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332/442

332ー二人の少年

「ニル、やっぱ噂になるよね?」

「はい、殿下」


 学園の、しかも卒業パーティーで卒業生や関係者の面前で婚約破棄だ。噂にならない筈がない。

 よくそんな事するよ。悪意を感じるぜ。その上、愛人にしてやるから持参金を渡せなんて馬鹿げている。


「その男爵令嬢がわざと卒業パーティーでそうさせたのかも知れませんね」

「ニル、どうしてそう思うの?」

「ルティーナ様が、やってもいない事で言い掛かりをつけられたと仰ってましたから。その男爵令嬢はかなり強かで性格が悪いですね」


 あー、マジかよ。そんな事があったのに明るくて。ルティーナ、良い子だよな。

 そのハルて奴は何してんだよ。根性ないなぁ!


「殿下、仕方ないですよ。領地を持たない子爵家の長男ですから」

「ニル、そうだけどさぁ」


 ――コンコン


「殿下、失礼致します。夕食のご用意ができましたので、食堂へお越し下さい」

「有難う」


 夕食、でもシェフが作ってないんだよな?


「殿下、では参りましょう」

「うん、ラルク」


 案内された部屋に入ると伯爵と伯爵夫人、ルティーナ嬢が待っていた。


「殿下、先程はお騒がせして申し訳ありません」

「いえ、伯爵。大丈夫でしたか?」

「殿下、有難うございます。もう意味が分からなくて参りました」

「あなた、しっかりして下さい!」

「そうよ! 元々お父様が受けた婚約なんですから!」


 おや、そうなのか? もしかして、押し切られたか?


「殿下、夕食は猪肉のシチューにしました!」

「あれ? シェフが作ったの?」

「殿下、何を当たり前の事を仰っているんですか?」


 シェフが不思議そうな顔をしている。


「だって、夫人が用意して下さっていると言ってなかった?」

「はい。ですので、こちらの料理人と一緒に用意しました! 殿下のお食事は私が責任を持っておりますからね!」

「そう。楽しみだ!」

「はい! 美味しくできましたよ」

「おや、やっぱりシェフが作ったのか?」


 クーファルが入ってきた。


「兄さま、一緒に作ったそうです」

「そうか。それは良かった」

「お待たせしました! さあ、殿下。温かいうちにどうぞ」


 シェフがシチューを出してくれる。

 

「シェフ、有難う!」

「シェフ、今日もおいしそうだ」


 ロウエル伯爵に夫人、ルティーナ嬢とクーファル。皆一緒に猪肉のシチューを食べる。やっぱ食事は一人より二人、二人より大勢だ。


「シェフ、美味しいー!」

「うん。先日の猪鍋も良かったが、これも絶品だ。シェフ、美味しいよ」


「リリアス殿下、クーファル殿下有難うございます」

「これが猪肉ですか! とても猪肉とは思えません。美味しいです」

「お父様、本当ですわね。こんなシチューは初めてです」

「料理人達がシェフの料理を見て勉強になると言ってましたわ。素晴らしいですわ」


 伯爵も令嬢も夫人も絶賛だ。当然だ。シェフの料理は美味しいからな。

 沢山、シチューを食べたのにデザートは別腹なんだよな。


「ロクワットのコンポートです」

「シェフ、リュカの村で頂いてきたの?」

「リリアス殿下、よくお分かりになりますね」

「うん。リュカのお婆さんが出してくれたんだ」

「そうでしたか。村の畑の奥に沢山なってました」

「そうなんだ。近くにあるとは言ってたけど。美味しい〜!」

「アハハハ、リリ。本当に美味しそうだね」

「兄さま、本当に美味しいんです」


 そこへ執事らしき人が入ってきた。


「失礼致します。旦那様、イルマル様がお戻りになりました」

「こんな時間にか? どうしたんだ?」

「セルジャン様とご一緒です」

「そうか。クーファル殿下、リリアス殿下。息子が戻った様です。ご挨拶させて頂いても宜しいでしょうか?」

「ああ、構わない。リリもいいね?」

「はい。もちろんです」

「有難うございます」


 伯爵はそう言って、執事に目配せをする。


「では、皆様。応接室の方にお茶のご用意を致しますので、そちらにどうぞ」


 静かにお辞儀をして、執事は出て行った。


「お父様、こんな時間にどうしたんでしょう?」

「ああ、セルジャンと一緒だと言うし。何かあったのだろうか」


 俺が応接室でりんごジュースを貰っていると、執事に連れられて少年が二人入ってきた。


「父上、お食事を急がせてしまいましたか?」

「いや、もう終わったから構わない。イルマル、セルジャン、こちらはクーファル殿下とリリアス殿下だ」

「いらっしゃるとは知らずに失礼致しました!」


 そう言って、自己紹介してくれた。

 イルマル・ロウエル。ロウエル伯爵家の長男だ。金茶色の髪に栗色の瞳で、色味は母似だが、雰囲気は伯爵の方が似ているかな?

 伯爵と同じ様な眼鏡をかけているが、もしかしてこれは……眼鏡をとるとイケメンてパターンじゃねーか?

 まつ毛の長い爽やかな目元に聡明さが感じられる。


 もう一人、セルジャン・ビスマス。ビスマス鉱山のある隣の領地のビスマス伯爵家の長男だ。

 焦茶色の髪と瞳で、勝気そうな目元が印象的だ。

 二人共、16歳だそうだ。元々幼馴染な上に、同い年で一緒に学園の寮生活という事もあって仲が良いそうだ。


「イル、丁度良い。聞いて頂こう」

「セル、そうだな」


 ん? 何だ? 何かあったのか?


「クーファル殿下、リリアス殿下。姉の婚約破棄の事はご存知でしょうか?」


 イルマル、しっかりしてるよ。物怖じせずクーファルを真っ直ぐに見て話している。16歳とは思えないね。


「さっき伯爵から話を聞いたが。それがどうかしたのか?」

「クーファル兄さま、元婚約者が男爵令嬢と押しかけて来ていましたね」

「ああ。信じられない事をするね」

「その事について、聞いて頂けないでしょうか? 僕とセルジャンとで調べてきたのです」

「わざわざ調べたのか? 聞かせてもらおう」

「クーファル殿下、有難うございます」


 俺達は、イルマルとセルジャンが調べたと言う話を聞いた。


 まず二人は学園での嫌がらせについて調べてまわったそうだ。

 高等部の先輩から辿って、姉のルティーナの同級生達から話を聞いたそうだ。

 ルティーナが言っていた、制服に水を掛けて嫌がらせをしたと言うのはもちろん嘘だった。フォルセもアリバイを証言している事だしな。

 他に男爵令嬢は、ペンを折られただとか、教科書を破かれたとか、細々とした事を並べたてていたらしい。

 全て、自作自演だった事が判明した。生徒のいない時間を見計らって、実際に自分で破いたりしている場面を多数の生徒に目撃されていたそうだ。詰めが甘いぜ男爵令嬢。甘過ぎだ。


「え? 男爵令嬢て、お馬鹿なの?」

「リリ、言葉を選びなさい」

「兄さま、ごめんなさい」


 クーファルに叱られちゃったぜ。


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