349ー脳筋親子
「殿下、こんなにあるのですか?」
「はい。まだまだですね。金が全然採掘できてませんね」
俺は鉱山の地図を示す。
「もうこの鉱山にはないと思っておりました」
「どこもそうですが、鉱脈からズレた場所を掘っていても出ないのでそう思ってしまいますね。でも、ありますよ。ミスリルだって沢山ある」
「なんと素晴らしい!」
「アハハハ。伯爵、まだまだ安泰ですね」
「殿下、有難い事なのですが……しかし今でも充分なのです」
まあ、なんて欲のない。捕まえた伯爵や男爵に聞かせてやりたいぜ。
「鉱夫の健康や体力、労働時間などを考えるとそう増産は出来ません」
「それでいい」
「クーファル殿下?」
「あるからと言って急いで無理に採掘する必要はない。ここにあると、採掘出来ると分かっていれば良いのだ。
まあ、ミスリルは少し掘って欲しいがね。憲兵隊員達が期待しているからね。クフフ」
クーファルが含み笑いをする。意地悪そうな顔してるよぉ。イケメンはどんな顔をしていても、イケメンだ。
「兄さま、そうですね」
「クーファル殿下、騎士団ではなく憲兵隊ですか?」
「ああ。実は騎士団と近衛師団はもう既にミスリルの剣を全隊員に配備している」
「なんと!」
「ミスリル鉱脈を見つけたのがリリと私だったから、先に騎士団と近衛師団に貰ったんだ。特殊部隊にも配布したものだから、憲兵隊総長が、それは悔しがっていてね。ハハハ」
ハハハじゃねーよ。てか、特殊部隊て何だ? そんなのあるのかよ。俺、見た事ないぜ? セティの顔が頭に浮かぶのは何故だろう? いや、考えるのは止めておこう。
「それはそれは。騎士団が持っているなら欲しいでしょうな」
「みたいだね。私やリリも、そこのオクソールやリュカもミスリルの剣だ」
「おお! 是非とも一度お見せ願えませんか!?」
「まあ、とにかく出よう」
鉱山を出たら、ハルコスが待っていた。
「殿下、先日は有難うございました」
「ハル、来たんだね。兄さま、紹介します。噂のハルです」
「そうか。君がハルか」
「クーファル殿下、初めてお目に掛かります。リリアス殿下、噂って何ですか?」
「ルティの婚約者、て噂だよ」
「あー、その……はい。お世話になりました」
アハハハ、赤くなってるよ。
「ハル、殿下や護衛の方の剣がミスリルなんだそうだ!」
「えッ!? 親父、本当かよ! リリアス殿下、そうなのですか!?」
「うん。そうだよ。リュカ、見せてあげて」
「はい、殿下」
リュカがシャキーンと良い音をたてて剣を抜いた。
「おおー!!」
「スゲー! これがミスリル!」
アハハハ! 親子で感動してるよ。ハルコスなんて舐める様に見ている。
「ハルコス様、持ってみられますか?」
リュカが聞いた。良いのかよ?
「えッ!? いえ! そんな事はできません! リュカさんの剣ですから! 見せて頂けただけで充分です! 有難うございます!」
おぉー! 分かってるじゃん! 剣は大切だからね。無闇に人の剣を手にとったりしない。ハルコスはそれを分かっている。ね、リュカ。リュカを見るとニコッとして頷いた。
「本当に騎士団を目指しておられるのですね」
「リュカさん、もちろんです!」
「ハル、騎士団は皆ミスリルの剣だそうだ」
「親父! 本当かよ? マジですか!?」
ハルコスがリュカを見つめた。
「はい。騎士団は皆ミスリルですよ」
「うわッ! 俺、絶対に騎士団に入ります! そしたらリュカさん、宜しくお願いします!」
「もちろんです。と、言っても私やオクソール様は正確には騎士団ではないのです」
「そうなのですか?」
「オクとリュカはボクの護衛だから」
「そうでした。素晴らしい」
「毎日、騎士団と一緒に鍛練していますが。リリアス殿下もですね」
「殿下も鍛練されるのですか?」
「ハル。オクは容赦ないからね。ボク、未だに毎日半分死んでるから」
「アハハハ! 半分ですか!? では、俺だと完全に死にますね」
「何でよ! 逆じゃん!」
思わずバシッと手でも突っ込んでしまったぜ。叩いてはないよ。
「いえ、俺はまだリリアス殿下より弱いです。先日の噂を聞いてそう思いました」
「うわ、止めて」
「噂はどうあれ、リリは強いよ」
「兄さままで止めて下さい!」
「アハハハ。リリはどうしてそうかな? 堂々としていれば良い」
「えー、兄さま。無理です」
「殿下方、どうぞお茶をご用意しましょう」
「ああ、有難う」
また最初の事務所に戻る。
クーファルが再度注意事項を確認して、調査は終了だ。
「殿下、本日は是非私の邸へお越し下さい。妻が殿下のシェフにお会いするのを楽しみにしております」
え? 伯爵の奥さんが!? シェフまで噂になってんのか?
「リリアス殿下、先日お土産で頂いたマカロンですよ。伯爵の奥様と母が一緒に食べたらしいです」
「あぁ〜。ハル、なるほど」
「それに、あの時に頂いた夕食も絶品でした。食べた事のない料理でしたから」
そうだろ、そうだろ。シェフの料理は超美味しいからな!
「あ、ハル。シェフもミスリルだ」
「えッ!? 包丁がですか!?」
「なんでだよ! 剣だよ、剣!」
「アハハハ! ビックリしました!」
こっちがビックリしたぜ。ハルて、もしかして天然か? 俺、ツッコミばかりはキツイぜ!
「リリアス殿下のシェフは剣も使えるのですね」
「ハル、シェフはオクの次に強いの。戦うシェフなんだ」
「またまた。リリアス殿下」
「いや、マジだよ?」
ハルコスがリュカを見る。
「はい。その通りです」
ハルコスが今度はクーファルを見る。
「そうだね。強いよ」
「クーファル殿下、本当ですか!?」
「ああ。リリの周りは皆強い。そこにいるリリの侍女も、君より強いかも知れないね」
「…………!!」
あー、クーファル言い過ぎだ。ハルコスが固まってるよ。戻ってこーい!
「リリ、本当の事だからね。現実を知るのも大切だ」
何だよ、クーファル。面白がってるな?
フレイと言い、クーファルと言い、ドSだよ。皇子はドS属性が標準装備なのか!? いやいや、俺は普通だよ? ごくごく普通さ。
「アハハハ! ハル! お前まだまだだな!」
「親父、煩いよ!」
「アハハハ! そりゃハル、未だに親父さんに勝てないんだから」
「うわ! 伯爵! それは言わないで下さい!」
え? マジ!? ハルコス、騎士団目指していて大丈夫か?
「あー、じゃあリリの方が強いか?」
クーファル、止めて。これ以上虐めるのは止めてあげて!
「いや、リリ。真剣だよ?」
マジかよー! ハルコス頑張ろうぜ!
「いやぁ、一度リリアス殿下にお手合わせ願いたいですな!」
ハルコスのお父さん、もう騎士目指すの辞めたんでしょ? 何歳なんだよ。何、手合わせとか言ってんだよ! 脳筋かよ! 未だに脳筋なのかよ!
「子爵、リリは強いよ?」
「そうですか!? それは楽しみだ! アハハハ!」
本当、脳筋は勘弁だ。