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354 閑話ー狙われる皇子 2

読んで頂き有難うございます!

第6章に入る前に、少しだけシェフのお話です。

2話だけです。

では、どうぞ!



 城の奥にある厨房付近、剣を携えて颯爽と騎士が歩いて行く。既に時間は夜半近くになっている。


「リーム、お疲れ。今日は遅番だったのか?」

 厨房から顔を出して、一人の料理人がその騎士に声をかけた。


「ああ! 良い匂いがするじゃないか!」

「味見してみるか? 兎の肉だ」

「お、いいね〜!」


 その騎士は、リーム・フリンドル。まだ若いながらに騎士団副団長を務めている。

 父も兄も騎士団の所属する国防省に勤務しており、生粋の騎士家系だ

 2人が話しているのは、城の厨房裏口付近。料理人とは友人なのだろう。お互い気安く話している。

 小皿によく煮込まれた兎肉が盛り付けられ、渡された騎士団副団長のリームはそれを一口で口に入れる。


「うん、良い味だ。柔らかいな」

「だろぉ?」

「ああ。余計に腹が減ってきた!」

「早く帰って愛妻の飯食べるんだな」

「ああ、そうするさ」

「チビ、暫く見てないけど大きくなったろう?」

「ああ、やんちゃ盛りで目が離せないんだ。昨日は木に登って怒られていたよ。下の子はまだ夜泣きするしな」

「そうか、乳母を付けてないんだろ? 奥方は大変だなぁ」

「ああ。でも自分で育てると言うんだ。下のチビが夜泣いても、昼間の育児に疲れていてなかなか起きれない程だよ」

「奥方、大丈夫か?」

「だから、夜は俺が下の子にミルクをやって、オムツ替えて、て世話してる」

「リームも昼間は護衛で大変だろうけどさ、まだ体力あるんだし手伝ってやらないとな。2人の子供なんだからさ」

「ああ。こうして手を掛けて育てるのもアッと言う間さ。可愛いのも小さいうちだけだ。直ぐに大きくなって、生意気な事を言う様になるんだろうな」

「アハハハ、違いない」


 そんなのんびりとした厨房にメイド姿の女性が入ってきた。


「こんな時間に何だ?」

「リーム、ほら1番下の皇子殿下付きだよ」

「まだ赤ん坊だったよな?」

「ああ。でも強い光属性をお持ちだろ? だから可哀想にお命を狙われて」

「そうだったな」

「ほら、リーム。最近だと乳母が自分の乳首に毒を塗って捕まってたじゃないか」

「ああ、自分も毒に侵されても仕方ないのにな」

「そこまでするかね」

「本当にな。待ち望んだ光属性をお持ちなのにな……て、あれ何してんだ?」

「ん? 殿下のミルクを温めてんだよ。乳母があんな事になったから、昼間にエイル様が乳を搾って保存されているんだ」

「大変だな……おい」

「……あ?」


 ミルクを温めているメイド姿の女性に、白いエプロンをした男性が近づきすれ違いざまにごく小さな小瓶をコッソリと手渡した。手のひらに収まる位の小さな小瓶だ。

 メイド姿の女性がそれを温めたミルクの容器にこっそりと入れた。


「おい、リーム……」

「あのエプロンの男は?」

「知らねーよ。あんなの厨房にいねーよ」

「ちょっと手を貸せ」

「おい。俺は、男は無理だぞ? リームみたいに動けないからな」

「分かっている。女の方を頼む。証拠を破棄されない様に気をつけてくれ。俺はあの男だ」

「おう」


 二人は静かに動き出した。アイコンタクトをする。リームと呼ばれる騎士団副団長が手で合図する。

 2人同時に動いた。料理人はメイド姿の女性を、リームはエプロンをつけた男性を取り押さえた。


「キャッ、何!?」

「クソッ! なんで騎士がいるんだ!」

「大人しくしろ!」

「するかよ! うるせーよ!」


 男は無理矢理腕を振り解こうともがくが、ビクともしない。


「クソッ! クソッ! 離せ!」

「無駄だ!」


 リームは何をどうしたのか? 瞬時に男を気絶させた。持っていた縄で縛っていく。


「おい、リーム! 終わったらこっちも頼むよ!」

「ああ!」

「何よ! 私は頼まれただけなのよ! 離してよ!」


 女が料理人に捕まれている腕を解こうとバタついている。


「言い訳なら、取調べでするんだな」


 男を縛り終えたリームが、女を後ろ手に縛っていく。


「悪い! 俺は騎士団副団長のリームと言う! 騎士団に知らせてくれ!」


 突然始まった捕物に驚いて見ていた若い料理人にリームが言った。


「は? は、はいッ!」


 急に話しかけられ、戸惑いながらも若い料理人は頷き走って行く。



 そんな事があって、リームは考える様になった。


「リーム、どうした?」


 また、厨房の裏口だ。


「リーム。昨日さ、お前が言ってた料理試してみたんだよ。あの、ソースもさ」

「ああ、どうだった?」

「それが、大好評だったぜ。料理長に、褒められたよ」

「そりゃあ、良かった」

「お前、騎士なのにそんだけ料理できるの勿体ないよなぁ。宝の持ち腐れだ」

「ハハハ。俺は騎士の家に生まれたからな。料理人には、なれないさ」

「それでも、騎士団の副団長にまでなったんだ。それはスゲー事じゃないか。だが、俺は料理人だからな。お前の料理の腕は勿体ないと思ってしまうさ」

「ハハ、有難う」

「家でも作ったりすんのか?」 

「ああ、休みの時はな。だが、今は子育てで手一杯だよ」

「そうだな。ヤンチャ盛りのチビがいるもんな」

「ああ。だが、可愛いぞ」

「そりゃそうだろ」

「だからな……」


 リームが少し考えこむ。


「どうした?」

「光属性を持つ末の皇子殿下だよ。乳母に狙われ、今度はミルクだぞ。

 俺達騎士がいくら護衛したって、口に入れる物に毒を入れられたらどうしようもないじゃねーか!」

「まあなぁ。本当に、馬鹿貴族は何を考えてるんだか。光属性の皇子がいなくなったら帝国自体が危ないだろ? それが分からないのかね」

「それでも、自分の家系の光属性の者をと思っているんじゃないのか?」

「リーム、でもな。そいつら貴族だってだけでさ、そもそも皇族じゃねーじゃん。て、話だよ」

「まったくだ」

「ところでさ、リーム。お前他にレシピないのか?」

「ああ? 自分でも考えろよ」

「考えてもリームには敵わねーよ」

「そんな筈ないだろ。お前はプロだ。俺は趣味だからな」

「ハハハ。プロ以上の腕前なのに趣味かよ。嫌味だわ」

「馬鹿か。アハハハ!」

『しかし、皇子殿下なぁ。安全な物を安心して食べてほしいもんだ』


 そうリームは思う。それをずっと考えていた。


 それから、数ヶ月後。その光属性を持つ皇子の1歳の誕生日を前に、専属の料理人を募集すると発表された。

 今迄の皇子には専属の料理人なんていなかった。城の料理人が作っていた。

 それだけ、狙われているのだろう。専属の料理人を決めて、下手な事は出来ない様にする為なのかも知れない。


 その募集を知ってリームは悩む。食は基本だ。身体を作り成長する為に欠かせない。当然だ。

 そこを狙われると、騎士である自分にはどうしようもない。

 自分なら……料理も作れる。護衛も出来る……しかし。今更、料理人になるなんて……リームは悩み続ける。


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