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34/437

34ールーがキレた。

 そして俺が大泣きした余波はまだ続く。


 ルーが、キレたらしい。

 しかも、皇帝と第1皇子フレイ、第2皇子クーファル、主要貴族達が集まる会議で。


「陛下、そちらの方は一体…… 」


 上位貴族であろう一人の男が聞いた。


「皆、座りなさい。ルー様」


 皇帝が横に外れ、皇子や側近、従者達と共に頭を下げ控える。



「私は、第5皇子リリアス・ド・アーサヘイムを守護し加護を授けた光の精霊だ。リリアスに名をもらったルーと申す。何処ぞの神話で太陽神、光の神と言う意味らしい。今日はお主らに一言あって参った」


 ルーはいつもの白い鳥の姿ではなく、人の姿だった。

 真っ白な衣装に、真っ白なヴェール。髪は金糸の様に煌めき、瞳も金色なのに透ける様だ。一眼で人ではないと分かる美しさと風格。そして僅かに身体が光っている様にも見える。その上話し出すと、心に響く様で威厳がある。


「よいか、人間共。光の神をこれ以上侮るでない」


 貴族達が呆然と座っている中、一人の貴族が徐に席を立ち跪き頭を下げた。その貴族に光の精霊は声を掛けた。


「其方、何をしておる?」

「光の精霊様、お目に掛かれて光栄にございます。私はこの帝国で辺境の地をお守りしておりますアラウィン・サウエルと申します。皇帝陛下とは学友でありました」


 アラウィン・サウエル辺境伯。皇帝と同じ学園に在籍し学友だった男。

 ブルーシルバーの長い髪を無造作に纏め、屈強な身体に端正な顔立ち蒼い眼が鋭く光り、如何にも只者ではないと思わせる男だ。


「恐れながら、辺境を守っておりますと、リリアス殿下のご存在の大きさがよく分かります。殿下がお生まれになられてから、明らかに魔物の害が減っております。光の神のご加護だと、お生まれになられて心より喜びまた安堵しておりました。辺境の地にも『光の樹』と言い伝えられている樹木がございます。『光の大樹』程では御座いませんが、我が邸の裏庭に立派な樹木が5本並んでおります。その5本の樹に、先日突然真っ白な蕾が膨らみだし翌日には満開に咲いておりました。今もまだ咲き続けております。陛下にその事をご報告致しました所、リリアス殿下が『光の大樹』に花を咲かせられた日と同日だと判明致しました。私は陛下と共に、なんと有難い事であろうと、感嘆致しました。この皇子殿下を大切に守り育てなければと。お聞きしたところに寄りますと、殿下は大層慈悲深くお優しい利発なお方だとお伺い致しました。本日、光の精霊様がこの様に我々の前に姿をお見せになり、先程の様な話をしなければならない程、失礼な行いをした者がいるのだと推測致しました。大変……心より大変申し訳なく思う次第でございます」


 いつの間にか、皇帝自身とその後ろに立ち並んでいた皇子、側近、侍従全ての者達が跪き頭を下げていた。

 大半の貴族達は気付かず、席に座ったまま光の精霊ルーを見つめ呆然としている。数人の者が気付き慌てて跪いていた。そんな中、ルーは言葉を発した。


「そうか。其方の様な者もおったか。その花が散っても気にするでないぞ。あれは私がリリアスの魔力量を推し量る為にやらせた遊びだ。他意はない。私もまさか花を咲かせるとは思わなんだ。まるで初代を見ておる様だった」


 おぉ〜……初代とは……と、騒めきが起こる。


「そのリリアスに害をなす者がおる」


 ルーの目つきと、纏う空気が一変した。


「あの小さい身体を震わせ大粒の涙を流し、声を殺しながら泣くリリアスを私は何度も見た。リリアスは自分が悪いと言う。自分がいなければ、平和な生活を奪われ利用され酷い目に合わされる人はいないとな。だから自分は城に籠ると。だから自分の事は死んだ事にしてくれと……3歳の幼な子が涙を流しながら言うのだ! お主らは、これがどの様な思いからの言葉か分かるか!」


 広い会議室が張り詰めた空気に包まれた。


「まだ3歳じゃ。らりるれろも真面に言えない幼な子が、そう言って泣くのだぞ! 自分は死んだ事にしてくれとな!! リリアスは自分だけでは無い、周りも無事で笑っていないと良しとしない。3歳の幼児がだ。なのに……なのに、お主ら大人は何をしておる! 我が身が良ければ、他人や国はどうでも良いか!? 己が満足できれば民達はどうでもよいか!? 光の神はその様な心根の者を守護はせぬぞ! 良いか、確と覚えておくが良い。私が加護を授けたリリアスに、今後指一本でも触れてみよ。私が許さぬぞ。私が即刻、一族諸共滅ぼしてくれよう。そして、リリアスを害する事は、光の神を侮辱する事と同意だと心得よ。光の神を侮辱する様な事があれば、帝国を消滅させる。良いな、人間共よ。これは警告ぞ! 光の神を、舐めるなよ」


 そう言ってルーが片手を上げ会場内を見回し一振りすると、キラキラと光の微粒子が降り注いだ。そして、その直後……


「う、う、うわーー!」


 なんと、会議に出席していた高位貴族の従者の一人に、それは浮かび上がった。額に巻きつく様に、首に腕に手に脚に全身に、黒いイバラの印が浮かび上がったのだ。その従者に向かってルーは言った。


「そこの従者。ファーギル・レイズマンに加担しておるな?」

「捕らえよ!」


 皇帝の側近セティが叫んだ。

 途端に近衛が、イバラの印が浮き上がった従者を捕らえた。


「この場におる者。リリアスに害を為そうものなら、そこの従者と同じ印が浮かびあがる。心せよ!」


 その場にいた、全ての貴族達が跪き頭を下げた。そして、ルーは光と共に消えた。


 後日、ルーは……


「超気持ちよかった! スッキリした! リリの仇はとったぞ!」


 そう言って胸を張っていた……マジかよ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] なんかこの物語すっげえすぐ涙出ますわ なんででしょう。 笑いあり涙ありで最後です! まだ読み始めてすぐですが、こっからも楽しく読ませて頂きます!
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