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350/437

350ー脳筋とご婦人

 ビスマス伯爵邸に来ている。

 ……俺は何故かビリューザ子爵に手合わせをさせられている。もちろん、木剣でだ。


「リリアス殿下! まだまだ!」

「もう! ボクはいいですって!」


 ――カン! カン!


「殿下! 本気で来て下さい!」

「もう! 仕様がないなー!」


 あー、もう。いい加減にしようぜ。

 俺は踏み込み一気に斬りつける。子爵が降り下ろした木刀を、下から思い切り振り払った。


 ――カーンッ!


 木剣が、子爵の手から落ちた。


「いやぁ、リリアス殿下。降参です。お強い」

「子爵も、なかなかです」


 良かった。勝ったぜ。


「殿下! マジですか!? 超強いじゃないですか!」


 ハルコス、俺で強いなんて言ってたら駄目だね。


「ハルコス、ボクはまだまだだよ。オクソールなんて鬼強いからね」

「いや、俺はまだ親父に勝てませんから」

「ハルコス、大丈夫?」

「リリアス殿下、そんな目で見ないで下さい。俺、立場がないです」


 アハハハ。まあ、頑張るんだね。


「リリアス殿下、まだ甘いですね。城に戻ったら鍛練しませんと」


 ほら、オクソールの脳筋が発動したよ。


「オク、ボクはまだ10歳だからね。分かってる?」

「何を当たり前な事を仰っているのですか? 殿下の御歳位、存じてます」


 いや、そんな意味じゃなくてさ。


「さあ、皆さん。夕食のご用意が出来ましたよ!」


 シェフだ。いつも良いタイミングだよ。


「シェフ、お腹空いたー!」

「はい! 殿下! 最近、猪肉等肉が続いてましたから、今日はシーフードにしました」


 シーフードグラタンに海老フライ、牡蠣フライもある。


「シェフ、辺境伯領の?」

「はい、そうです。シーフードだけでなく、ミルクもチーズもです」

「うわ、絶対に美味しいよ!」


 俺は、まずグラタンにフォークを入れた。ホワイトソースがトロットロでチーズが伸びて糸をひく。

 

「ハフッ、ハフッ……んまぁ〜い!」

「アハハハ、リリは本当に美味しそうに食べるね」

「兄さま。美味しそうじゃなくて、美味しいんです!」

「ああ。シェフの料理は本当に美味しい」

「有難うございます!」


 伯爵や子爵が不思議そうに料理を見ている。女性陣はもうグラタンに夢中だ。


「リリアス殿下、辺境伯領の物なのですか?」

「うん、そうなんだって」

「辺境伯領の物がどうやって……?」


 伯爵が不思議に思っている。そりゃそうだよな。


「伯爵、食べないと冷めちゃうよ?」

「リリアス殿下、辺境伯領からこの様な食料をどうやって? と、思うと」


 俺はクーファルを見る。言っても良いのかな?


「まあ! このフライに添えてあるソースですか? とっても美味しいです。海老フライに合いますね」

「カーミェニ、そうなのか?」


 カーミェニとは、ビスマス伯爵の奥様ね。カーミェニ・ビスマス。セルジャンのお母さんだ。

 鳶色の髪に焦茶色の瞳。キュートな感じ。ん〜、セルジャンはどっちかと言うと、父親似かな?


「それはタルタルソースと言います。それも辺境伯領の卵を使っているんじゃないかな?」

「リリアス殿下、卵ですか?」

「うん。卵とマヨとピクルスを混ぜるの」

「マ、マヨ?? いやそれよりも、殿下! お教え下さい。どうやってあんな遠い辺境伯領のものが?」

「リリ」

「兄さま、良いですか?」

「ああ」

「伯爵、シェフはマジックバッグを持っているんだ。中に入れた物は時間経過がないんだよ」

「マジックバッグですか! しかし、マジックバッグは貴重ですから。やはり、城のシェフは違いますね」

「え? そう? ボクが作ったんだけど。シェフだけじゃなくて、みんな持ってるよ? 騎士団も全員持ってる」

「リリアス殿下! 本当ですか!?」


 ハルコスが食い付いてきた。どうした? そんなに珍しい事か?


「え? ハル、本当だけど」


 ほら、コレ。と、腰に付けている小さなポーチを見せた。


「えッ!? こんなに小さいのですか?」

「うん。剣帯に付けてるの。剣を使う時に邪魔にならないでしょ?」

「殿下、それはどれ位入るのですか?」

「伯爵、これでこの部屋二つ分位かな? 分かんない」

「へ、部屋二つ分ですか!?」


 そりゃそうさ。マジックバッグだからな。沢山入るからマジックバッグと言うんだぞ。


「シェフ、後でレシピを教えて頂けますか?」

「奥様、もちろん構いませんよ」

「まあ、嬉しい!」

「奥様、このタルタルソース良いですわね」

「カスディール、そうでしょう? フライにとても合うわよね?」


 カスディールは、子爵の奥様だね。鉱山でお茶を出してくれた。ハルコスのお母さん。

 女性陣と男性陣とで、話がバラバラだな。俺は食べる事に集中しよう。


「殿下、関係ない様な顔をしないで下さい」

「え? ハル、何?」

「食べ物もマジックバッグも殿下ですよね」

「え? シェフでしょ?」

「いやいや、リリアス殿下。何言ってるんですか」

「それより、食べないと本当に冷めちゃうよ? 美味しいのに」

「あー……はい、そうですね。頂きます」

 

 そうそう。温かいうちに食べようぜ。

 でもさ、ハルコス良い奴じゃん。明るくてアッサリしていてさ。ちょっとルティーナ嬢の父親がやらかしてしまったけど、2人で幸せになってほしいな。


 俺は、食事を終えて使わせてもらう部屋に戻ってきた。


「あら、ニル。ユキはまだ食べてるの?」

「はい。そうなんです。そろそろ戻ってくると思いますが」

「殿下、宜しいでしょうか?」


 リュカが入ってきた。どうしたんだ?


「リュカ、いいよ」

「あの、実は。昼間鉱山を案内していた鉱夫長のエルツを覚えておられますか?」


 鉱夫長のエルツ……あー、思い出した。ダークシルバーのロン毛を無造作に後ろで纏めていた細マッチョだ。


「うん、カッコいいロン毛の細マッチョ」

「は? 細……?」

「ああ、いいから。リュカ、そのエルツがどうしたの?」

「その……狼獣人ではないかと」

「え? そうなの?」

「はい、多分。しかし、この地域に狼獣人がいるとは聞いていなかったので、半信半疑なのですが」

「もし、そうなら放っておけないよね? 明日、確認してみよう」

「はい。殿下、お願いします。狼獣人なら、話しておきたいです」

「うん、分かった」

「有難うございます」


 狼獣人かぁ。兄さまは知っているのかな? 明日、聞いてみよう。

 

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