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36ーレイズマン子爵

 リーセ河近く、疎らに生えている樹々が馬の行く手を阻む。リーセ河の王国との間に掛かる橋まで馬であと少しの距離だ。其処を数十名の鍛え上げられた帝国騎士団が、たった6名の一行を追い詰める。

 橋の手前にある検問の扉は、既に硬く閉じている。6名の一行は、ファーギル・レイズマン子爵とその従者や護衛達。

 帝国第5皇子リリアス・ド・アーサヘイムの殺害を企てた主犯だ。第1側妃の叔父に当たる。


 一行を追い詰める騎士団の最前列中央を走るのは、帝国第1皇子フレイ・ド・アーサヘイム。鼻筋にある縦長な白斑と長白の足元が目立つ一際美しい毛並みの馬を駆る。


「逃がすなー! 絶対に王国側へは渡らせるな! 回り込め!!」


 ――おーッ!!


 一斉に騎士団が回り込み、あっという間に取り囲まれた6名のレイズマン子爵一行。


「クソッ! 何で分かったんだ!!」

「子爵! あれは第1皇子の騎士団です!」

「何だと! 第1皇子だと!?」


 子爵は従者や護衛5名のみ。騎士団は30名以上。勝敗は明らかだ。


「子爵……こ、皇帝陛下です!」


 第1皇子フレイの後ろから、真っ白の馬に乗った皇帝本人が現れた。上級騎士のオクソールが一歩先に出て、レイズマン子爵に剣を向けた。


「こ、皇帝が何故!? お前、まさか騎士のオクソールか!?」


 皇帝と第1皇子が前に進む。


「子爵、お前は狙った相手が悪かったな。」

「可愛い弟を殺そうとした罪、しっかり償ってもらう! 捕らえろ!」


 一斉に騎士団が子爵一行を捕縛していく。


「ま、まさか皇帝自ら出て来るなんて……!」

「当たり前だ! 私の大事な息子を殺されかけたのだからな!」

「ハハ……大誤算だ! しかし……これで終わりだと思うなよ!」


 往生際が悪いのか、悪足掻きなのかレイズマン子爵はまだ叫ぶ。


「何を言っている?」

「皇帝陛下、第1皇子殿下、貴方方の大事な末の息子が今頃どうなっているだろうな! 楽しみだ! ハッハッハッハッ!」

「お前、何を企んでいる!」


 第1皇子フレイが、取り押さえられたレイズマン子爵の胸倉を掴む。


「私は知らない。ただ、王国の者を入れただけだ。私が王国へ行く代わりにな。第5皇子の滞在先を教えてやった。後は奴等が何をするかなど知らん。今頃はどうなっているか等私には関係のない事だ」

「お前、それでも帝国の貴族か!」

「レイヤは私の姪だ! 大事な姪だ。それを側妃などに! 伯爵令嬢だからと馬鹿にして側妃など! レイヤは皇后になる筈だったんだ!」


 叫ぶようにレイズマン子爵は訴えるが、第1皇子フレイは半ば呆れた様に返す。


「お前、何を馬鹿な事を言っている? 皇后は侯爵以上の爵位の家から選ばれる。側妃は伯爵以上。それが建国以来からの決まり事だ。貴族なら誰もが知っている事だ」

「はぁ!? 嘘をつけ! フレイスター伯爵夫人が、伯爵家だから選ばれずに側妃にと馬鹿にされた、と言っていた!」

「お前は騙されたんじゃないか? 貴族典範を読んだ事がないのか? 学園でも必ず履修するぞ。学ばなかったのか? 皇后にする為にとでも言って金品でもせびられたか?」

「……ッ!! まさか……! そんな!!」

「立て! 王国とどんな取引をした!? 」

「クッ……!」


 フレイは両手で掴んでいたレイズマン子爵の胸倉を揺さぶる。


「レイズマン!」


 呆然としているレイズマン子爵。


「……私は騙されたのか……!!」

「王国との取引は何だ!!」

「ご、5名、5名の工作員を、帝国へ秘密裏に入国させた。後は知らない。知る必要などなかった」

「……クソッ!!」


 第1皇子フレイは、掴んでいたレイズマンの胸倉を勢いよく突き離した。


「捕縛しろ!」


 フレイは皇帝の元へ急ぐ。オクソールは既に馬へと戻って行く。


「父上、戻ります!」

「待て! 私も行く! セティ! 後を頼む!」

「はい! 陛下! フレイ殿下! お気をつけて! 第1分隊護衛につけ!」


 ――はッ!!


 皇帝の側近セティの言葉も終わらぬ内に、皇帝、第1皇子フレイ、オクソールの三人は馬に乗り駆け出した。




「……ふあぁ……」


 おや? 俺寝てた? 本を読んでいた筈なんだが、ベッドにいるな?


「殿下、お目覚めですか?」

「うん、ニリュ。ボクいつ寝た?」

「ご本を読みながらコックリと」

「えー、全然読めてないや」


 懐かしいな、受験の頃を思い出す。参考書に向かうと何故か眠くなるんだよ。よく途中でいつの間にか寝てしまっていたな。


「りんごジュースをご用意しますか?」

「うん。ちょうだい」


 ゴソゴソとベッドを降りる。

 ソファに座るとりんごジュースが置かれた。俺はいつもの様にコップを両手で持って飲む。


「やぁ、リリ。今日は防御魔法の練習をしよう」


 パタパタとルーが飛んできて肩にとまった。


「るー、最近はいりゅんだね」

「いつも居るさ」

「……コクン…… 」

「またりんごジュースかよ!」

「で、防御て?」

「ああ、自分や周りの人に防御力を高める付与をしたり……」



 父達が、慌てて引き返している事など知る由もなく、俺はいつもと変わらない平和な日々を送っていた。

 この後、ルーに魔法を教えてもらい練習していた。


「だからさ、リリは詠唱を口にしたらダメだって。癖つけないと。いざと言う時に間に合わないよ?」


 ルーがパタパタと飛びながら注意をする。


「うん、そうなんだよ」

「なんだ? そうなんだ、て?」

「侵入者をつかまえた時に、一度口に出したんだ。そりぇで魔法が発動しなくて、ちょっぴり焦った」

「マジか。ちょっぴりて何だよ。危ないぜ?」

「うん。気をつけりゅ」



「殿下、失礼致します」


 レピオスが部屋に入ってきた。街から戻ってきたんだな。


「リェピオス、どうだった?」

「はい、どうも変です」

「へん?」

「症状だけを見ると食中毒です。下痢と嘔吐、腹痛なのですが、同じ水源でも症状が出ている者と出ていない者がおります」


 て、事は水じゃない。まあ、レピオス座りな、と手で合図すると、ニルがお茶を入れてくれた。


「リェピオス、そりぇで?」

「食べ物も共通した物がありませんでした。ああ、ニル殿有難うございます。喉が乾いて……頂戴します。ですので、考えられる事は空気感染又は……」

「毒だね」


 空気感染は有り得ない。空気感染ならあんな一部の限られた地域だけに現れるなんて不自然だ。


「はい。殿下、私もそう思います」

「症状のありゅ人達のかりゃだに傷は?」

「まだ全員確認できておりません」

「毒だと解毒薬を作りゅのに、毒を特定しなきゃいけないよね?」

「そうなんです。症状からある程度推測はできます。しかし、ピンポイントは難しいかと」

「そうか…… 」


 どうすんだ? 毒ってか……


「なんで毒なんて……」


 バタンと部屋のドアが開いてリュカが入ってきた。


「殿下! 失礼します」


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