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356/442

356ーテュールの婚約 1

「良いかな? 皆出来るだけ近くに来てね。ユキ、良いかな?」

「ああ、いつでも良いぞ」

「じゃあ、転移するよ」


 俺とユキとで、クーファル、ソール、オクソール、ニル、リュカ、ラルク、シェフと一緒に転移して城に戻ってきた。


「うおぉッ!! リリアス殿下! ビックリするじゃないですか!」


 父の執務室に転移したら、セティがいた。


「セティ、何なの? 何でわざわざ戻るんだよ」

「リリアス殿下、お疲れ様でした。陛下をお呼びしますので、お待ち下さい」 


 そう言って、従者に指示している。あれ? あの従者いつの間にあそこにいた?と、思って見ているとニッコリと微笑まれてしまった。ヤベ、超イケメンじゃん。



「リリ、お怒りだね」


 そうだそうだ、そうだった。父に言われてわざわざ戻ってきたんだ。面倒な事をさせないでほしいよ。


「クーファル兄さま、だって本当に面倒なんです。さっさと調査を終えたかったのに。日程も押してましたし」

「本当にね。しかし、父上も何か理由があるかも知れないからね。落ち着きなさい」

「はい。兄さま、分かりました」


 そんな事をクーファルに言われていると、父がやって来た。


「リリ! クーファル! 済まないね! ああ、リリ! 久しぶりだ!」


 父にギュッと抱きしめられたよ。まあ、悪気はないんだね。


「父さま、何ですか? どうしたのですか?」


 俺は腕を伸ばして引き離そうとする。暑苦しいんだよ。


「リリ、冷たいなぁ」

「父上、事情を話して下さいませんか?」

「え? ああ。クーファル、言っただろう? テュールの婚約が決まったんだ」

「それだけなら、わざわざリリと私が戻らなくても平気でしょう?」

「それがそうもいかないのですよ、クーファル殿下」


 セティだ。何だ? 何か含みを持たせてるよなぁ。話ながらさっきのイケメン従者に小袋を渡している。


「どうぞ、まずはお掛け下さい。最初からご説明致します。陛下、リリアス殿下を離して下さい」


 俺はやっと父に解放されソファーに座る。


「ニル、りんごジュースちょうだい」


 ニルはスッとりんごジュースを出してくれた。さあ、準備はできた。話を聞こうか。


「ゴクン……」



 テュールの婚約者は、公爵家の令嬢だった。

 前皇帝の妹の息子の娘、エウリアー・クレメンス。もう、ややこしい。どんな親戚なのか俺にはもう分からない。

 テュールと同級生だ。艶のある真っ直ぐなブロンドの髪にディープブルーの瞳。正義感の強い令嬢らしい。


 話は俺がフレイやテュールと一緒に辺境伯領のダンジョンを攻略した頃に戻る。その事がアカデミーで噂になっていた。


 ――テュール殿下が辺境伯領でダンジョンを攻略したんだって。

 ――ああ、聞いた。凄いよな。俺、ダンジョンなんて見た事もないよ。

 ――フレイ殿下とリリアス殿下も一緒だったらしいぞ。

 ――え? リリアス殿下てまだ10歳じゃなかったか?

 ――スゲーよな。やっぱ皇族は違うな。

 ――馬鹿だな。皇族だからじゃないだろ?

 ――そうだよ。テュール殿下はいつも努力されているだろ。


 エウリアーもその噂を知っていた。


『なんで? なんで私はテュール殿下に何もかも敵わないのよ!

 私だって、お祖母様が皇族よ。同じ血が少しは流れている筈なのに。しかも、ダンジョンなんて……』


「エウリアー様、次の授業に遅れますわよ」

「ええ、分かっているわ」


 学友なのか、同じアカデミーの制服を着た令嬢に呼ばれて一緒に歩いて行った。


 此処は学術アカデミーの校舎。学術アカデミーとは、学問を突き詰める事を目的としたアカデミーで、史学科、考古学科、地質学科、哲学科、政治学科等の学科に分かれていて其々が希望の学科を専攻し、専門的に学ぶアカデミーだ。学科数も多いので、1番生徒数が多い。

 エウリアーと言う公爵家令嬢は、考古学科を専攻していた。


「ノア、どうした?」

「テュール殿下、いえ。何でもありません。ダンジョンの攻略がもう噂になってますね」

「ああ、どこから聞いてくるんだろうな」

「ええ、本当に」


 テュールの側近ノア。エウリアー嬢に何故か少し引っ掛かった様だ。


「そう言えば、テュール殿下。高等部までは突っ掛かって来ていた御令嬢はアカデミーに上がってから静かですね」

「ああ、エウリアー嬢か? そう言うな。彼女は彼女で色々あるのだろう」

「そうですか?」

「そうだろ? なんせ祖母があの方だからな」

「ああ、そうでした」


 そのエウリアー嬢の祖母。前皇帝の妹殿下で、曲がった事が大嫌い。融通のきかない頑固者だ。

 現皇帝始め、皇族だけでなく城で働く者は皆少し距離を置いている人物だ。


「俺はもっと肩の力を抜いても良いと思うんだが……」

「はい? 殿下、何ですか?」

「いや、何でもない」


 テュールはノアと自分達の専攻アカデミーの方へ歩いて行った。



 エウリアーは、テュールのダンジョン攻略の噂を聞いて平静ではいられなかった。

 本当は騎士アカデミーに進学したかった。小さな頃から身体を動かすのが好きで剣術も得意だった。

 5歳上の兄を負かした事だってある。しかし、高等部の最終学年に上がった時に両親や祖母に言われた。


「エウリアー、あなたは令嬢なのよ。もういい加減に剣を振ったりするのは止めなさい。まさか、女だてらに騎士アカデミーに進学するなんて言わないわよね?」

「お祖母様、でも私は……」

「エウリアー、あなたは自分の立場を理解していないのかしら?」

「いえ、お祖母様。分かっております」

「そう。なら良いけど。本当ならアカデミーに進学なんてしないで、婚姻すべきなのよ。あなたはいつもお見合いを断るけれど、いい加減真剣に考えないといけないわ。遅い位よ」

「お祖母様、騎士アカデミーには進学しません。せめて、アカデミーには進学させて下さい。私はまだ学びたいのです」

「まだ少し時間はあるわ。よく考えなさい」


『何で? 騎士アカデミーを諦めて、アカデミー自体も諦めないといけないの? 私が女だから? せめて、アカデミーには進学したい』


 ――コンコン


「エウリアー、いいかしら?」

「お母様、はい」

「お祖母様はああ仰ったけれど、あなたはどう考えているの?」

「お母様、騎士アカデミーは諦めています。女子生徒は誰も進学しませんから、無理なのは理解しています。でも、アカデミーには進学したいのです。お母様、それも駄目ですか?」

「リアー、あなたが理解している様に騎士アカデミーは無理よ。でも、他のアカデミーは諦める必要はないわ。お父様も同じ気持ちよ。私達がお祖母様を説得するわ」

「お母様、ありがとうございます」


 エウリアーの両親があの頑固な祖母をどうやって説得したのかは分からないが、エウリアーはアカデミーに進学した。ただし、学術アカデミーの考古学科だ。勉学の中では考古学が1番好きだった。

 先人の残した物質文化を調査し研究するのは楽しかった。ただ、剣術程ではないが。


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