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359ーテュールの婚約 4

「それがね、さっき話したアカデミーで会った頃位から変わったんだ」


 アカデミー内で会っても絡んでこなくなったそうだ。


「僕はさぁ、何かあったのかなぁ? て、思っていたんだ」

「フォルセ、どうしてそう思ったんだ?」

「テュール兄様、そんなの決まってるじゃない。あの叔祖母様が何も言わない訳ないでしょ? 令嬢なのに、剣が得意なんて絶対に色々言われてるよ。それに、卒業後の事を考えないといけない時期だったでしょう? 周りの御令嬢は皆婚約者がいるしさぁ。普段よりキツイ事を言われてたんじゃないかなぁ?」


 なるほど。フォルセって、よく考えているんだな。周りがよく見えている。そう見えないけどさ。なんせ、見た目は妖精さんだからな。


「あ、リリ。今、何思ってた?」

「フォルセ兄さまは妖精だな、と」

「もう! リリ、ちゃんと聞いてる? 僕、一生懸命説明してるのに。でも、リリ可愛い!」


 また、フォルセに抱き締められたよ。思うけどさ、うちの兄弟てスキンシップが多いよね。前世、日本人だからそう思うのか?


「フォルセ兄さま、それでどうなったのですか?」

「ん? この先は本人に聞かなきゃ。テュール兄様」

「お、俺か?」

「当たり前です。テュール兄様の為にクーファル兄上とリリは転移までして戻ってきたのですよ?」

「ああ、悪い」

「テュール兄さま、その後何があったのですか?」

「リリ、その後か……」


 テュールが、仕方なくと言った感じで話し出した。

 

 アカデミー卒業後の進路を相談しなければいけない時期だったそうだ。

 皆、アカデミーに入る前から大体は決めている。それで専攻を決めてアカデミーに入学している。

 その為、卒業後の事を迷う者は少ない。


 そんなある日、また前と同じベンチに座っている令嬢を見つけた。

 流石にテュールもおかしいと思った。ノアを先に行かせて、エウリアー嬢に話しかけた。


「エウリアー嬢、どうした? 何か悩んでいるのか?」

「テュール殿下……いえ、何でもありませんわ。有難う御座います」

「大丈夫なのか? 元気がない。叔祖母様に何か言われているのか?」

「殿下、いえ……あの……では、少しだけ……聞いて頂けますか?」

「ああ。私で良いなら、何でも聞くぞ」

「殿下は……お変わりありませんね。私が何を言っても、どんな態度をとっても、変わらず接して下さいます」

「何を言っている。当たり前だろう? エウリアー嬢は本当に小さい頃から知っているんだ。君の心根ならよく知っているからな。そんな事では変わらないさ」

「殿下……」


 エウリアー嬢はウルウルと涙を浮かべた。


「エウリアー嬢、本当にどうした?」


 エウリアー嬢が、涙を堪えて話し出した。


「私は……女と言うだけで、剣を持つ事を疎まれてきました。女のくせに。令嬢なのに、と言われ続けてきました。

 意見を言えば、女は大人しくしなさいと祖母に言われます。

 どれだけ勉強を頑張っても、褒めてもらえた事もありません。それどころか、剣なんて持っているから殿下に勝てないのだと言われてきました。私は、殿下に嫉妬していたのです。

 お祖母様は元皇族です。ですから、私にも少しは殿下と同じ皇族の血が流れているだろうに。なのに、どうして……殿下はいつも私の前を走っておられました。子供の頃は、そんな殿下を追いかけて走るのが楽しかった。

 でも……いつの頃からか違って来たのです。私には出来ない。私には勝てない。そう思う様になってしまいました。自分でも嫌な女だと分かっておりました。

 でも、殿下だけです。女なのにと言わなかったのは。

 いつも私のやつ当たりを受け止めて下さった。笑い流して下さいましたわ。ありがとうございます。心から感謝しております。私は、他の御令嬢の様にドレスで着飾って夜会に出て婚約者探しをしたりする事は苦手です。お祖母様の仰る様な令嬢にもなれそうにありません。ですので、アカデミーを卒業したら、領地に戻って畑でも手伝って領地を守りながら静かに暮らそうと思います。

 殿下……テュール殿下、今まで本当にありがとうございました。殿下と一緒に遊んだあの頃が、私の1番の良い思い出ですわ。

 聞いて下さって有難うございます。殿下のご健勝をお祈りしております」


 そう話して令嬢は去って行った。



「それを聞いて俺は、駄目だと思ったんだ」

「テュール兄さま、どう駄目なのですか?」

「リリ。小さな頃は本当に楽しく一緒に遊んだんだ。成長すると、男と女だから子供の頃と同じ様にはいられなくなる。それは理解しているんだ。

 だが、同じ様に遊べなくても、いつかまたエウリアー嬢に笑顔が戻ると思っていたんだ。だから、このまま領地に行かせたら駄目だと思った。

 エウリアー嬢の笑顔を奪っているのが叔祖母様だとはっきり分かったしな」


 叔祖母様ね。俺もあの人は苦手だよ。


「やっと、テュール兄様が気付き始めたんだよね」


 フォルセ、じゃあフォルセはもっと前から気付いていたのか?


「当たり前じゃない。だってね、リリ。

 テュール兄様は、エウリアー嬢に何を言われてもニコニコしてんの。しかも、嬉しそうに令嬢を見つめてんの。そんなの、バレバレじゃない? そうじゃなければ、文句言われて笑ってるなんてただの馬鹿だよ」


 うわ、キツいな。見た目は妖精さんなのに。また言いました。だって、フォルセは本当に妖精さんだからな。


「正直、あの時は婚姻まで考えていなかった。だが、あの叔祖母様を何とかしなければと思ったんだ」


 それから、テュールはなんと叔祖母様に会いに行った。

 自分の孫娘を何だと思っているんだ。

 自分が何を言っているのか分かっているのか。人格否定ばかりして、エウリアー嬢が傷付かないとでも思っているのか。

 と、ストレートに言ったそうだ。


「うわ……ボクには出来ません。あの叔祖母様にそんな事言えないです」

「リリ、俺もよく言ったと思うよ」


 それでも、叔祖母様は反論したそうだ。

 殿下には関係ないと。他人の家の事に口を出すなと。


「だけどな、叔祖母様の事は皆何かしら思っているだろう?」


 その通りだ。確かに叔祖母様は正論を言っているのかも知れない。だが、言い方だ。それに、正論だけではどうにもできない事も沢山ある。

 人の気持ちなんて正にそうだ。


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正論は、刃物と同じで、正しく扱わなければ「他人を傷つける」だけなのだと考えます。だから、正論は「正論」だから正しいのではなく、正しく扱うからこそ正しいのあり「正論」と言えるのだと考えます。 その叔祖母…
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