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352ー密入国

いつも読んで頂き有難う御座います!

昨日は1話しか投稿出来ませんでした。申し訳ないです。

あと少しで第5章が終わります。

第6章は最後の章になります。

此処まで読んで下さり有難う御座います!

本当に感謝しております。

「こちらに来たのは、私と妻だけです。が、今は娘がいます」

「エルツ、奥さんも狼獣人なの?」

「はい。妻も同じ狼獣人ですが、純血種ではありません。ニヴァーナ神皇国には純血種はいない筈です」


 そうか。やはり、純血種は希少なんだな。


「希少と言うよりも、捕獲されます。狼獣人や希少種に限らず、獣人は全て捕獲対象で捕まったら奴隷にされます」


 なんだと!? 捕獲だと!?


「リリ」

「兄さま、すみません。でも、捕獲なんて……! しかも奴隷にされるなんて!」

「リリアス殿下、ニヴァーナ神皇国では当たり前の事です。あの国では、人間こそ唯一の神の子供なんです。いえ、人間でも魔法が使えないと捨てられます」


 なんだと! 人を捨てるだと! 魔法が使えない位で、人を捨てるのか! 命なんだぞ!

 そんな事をしていてどこが神の子なんだよ!

 俺は思わず膝に置いていた手を握りしめてしまった。


「リリ。落ち着きなさい」

「兄さま……許せないです。命を何だと思っているのですか!」


 いかん、俺のへちょい涙腺が壊れそうだ。


「俺は……大変でしたし、死ぬ思いをしましたが、それでもこの国に来れて良かったと思っています。

 子爵に出会って運が良かったのです。向こうにいた頃よりずっと安全で暮らしが楽ですから」


 エルツと奥さんが、山脈を越えたのはたまたま夏だった。それでも、山頂付近は吹雪いていたそうだ。

 2人で身体を寄せ合い狼に獣化し、なんとか越えたそうだ。

 しかし、奥さんは力尽きて歩けなくなってしまった。獣化する力も残っておらず、最後の力を振り絞って奥さんを背負い街道らしき道に出て村を目指した。

 そこで、偶然馬車で通り掛かったビリューザ子爵に助けられたそうだ。


「あの時、エルツ達はそんな事があったのか……」


 子爵は驚きを隠せない様だ。


「2人共、ボロボロでした。エルツはまだ歩けていましたが、奥さんは酷い状態だったのです。緊急処置でポーションを飲ませましたが、これは一刻も早く回復魔法と治療をと思い、オリクト鉱山に引き返したのを覚えています」


 よく回復魔法を使える者がいたもんだ。良かったよ。


「しかし……私達は密入国者です。お咎めがあっても仕方ありません」


 そうか。エルツは入国手続きをしていないからな。でも、もうちゃんと10年も働いてるんだぜ。クーファル、どうする?


「伯爵は、どう思っているんだ?」

「私は……エルツはよくやってくれています。鉱夫長を任せている位ですから。この鉱山に必要な者だと思っております」

「では、子爵は?」

「クーファル殿下。私も伯爵様と同じ意見です。助けた時は、何か事情があるのだろうとは思いましたが、敢えて聞きませんでした。よっぽど辛い思いをしたのだろうと思いまして。働いてもらう事にしたのも、心配だったからです、

 エルツと知り合った頃、まだ管理に不安で山脈近くのオリクト鉱山まで視察に出掛けた帰りだったのです。あれからずっとエルツには助けてもらってます」

「そうか」

「兄さま?」

「エルツ。帝国の法では、例えば他国から入国して引き続き5年以上帝国に住んでいたと証明できることが帝国民になる条件なんだ。しかし、エルツは入国したと言う書類がない。証明するものがね。娘さんがいると言ったね。何歳になるんだ?」

「8歳です」

「帝国では、10歳から初等教育を受ける事が義務付けられている。しかし、このままでは娘さんは教育を受けられない」


 でも、10年この鉱山で働いているのだから、それが証明にならないか?


「リリ、密入国だと入国自体が確認できないんだ」

「でも、兄さま。なんとかなりませんか?」

「状況が状況だからね。申請書を出してもらおう。今話してくれた事を正直に書いて、帝国民だと認めてもらうんだ。その為に、伯爵と子爵に実際に10年この鉱山で雇用していたと証明して貰わなければならない」

「クーファル殿下、私達で証明になるのなら、いくらでも致します」

「本当は帝国に逃げて来た時に事情を話して入国申請をすれば良かったんだ。帝国は命懸けで逃げて来た者を追い返したりはしない。今から遡って10年住んでいたと証明しなければならない。時間が掛かるだろうが、手続きをする方が良い。娘さんの為にもね。それに、ちゃんと帝国民として認められておく方が安心だろう?」

「クーファル殿下、有難う御座います」

「伯爵、礼を言われるのはまだ早い。帝国でも獣人の差別意識が全くないとは言えないんだ。残念だけどね。

 リュカがリリアスに命を助けられたと言っていただろう? リュカも7年前に、違法奴隷商に捕まったんだ。帝国では、奴隷の売買は認めていない」


 そうだな。帝国での奴隷は犯罪奴隷だけだからな。罪を犯した為に奴隷となって一生労働する刑罰を受けている者が犯罪奴隷だ。

 帝国では、それ以外の奴隷は認めていない。だから、奴隷商自体が違法なんだ。


「あの……」

「リュカ、どうしたの?」

「その、ニヴァーナ新皇国には獣人はまだいるのですか?」

「エルツ、知ってる?」

「いえ、私には分かりません。いたとしても、皆人間の振りをして紛れて暮らしていると思います。人間達に、見つからない様にです。私と妻が知り合ったのは本当に偶然なのです」

「そうか。リュカどうしたの?」


 何か言いたげなリュカを見る。


「あの、エルツさん。この国でも狼獣人は少ないんです。俺の村は狼獣人だけの村で、純血種が残ってます。

 もし……その、何かあったら是非頼って下さい。伯爵様や子爵様がおられるので、余計なお世話だとは思いますが」

「いえ、リュカさん。ありがとうございます。同じ狼獣人に会えるのは嬉しいです。しかも、純血種がリュカさんの他にも残っているとは。話には聞いてましたが、もう純血種はいないと思ってましたから。是非、1度行ってみたいです。宜しくお願いします」

「こちらこそ! よく山脈を越えて来られました。無事で良かったです。いつでも村に遊びにいらして下さい! みんな、歓迎してくれると思います」

「ありがとう! 同じ狼獣人に会えるとは思いませんでした。嬉しいです」


 良かった、良かった。


「エルツは、リュカに気付かなかったの?」

「リリアス殿下、純血種に気付かない筈がありません。驚いて言葉が出ませんでした。しかし……以前、ニヴァーナ神皇国で獣人だからと迫害された事を思うと言い出せませんでした」

「エルツ、さっきも言ったがこの国でも差別が全くない訳ではない。用心するに越した事はない。滅多な事では獣化しない方が良い」

「はい、クーファル殿下。分かりました。

 ビスマス伯爵様、ビリューザ子爵様、ご面倒をお掛けして申し訳ありません。宜しくお願いします」

「ああ、エルツ。任せなさい」

「エルツ、これからも宜しく頼むよ」

「はい。ありがとうございます!」


 リュカの気掛かりは一件落着かな。良かったな。


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