343ー馬鹿男爵
リュカが男達の前に出る。
「何スか? あんた達」
「お前何だ!? 貴族に向かってその口のきき方は失礼だぞ!」
「あんた貴族ですか? この村に何の用スか?」
「ここは私の村だ! 何をしようと勝手だろ! 引っ込んでろ!」
私の村? て、事は例の男爵か? ザントス男爵だっけ?
俺は、ラルクにオクソールに連絡するよう合図する。
「これは失礼しました。もしやこの村を治めておられる男爵様でしょうか?」
レピオスがリュカを控えさせて話をする。
「ああ、そうだ。この薬草はどうしてこうなった?」
「さあ、私には分かりかねますが。村長に聞かれたら如何でしょう?」
「村長か。そうだな。昨夜は何もなかったのか?」
「私は気付きませんでしたが。何かあったのですか?」
「いや、知らないならいい。クソ、伯爵の奴何してんだ!」
あー、もう嫌になる位馬鹿だな。わざわざ、確認しに来たのか? 何も知らないのか?
「皆さん、少しずつ後ろに下がって下さい」
リュカがこっそりと指示を出す。
「ねえリュカ、バインドしちゃう?」
「殿下、何で今度はそんなイケイケなんスか?」
俺はリュカとコソコソと話す。
「だって、もう決まりじゃない? 面倒じゃん」
「殿下、もうオクソール様が来ますから」
分かってるけどさぁ。あー、来た来た、騎士団も来たよ。もう男爵を挟み込んでるよ。
「なんだ、そこのガキ。何コソコソやってるんだ!」
男爵がこっちに向かって歩き出した時だ。
――シャキーン!!
「そこまでだ。動くな」
オクソールが男爵に剣を向けている。騎士団が静かに男爵達を取り囲んだ。
どうやって移動したんだ? はえ〜な!
「な、な、なんなんだ! お前達は何だ!」
「おや、見て分かりませんか? 騎士団の隊服を見た事はありませんか?」
レピオスが畳み掛ける。
「騎士団だと!」
そこでやっと男爵らしき男は自分達の周りを見る。囲まれているのに、気付かなかったのか? 鈍い奴だな。
「もしや、オクソール様ですか!?」
男爵の後ろにいた一人の男が話し出した。
「ああ。そうだが」
「私は無理矢理従わされていたのです! 家族を人質にとられて! 仕方なくなんです!」
「おま、お前!? 何言ってんだ!」
男爵、もう慌てまくりだよね。吃ってるよ。
「私が! 私がすべてお話し致します! ですので家族を! 妻と娘を助けて頂けませんか!」
マジか? マジなのか? 俺はてっきり罪を逃れたくて言ってるのかと思っていたぜ?
「それはこれから裏をとる。お前達を拘束する。騎士団」
オクソールがそう言うと、騎士団が素早く3人の男達を拘束した。
「何だ!? 何をする! 私は男爵だぞ!」
「ザントス男爵か?」
「そうだ! 男爵にこの様な事をして許されると思っているのか!」
「ザントス男爵。お前には麻薬取引の容疑が掛かっている。同行してもらう」
「なんだと!? 伯爵は!? ペブルス伯爵はどうした!? 私はペブルス伯爵にやらされたんだ!」
「言い訳は取り調べでするといい。騎士団、連行しろ」
屈強な騎士団に敵う訳もなく、男爵達は連行された。
「何あれ。本当にどうしようもないね」
「殿下、まだペブルス伯爵が捕らえられておりません。用心して下さい」
「行方が分からないの?」
「どうでしょう? そろそろ残りの騎士団が邸に踏み込んでいる頃だと思います」
そうなのか。伯爵て、でも私兵を持ってるみたいだしな。
「殿下、そんな奴等に騎士団は負けません」
まあ、そうだよな。
「ああ、殿下。ちょうど報告が入りましたよ」
オクソールに騎士団から報告だ。魔道具をフル活用してくれているようで嬉しいよ。
作った甲斐があった、てもんだよ。
「ペブルス伯爵を拘束しました。邸を制圧した様です。しかし、長男のルーペス・ペブルスの所在が分からないそうです」
「オク、ザントス男爵の邸はどうなってるの?」
「はい。そっちも帝都でセティ様が動いて下さっています」
セティかよ。コエーな。容赦ないだろうな。
「レピオス、どうしたの?」
レピオスがしゃがみ込んで薬草を見ている。
「殿下、このアカザですが。花は散っていますが、葉は大丈夫の様ですね」
「そう?」
「はい。この葉は乾燥させてから出荷しているのでしょうか?」
「どっちも出荷している筈です。乾燥した葉とそうでない葉と両方だと思います」
キース、よく知ってるなぁ。えらいよ。
「なら、乾燥させるのは問題ないのですが、そうでないものは早く出荷する方が良いですね。植物とは不思議なもので、花が散ると枯れるのが早くなるのですよ」
へえ〜、知らなかった。
「じゃあ、親父達に言っておかないと」
俺達は、のんびりとキースの家に戻る。
「伯爵の息子、ルーペス・ペブルスだっけ? まだこっちにいるのかな? 男爵令嬢と一緒だったりして」
「案外そうかもな」
「キースもそう思う?」
「ええ、リリ殿下。だってイルの家に押し掛けてたんだろう?」
「なんだよ、まさか呑気に男爵令嬢と一緒だってのか?」
「イル、そうかもよ」
「うん。ボクもそう思うな」
「本当に、姉様が婚約破棄されていて良かったよ。あんな奴に嫁いだって、不幸にしかならないよ」
「あ、そうだ。イル。お姉さんが言ってた、ハルてどうなの?」
「殿下、どうとは? どう言う意味でしょう?」
「もちろん、お姉さんのお相手にだよ」
「僕は大賛成ですよ。と、言うか。僕も母も姉はハル兄と婚姻すると思っていましたから。それがある日突然父があの馬鹿息子との婚約を承諾してきたのです」
「そうなの? お父さんどうしちゃったんだろうね」
「父は、酒に弱いんです。ある日凄い酔っ払って帰ってきたと思ったら、姉の婚約を決めてきたのです。あれは、嵌められたのではないかと、母と僕は思ってます」
「えッ!? よくそれで承諾したね?」
「当の姉が、放っておけと言うので」
「そうなの?」
「はい。もしかしたら姉は、遅かれ早かれ破談になると予想していたのかも知れませんね」
いやいや、だとしてもだ。万が一、破談にならなかったらどうするつもりだったんだよ。賭けみたいなもんじゃねーか。
「姉は度胸があると言うか、動じないと言うか、鈍いと言うか」
あー、全部紙一重だよね〜。