363ーオリクト鉱山へ
「そんな事があったのか」
「はい、クーファル殿下」
「伯爵、よく救助してくれた」
「あの時、薬湯を飲ませても丸2日も目が覚めませんでした。エルツも取り敢えずは安心したのか、倒れてしまいまして。子爵が心配して付いておりました」
結局、エルツにもヒールをし薬湯を飲ませたそうだ。見ず知らずの人に、躊躇いもなく手を差し伸べるのはなかなか出来る事ではないと思う。
「その際にも薬学が役に立ちましてな。私が学んできた事は無駄ではなかったのだと思ったものですよ。人の命を救えるのだと」
偶然でも、詳しい人がいて良かったよ。
エルツの1番の幸運は、身なりや身分で差別する事なく、初対面の人にでも迷わず手を差し伸べるビリューザ子爵とオリクト伯爵に助けられた事だ。
でなければ、命が助かっていたかどうか分からない。
「あれから、子爵もエルツも時々顔を見せに来てくれます。律儀な者達ですよ」
「そうなのか。交流があるのは良い事だ」
「はい。エルツの娘と1番下の孫が同い歳で、仲良くしている様です」
アシエと紹介された1番チビさんが、ニッコリとした。
そうか。仲良くしているのか。良い事だ。エルツ達は貴族ではないからな。それでも仲良くできるのは、そう教育されているからだろう。
「仲良しなの?」
俺はチビっ子に聞いてみた。
「はい、リリアス殿下。ミヌレはとても駆けっこが早いです」
「ミヌレて、言うの?」
「はい。早くていつも勝てないのです」
「そうか。勝てないかぁ。悔しいね」
「はい! 次は勝ちます!」
「そうなの! 頑張って!」
可愛いぜ。俺より年下と話す事があまりないから、新鮮で可愛いぜ! アウルとアーシャは別格だけどな。
俺達は、鉱山の調査は明日からにして、今日は用意してくれていた部屋でゆっくりする事にした。
クーファルは伯爵とまだ何か話しているが、俺はさっさと部屋に引き上げた。
「殿下、お疲れですか?」
「ニル、そんな事ないよ。大丈夫」
「良かったです。ご無理なさいませんよう」
おう、今日は何も言わなくてもりんごジュースが出てきたぜ。
「ニル、有難う」
「殿下の魔力は底なしですからね」
「リュカ、褒めてる? 落としてる?」
「殿下! 褒めてるに決まってるじゃないですか!」
「ふぅ〜ん。そう……コクコク」
「何スか? あんな魔法を使って魔力切れにならないなんて殿下位ですよ」
「リュカさん。それ以前にあんな大規模な転移魔法を使える人がいないでしょう?」
「ラルク様、そうでしたね」
「え? そう?」
「殿下、また自覚なしッスか?」
「リュカ、でもユキの力も借りてるからね」
「いや、我は大した事はしていない。リリだけでも出来るだろう」
「えー、ユキさん。そう?」
「ああ。王国に行った時よりもリリは成長している」
「ユキ、そうなんだよ。実はボク、日々成長してんの」
「ブフフ、成長ッスか?」
「だからね、リュカ。そこで笑うのが駄目なんだよ」
「ブハハハ、すんません!」
「ほら、余計に笑ってるし。アハハ」
「いや、可愛らしくてつい」
「もう。リュカも成長してるもんね」
「はい! 俺は日々成長してます!」
「リュカさん、殿下と同じ事言ってますね」
「ラルク、だよね」
「はい。さすが、殿下のヒマ友です」
「いや! ラルク様まで止めて下さい! ヒマ友だけは!」
まあ、平和だよ。仕様もない事をリュカと言っていられるのは平和な証拠だよ。
城では、ちょっとピリピリしていたからな。ホッとするわ。
しかし、エルツの話は驚いた。
「殿下、何ですか?」
「ん? ラルク。エルツの話だよ」
「はい、驚きました。凄い偶然と言うか」
「ああ。でも、迷わず助ける事が出来るのは素晴らしいよ。
そんなボロボロの知らない人がいたらちょっと躊躇しない? なのに、迷いなく手を差し伸べられるのは本当に素晴らしいよ。そのお陰でエルツの奥さんが助かって、ミヌレって娘さんが生まれたんだから」
「はい。そうですね。この北の三つの領主は良い関係ですね」
「ラルク、そうだね」
あんな、麻薬騒動を起こした伯爵と男爵達を見てきたから余計にそう思うな。
「貴族だからと偉ぶるところもないですね。気さくと言うか」
「リュカ、そうだね。だから、領民達に慕われるんだろうね。別の領地の民の世話をするなんて考えられないよ」
そうだ。こんな貴族もいるんだ。
民あっての国だと言う事を理解できていない貴族もいる。が、こんな貴族もいるんだ。まだまだ捨てたもんじゃないさ。
翌日、俺達はまた鉱山近くの町に向かった。宿屋で昼食をとり、そこから馬に乗り換えて鉱山に向かう。
俺は、いつもの様にオクソールに乗せてもらっている。今日は小さくなっているユキを抱っこしている。ラルクはリュカの馬だ。
「ニル、大丈夫かなぁ」
「リリアス殿下、大丈夫ですよ。ご心配は無用です」
「オク、そう?」
「はい。全然大丈夫ですよ」
そうか。オクソールがそう言うなら大丈夫だろう。
何故、馬に乗り換えないといけないかと言うと、鉱山までの道が山道なんだ。勾配がきつい場所があったり曲がり道が多い。
一応、小さな山を一山越える。山と言うか丘と言うか。その程度だが、道も整備出来ていない。
人を何人も載せた馬車を引くには馬に負担が掛かりすぎる。その為、町から鉱山までは徒歩か馬、又は小型の荷馬車程度でしか移動出来ない。だから、俺達も馬に乗り換えている。
まあ、今は季節も夏だからのんびりと行ける。冬は早くから雪に閉ざされるそうだ。
「殿下、もう少し行くと見えてきますよ」
「オク、そうなの?」
「はい。もう下りになってますからね」
オクソールの言う通り、暫くして鉱山が見えてきた。入り口の手前に何棟か建物が建っている。
今迄見てきた鉱山に比べると規模は小さい。夏しか入れないからだろうな。
「それでも、さっきの町は鉱山に関わる者が殆どですから。民達の収入源ですよ」
なるほど。オクソールはよく知っているな。騎士としてだけでなく、多種多様な知識を持っている。
「オクって、本当に色んな事を知ってるね」
「そうですか? 若い頃に少し帝国内を渡り歩いたからでしょうか?」
「え? オク、そんな事してたの?」
「はい。うちは皆そうします。高等部に入る前ですから、まだ子供ですね。帝国を自分の眼で見てこい、と言われて1年だけですが従者と一緒に家を出されます」
「何それ? オクの家だけ?」
「いえ、獅子の獣人は皆そうです」
ほぉ〜、あれか? 獅子の子落とし的なやつか?
「殿下、野生ではありませんから」
「アハハ、ごめんごめん。でも、ビックリだね。そんな子供に旅をさせるんだね」
「でも、1人ではありませんから」
「そうだけど。ボクなら泣いちゃうね」
「アハハハ。殿下はもっと凄い事をされていると思いますよ?」
「そう? どこがだよ。何にもしてないよ。いつもオク達に守ってもらって助けてもらってるよ」
俺は1人では何もできないからなぁ。マジでさ……