357ーテュールの婚約 2
――コンコン
「リリが戻って来ているって!?」
「フォルセ兄さま!」
「リリ!」
フォルセがガバッと抱きついてきた。
「フォルセ殿下、今はお話中なのですが」
「えー、どうせあれでしょ? テュール兄様の婚約の話でしょ?」
「勿論そうです。大切な事ですから」
「大切も何も、あの大叔母様が煩いから呼び戻した、てだけじゃない」
「フォルセ兄さま、それってあの大叔母様ですか?」
「そうだよ、リリ。いい迷惑だよね」
マジかよ。父よ。皇帝よ。
「フォルセ、そう言うけどね。彼の方の機嫌を損ねたら面倒なんだよ。本当に、とても面倒なんだ」
うわ、父よ。威厳なさ過ぎじゃね? まあ、俺もあの人は苦手だけどな。
「リリは、わざわざ転移して戻って来たんでしょ? それに、リリがどんな事をしているか大叔母様は知らないでしょ? とってもとっても迷惑だって言わなきゃ分かんないよね?」
フォルセはそう言って父をジトッと横目で見る。
俺も今回はフォルセに賛成だ。わざわざ転移してまで北の山脈近くから戻って来たんだ。鉱山の調査を中断してまでな。
それを伝えて欲しいぜ? 父よ。そこんとこどうなんだ?
「フォルセ、リリ。そんな目で父を責めないでくれないか? 父には彼の方に文句を言う勇気なんてないよ?」
「父さま、文句ではありません。事情を説明するだけです」
「リリ、そう言うけどね」
「リリ、無駄だよ。大叔母様にそんな事を言える人はいないよ」
「でも、テュール兄さまはその孫の御令嬢と婚約するんですよね?」
「そうなの! ビックリしちゃった!」
フォルセの可愛さにこっちがビックリするわ!
「フォルセ兄さまも知らなかったのですか?」
「リリ。知らなかった所か、あの御令嬢は何かと言えばテュール兄様に突っ掛かってきていたんだよ」
「え? そうなのですか?」
「そうなの! だから、ビックリしちゃった!」
マジでビックリするほど可愛いな、おい。
フォルセが言うには……
まあ、前世で言うと親戚だからな。小さな頃から交流はあったらしい。
それも、令嬢のお祖母様が俺たち皇子の誰かと婚姻させようとして城に連れて来ていたんだそうだ。俺以外の皇子だけどな。俺はまだ赤ん坊だったから論外だ。蚊帳の外だよ。
1番狙われたのが、やはり同い年のテュールだ。ロックオンさ!
幼い頃は、仲も良かったそうだ。テュールは脳筋。その御令嬢も、活発だったのだろう。テュールと仲良く遊んでいたらしい。
当の令嬢も嬉しそうにテュールの後をついて走っていたそうだ。
そんな関係が、成長するに連れて少しずつ変化していき高等部に入学してからは一変した。
うちの兄弟は、きっと地頭が良いのだろう。皆、成績が良い。当然、それなりの教育を受けて努力はしているがな。
クーファルはもちろん、意外に脳筋組のフレイもテュールも学年でトップだ。
普段はポヤポヤしている妖精皇子のフォルセまでだ。
俺、大丈夫か? 学園に入学して俺だけダメダメとかになんねーか? 超不安だよ。
「それでね、テュール兄様に学業で敵わなくて、剣術でも敵わないから何かと言うと突っ掛かってくる様になったんだ」
「フォルセ兄さま、剣もですか? 御令嬢が?」
「そうそう、そうなの。僕より強いからね、あの令嬢。身体を動かすのが好きなんじゃないかな?
男だったら良かったのにね、て兄様と言ってた事があるもん。本人には言えないけどさ」
そりゃ言えないよな。しかし、俺はそんな事全然知らなかったよ? 俺ってまた蚊帳の外?
「だって、リリはいつも忙しくしてるじゃない?」
「フォルセ兄さま、そう思いますか?」
「うん、思うよ! リリは小さいのに働き過ぎだよ!」
ギュインッと、身体ごとフォルセは父を見る。
「フォルセ、睨むのは止めて欲しいな。父様のせいじゃないからね」
「いーえ! 父上のせいです! リリに頼ってばかりですよね! 止めて下さい!」
「フォルセ、それは少しだけ言い過ぎだよ?」
「いーえ! クーファル兄上、言い過ぎではありません。僕だって、リリと一緒にお話したり、お茶したり、遊んだり、お出掛けしたり、絵や彫刻のモデルになってもらったりしたいんです!」
ん? フォルセ、最後がちょっと変だぞ?
「フォルセ兄さま、剣は分かります。令嬢がテュール兄さまに敵う訳ないですから」
「だよね。でもね、きっと令嬢は、と言うかあの大叔母様はテュール兄様より自分の孫の方が勉学は出来ると思っていたんじゃない? テュール兄さま脳筋だから。ねえ、ニル。シェフのクッキーないの?」
「ございますよ。お食べになりますか?」
「うん! 食べる。リリのシェフが作るクッキーが1番美味しいよ!」
うん、俺もそう思うが。フォルセ、自由だな。いいや、俺もりんごジュース飲もう。
ニルがマジックバッグからシェフ特製のクッキーを皆に出している。
「コクコク……」
「リリ、本当にりんごジュース好きだね」
「はい、フォルセ兄さま。りんごジュースは大事。超大事」
「アハハハ。リリ可愛い~! こんなに可愛いリリを働かせるなんて!」
そう言いながら、フォルセはまた父をギュインッと身体ごと睨む。
「フォルセ、もうそれ位にしておきなさい」
「はーい、クーファル兄上」
で、それからどうなんだ?
「え? リリ、何?」
「フォルセ兄さま、それからテュール兄さまと令嬢はどうなのですか?」
「あれ、どこまで話したっけ? あ、そうそう。令嬢だからね、剣は負けても良いんだよ。でも、勉学までテュール兄様に負けるとは思わなかったみたいでさ。大叔母様がだけどね」
「フォルセ兄さま、じゃあ令嬢は違うのですか?」
「うん。令嬢は剣で負けるのも嫌だったみたい。でもね、仕方ないよね。テュール兄様は強いもん」
うんうん、そうだな。強いよな。てか、そっちか? まさか剣でテュールに勝てるとでも思っていたのか?
「しかし、フォルセは詳しいね?」
「クーファル兄上、だって僕いつも側にいましたから。それに、テュール兄様は脳筋で鈍感なところがありますから。放っておけなくて」
しっかり者の弟だな。
「実際にテュール兄様は気付いてなかったんだけど……一度ね、気になる事があったんだ」
「フォルセ兄さま、その令嬢がですか?」
「そう。なんかさ、思い詰めてるって言うのかなぁ。いつもは、キーキーと煩いなぁ、て感じなんだけどね。
一度だけ、大丈夫かな? て思った事があったんだ」
それは、テュールも令嬢もアカデミーに進学して最終学年になった頃だそうだ。
投稿が遅くなってしまいました。
申し訳ないです。
今日から第六章に突入です。
最後まで読んで頂けると幸いです。
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