339ー大勝利
「オク! 離れて!」
オクが俺の声と同時に賊から距離をとる。
『サンダーストーム』
――バキバキドゴーン!!!!
大きな雷が落ちると同時に、雷をまとわせた竜巻で賊を巻き上げる。
そのまま、ユキは突っ込んで行く。前方ではオクソールが無双状態だ。
「オク、凄いなぁ!」
「殿下、見てないでご自分を守って下さい!」
ラルクが後ろで後方から向かってくる賊に斬りつけている。
「大丈夫、シールドしてるから」
そうは言っても、攻撃しない訳にはいかない。どんどん賊は突っ込んでくる。一体何人いるんだ?
『ストーンフォール』
賊の頭上に無数の石が現れ真っ直ぐに勢いよく落下する。
これでかなりの賊を気絶させられるだろう。
「リュカとシェフが心配だ」
「殿下! こちらはもう平気です! リュカの方へまわれますか!?」
「オク、分かった! ユキ!」
「ああ!」
ユキが弾かれた様に走り出した!
「うわッ! 早い!」
「殿下、しっかり捕まって下さい!」
「うん! ラルク!」
ラルクが後ろから俺の身体を支えてくれている。
サーチで確認する。あれ? もうかなり減ってるなぁ。
「ユキ! 敵の真正面に突っ込んで!」
「分かった!」
ユキが真っ直ぐ賊の前に出ながらシールドを張ってくれている。
『サンダーストーム』
敵のど真ん中に竜巻を発生させてやったぜ! 雷も纏わせているから一瞬で気絶するだろう。
「殿下!」
リュカが賊を斬り倒しながらやってきた。
「リュカ! 大丈夫!?」
「平気です! 殿下! 無茶しないで下さい!」
あれ? してないよ? 俺は、無茶なんて全然全くしてないさ。もう一発だ!
『サンダーストーム』
大半の賊が気絶して倒れた。
「殿下、半端ないですね」
ラルク、何冷静に言ってんだよ。
「もういいよね?」
「はい。粗方片付きましたね」
そう言いながらラルクはズザッと賊を斬った。おぉー! ラルクも強いなぁ!
「殿下、終わりましたね!」
シェフが剣を片手に走ってきた。
「シェフ、大丈夫!?」
「はい! 全然平気ですよ! 久しぶりに暴れました!」
マジ、シェフは怪我一つしてないぞ。
「殿下、ありがとうございます!」
「リュカ、怪我は!?」
「ありません!」
そっか。2人共、強いねー。リュカのマルチプルガードもあるしな。
「あ、あの灯り騎士団じゃないですか?」
リュカが村の入り口の方を指差す。馬に乗った一団が見える。目印にライトでも出しておくか、
俺は特大のライトをポンポンと出す。
「気付きましたね。こっちに向かってきます」
うん、俺は倒れている奴を鑑定してみるかな。
「あらら。マジ!?」
「殿下、どうしました?」
「ラルク、伯爵の関与が決定だ」
俺が何気に鑑定した賊は、ペブルス伯爵が雇い入れた者だった。
「終わりですね」
「うん。馬鹿だね。こんな事で人生を棒にふるなんて」
本当に、情けない。良い大人がさ。善悪も分からないかね。
「殿下! 終わった後みたいですね! お怪我はありませんか!?」
騎士団の隊員がやって来た。
「うん、大丈夫だよ。後は頼んだ。こいつ、ペブルス伯爵が雇った者だ」
「分かりました! 後始末はお任せ下さい! ご無事で何よりです!」
「ありがとう! じゃあ、お願いね!」
「はい!」
さあ、シェフ、リュカ、帰ろうぜ!
「オクー! 終わったー!?」
「はい! 殿下!」
オクソールが対岸から戻ってきた。
「騎士団が到着しましたか」
「うん。後始末は任せてきた。」
「私も騎士団に指示したら戻ります。殿下は戻って少しでもお休み下さい。リュカ、シェフ、頼んだ。」
「はい! オクソール様!」
「了解!」
夜の来襲は鎮圧した。後は騎士団が後始末をして、クーファルに報告してくれるだろう。
俺は、さっさと戻って寝よう。
「あ、そうだ」
『クリーン』
みんな、ドロドロだからな。このまま戻ったら迷惑かけてしまう。
「殿下、大丈夫ですか?」
「リュカ、大丈夫だよ。ありがとう」
「良かったです。伯爵家の者がいましたか」
「うん、リュカ。ペブルス伯爵も終わりだ。婚約がどうのだとか、愛人になれだとか言ってる場合じゃないよ」
「そうですか。結果的には婚約破棄していて良かったですね」
「本当だね。婚約していたら巻き込まれていたかも知れない」
おれはさぁ、少し聞いただけだけどハルて奴がお姉さんの本命だと思うんだよね。
まあ、とにかく今夜はもう寝よう。気持ちが疲れたわ。
「ラルク、戻ったら速攻で寝よう!」
「アハハハ。はい、殿下」
「ユキ、ずっとのせてくれてありがとうね」
「何、問題ない。ラルクもやるな」
「ユキ、ありがとう! 何かめちゃ嬉しいです! 初めて少しはお役に立てた気がします!」
「ラルクもありがとうね」
「殿下、当然です」
本当はさ、ラルクだってまだ子供なんだから危険な目にはあわせたくないんだ。人を斬る事に慣れてほしくないんだよなぁ。
村に戻ると、何故か大騒ぎになっていた。
「あれ? 何で?」
「殿下、そりゃあんな大きな魔法を何度もブッ放したら、普通は起きますよ」
「あらら。リュカそう?」
「そうです」
「どうしよ、リュカ。バックレちゃう?」
「何でですか! 何でそこでまたボケボケなんスか? 意味分かんねー!」
「アハハハ! リュカさん、殿下には敵いませんよ」
「ラルク様、そうですね。ユキ、このまま戻って」
「ああ」
だってさぁ、目立ちたくないじゃん? やだね。
「殿下! ご無事ですか!」
誰だよ! デカイ声で殿下とか言うなよ!
その声で外に出ていた村人達がこっちを見る。
「あー、もう。大声で誰だよー」
「殿下、イルマル様ですよ」
「ラルク、やっぱバックレない?」
「いえ、殿下。駄目ですよ」
ええ〜! ほら、みんなこっち見てるじゃん。
「殿下、ユキは目立ちますから」
「ラルク! そこ!? そこなの!? 忘れてたよ!」
「アハハハ!」
イルマルにセルジャン、キースまで外に出ている。
俺達は、皆がいるキースの家へ向かう。
――殿下って言った?
――殿下だって。
――もしかして、あれ神獣?
――じゃあ、リリアス殿下か!
――あのお年頃ならリリアス殿下だろ!
――マジ!? リリアス殿下!
――殿下! リリアス殿下!
村人達が口々に言っている。
「ラルク、ヤバイ。バレちゃってるよ」
「殿下、もう気になさる事はありません。堂々としていましょう」
「ラルク、それは開き直りだよね?」
「そうとも言いますね」
村人達に出迎えられながら、俺達は戻った。