシェフも平然としてジャンプしてくる。
「兄さま、怖くないですか?」
「リリ、足場が見えていたからね。それに、リュカがマルチプルガードしてくれているから、水の抵抗もなくスムーズだったよ」
まあ、凄いね。おじさんは無理だよ。普通に怖いわ。
さて、洞窟だ。当然、陽の光は届かなくて暗い。俺はライトをポンポンと出して洞窟の奥を照らす。
横幅はそう広くはない。2m程といった所か。高さは3mあるかどうかといった感じだ。自然に出来た物なのだろうか? 坑道とは違って、岩肌や地面が平坦ではない。
「オク、奥が見えないね」
「はい。殿下、サーチではどうなってますか?」
「最奥までそんなに距離はないんだけど。例の見ていたのがさ」
「はい。いますか?」
「うん。奥に何匹か反応がある」
「リリ、この奥に遺跡があるのか?」
おや? クーファル、もしかしてワクワクしてる?
「兄さま、もしかして遺跡が楽しみですか?」
「リリ、そりゃあ発見者になるかも知れないんだよ。期待しかないね」
クーファル、探究心旺盛だったんだな。俺、知らなかったよ。