335ー薬草
「なんだよこれ! 超美味い!」
シェフが猪肉のポトフを出してくれて、皆で昼食を食べている。キースが大絶賛だ。
「ありがとうございます! 沢山ありますからね。おかわりして下さい!」
「本当に美味いな!」
お父さんも気に入ったみたいだな。シェフの料理は絶品だからな!
「シェフさん、これは何のお肉なのかしら?」
「はい、これはこちらに来る途中で狼獣人の村に立ち寄りまして、その時に仕入れた猪肉ですよ」
「まあ! 猪肉がこんなに柔らかくなるのね! シェフさん、凄いわ!」
シェフさん、て何だよ! 笑えるぜ!
「……コクンコクコク」
「リリ様、りんごジュースより食事を」
今日はラルクもオクもリュカも一緒に食べてるんだ。みんな一緒だと美味しいぜ!
ユキも小さいままだけど、焼いた肉を食べている。
「ラルク、だってりんごジュースは美味しいの」
「先に食事ですよ」
「はーい。ちゃんと食べるよ?」
「リリ、それどっから出したんだ?」
キース、だから突っ込まないでくれ。
「え、マジックバッグだよ」
「リリもマジックバッグを持ってるのか! スゲーな!」
「そう? ボクのお手製なんだ」
「リリ! マジックバッグ作れんの!?」
「う、うん」
しまった! つい自慢しちまったぜ!
「リリ様は魔法に長けておられるんです」
「ラルク、そうなんだ!? スゲー!」
ラルク、ありがとう。ヒヤヒヤしたぜ。
「うちは商会ですから。皆持ってます。商売になりませんから」
「じゃあ、ラルクも持ってるのか?」
「はい。リリ様お手製の物を」
「スゲー! 商人てスゲーな!」
「アハハハ……」
そんな訳ないじゃん。キースが単純で良かったよ。それより、調査だ。
「この村は特産品とかあるんですか?」
「リリちゃん、さすが商人の息子さんね。この村はお花や薬草を沢山育てているのよ。お花を卸して生計を立てているの」
「お花と薬草ですか。見てみたいです」
「キース、案内してあげたら?」
「ああ。食べたら行こう」
「うん! キース、ありがとう!」
花に薬草か。フレイの奥さんシャルフローラが食い付きそうだ。
「キース、凄いな! 見事な花畑だ」
俺達は、キースの案内で村を見学している。最初にキースに連れられて来たのが、一面見事な花畑だった。
「セル、凄いだろ? ここだけじゃないんだぞ」
「他にもあるのか?」
「ああ。種類毎に分けてあるんだ。本当はこんなに咲く前に出荷して、帝都に着く頃に1番花が綺麗に咲いている状態にするんだ」
「じゃあ、ここはもう咲きすぎてんのか?」
「イル、そうだよ。でもここのは花だけじゃなくて葉と茎にも価値があるんだ」
「あ、薬草なの?」
「リリ、そうだ。さすが商人の息子だな」
『リリ、この村に嫌な匂いが微かに混じっている』
え? ユキ、どう言う事だ? 俺の腕に抱っこされたままのユキが念話で話してきた。
『以前、町の邸で匂ったのと同じだ』
町の邸……て、アレか!? 男爵のか!?
『リュカは分からないか?』
どうだろう? リュカに聞いてみよう。
「リュカ、ねえ知った匂いがない?」
「リリ様、匂いですか?」
おや? 分からないか? やっぱユキは神獣だから嗅覚も鋭くなってるのか?
「リリ様」
「オク、どうしたの?」
「兄君から連絡がありました。少し、ご報告を」
「分かった。イル、セル、ボク少し離れるよ」
「分かった。離れ過ぎない様にな」
「うん。イル、有難う」
イルマルとセルジャンがキースの気をひいてくれているうちに、俺はオクソールの話を聞く。
「兄さまが何て?」
「例の男爵の邸で押収した香についてです」
「えッ!? 今ちょうどユキが男爵の邸で匂ったのと同じ匂いがすると言っていたんだ」
「さすが神獣です。レピオス殿が分析されたそうなのですが、この村で育てられている薬草が発見されたそうです」
ドンピシャじゃねーか! ユキさん、スゲー!
「ユキ、凄いじゃん!」
「我は神獣だからな」
おや、めちゃ自慢気だ。
「オク、その薬草の詳しい情報はないの?」
「アカザと言って、赤紫の花をつけるそうです」
赤紫か……。今迄見て回った中には無いな。ちょっと聞いてみるか。
「リリ! 行くぞ!」
ああ、セルが呼んでる。
「うん! 待って!」
俺は、セル達の元へ走って戻る。
「ねえねえ、キース。他にも薬草を育ててんの?」
「なんだ、リリは薬草に興味があるのか?」
「うん! ボクね、知り合いのツテで皇宮医師に師事してるんだ!」
「リリ、スゲーな! 皇宮医師かよ!」
キース、今まで主にスゲーしか言ってないぞ?
「じゃあ、あそこかな」
「キース、あそこって?」
「今、この村を治めている例の男爵がいるだろ?」
あれだな、イルマルの姉の婚約者を誑かした男爵令嬢の父親だな。
「あの男爵が、育てる様に言ってきた薬草があるんだ」
なんだ? まさか、関わってんのか?
「小川の辺りに自生してるんだ」
「キース、見てみたい!」
「ああ、リリ。案内してやるよ」
いきなり、核心にたどり着いたか?
「キース、その男爵だけどさ」
「ああ、イル。言ってた編入費用だろ?」
「そうなんだ。そんなに儲かるのか?」
「それも、これから見せる薬草に関係すんだよ」
何だと!? そっちも核心か?
キースがどんどん村の外れの方へ歩いて行く。暫く歩くと、小川に出た。
「ここだ。ここら一帯がそうだ」
そこには、今まさにオクソールが言っていた赤紫の花が咲き乱れていた。
「マジか……!」
「リリ? どうした?」
セル、待てよ。取り敢えず鑑定だ。
『鑑定』
「キース、これ薬草なんだよね?」
「ああ。葉に滑りがあるんだけどな、生の葉を火傷,外傷,爪水虫,虫刺されや、皮膚疾患に、乾燥させたものが心臓病などに有効なんだそうだ」
「キース、詳しいね」
「ああ、リリ。商品だからな。それに男爵が煩かったからな」
「キース、どう言う事だ?」
「イル、男爵が村を治める様になって真っ先に言ったのがこの薬草を育てろ、て事なんだよ」
キースの話によると……
ある日突然、ペブルス伯爵の司令書を持って男爵が村に現れた。男爵にこの村を治めさせると言う指令書だ。
男爵の名は、ザントス男爵。例の男爵令嬢の父親だ。
ザントス男爵は予め調べていたのだろう。真っ直ぐにこの小川に向かい薬草を確認した。
そして、薬草を育てろと言った。その時一緒に、薬草を大量に持って帰ったそうだ。
しかし、キースの両親や村の人達は不審に思った。何故なら、その薬草は葉に効果があると知られている。なのに男爵は、花を大事に持って帰ったそうだ。
それまでは花は廃棄していた。昔から、この薬草の花には毒があるから地に埋めて廃棄する様に言われていたらしい。
決して、燃やしてはいけないと。