330ーロウエル伯爵家
「本日は皆様、是非我が邸にお越し下さい。妻が是非にと待っております。夕食もご用意すると張り切っておりますので」
「伯爵、有難う」
今夜は伯爵邸で宿泊だぜ。夕食作ってくれなくても良いんだけどなぁ。シェフがいるから。ま、そんな訳にはいかないよな。
馬車で1時間と少し位走っただろうか。伯爵の邸に到着した。
正面に、夫人らしき女性と娘さんかな? 後は使用人達が出迎えてくれていた。
伯爵が紹介してくれた。やはり夫人と娘さんだった。嫡男の弟がいるらしいが、今は帝都の学園に通っていて寮に入っているそうだ。
テルース・ロウエル伯爵夫人。
金茶色の髪に栗色の瞳の美人さん。ロウエル伯爵と並ぶと夫人の方が背が高いんじゃないか?
いいねー。俺好きよ、こう言う夫婦さ。俺がこの先身長が伸びなくてチビだったとしても救われる気がするぜ。
ルティーナ・ロウエル伯爵令嬢。
伯爵と同じマロン色のウェーブヘアーにえんじ色の瞳のキュートな娘さんだ。
18歳だってさ。フォルセやクーファルの婚約者と同い年だね。
じゃあ、学園で一緒だったかもな。そう、思っていると伯爵が言った。
「娘のルティーナは学園でフォルセ殿下と同じクラスだったのですよ」
「そうなんだ。じゃあ、クーファル兄さまの婚約者の令嬢とも一緒だったんですね」
「リリ、そうなるか」
「はい、兄さま」
フフフン。クーファル、若い婚約者だよね。
「殿下、変な顔になってますよ」
「リュカ、なってないよ!」
「なってますね」
「ラルクまで! アハハハ」
いやぁ、世の中狭いねー。まあ、兄弟が多いからな。同級生がいっぱいだぜ。
俺達は各自の部屋に案内されてちょっと一息だ。
「あー、フカフカのお布団だ!」
俺はベッドを手でポフポフ触る。ベッドにダイブしたい気分だけどさ、鉱山に入ってきたから埃がついたら嫌だろ?
「アハハハ! 殿下、何スかそれ!」
「だってさぁ、馬車の中で寝るのが続いてたからさぁ。ベッドで寝れるのは嬉しい。
ニル、りんごジュースちょうだい」
「殿下、あれ程一気飲みは駄目ですと言っていましたのに」
と、言いながらもりんごジュースを出してくれる。ニルは優しいね!
「だってニル、美味しいんだもん。ゴクン」
「ニル、我も」
「はい、ユキ。どうぞ」
ユキはまたスープ皿の様な器にりんごジュースを入れてもらっている。
「ユキ、マジでりんごジュースに見えないよ」
「本当ですね。大きな器ですから」
「我にはちょうど良いぞ?」
「ユキ、大きいからね。晩ごはんは何かなぁ?」
「シェフの料理じゃないんですよね?」
「リュカ、そうみたいだね」
「残念ですね」
「ラルク、それを言ったら駄目だよ」
――バタンッ!
――だから、ルティを出してくれ!
「え? 何?」
「殿下、騒がしいですね。何でしょう?」
「ラルク様、ここお願いします。俺、見てきます」
「はい、リュカさん。気をつけて」
リュカが部屋を出て行った。
「ルティ、て……。令嬢の事かな?」
「殿下、そうでしょうね」
「ラルク、男の人の声だったね」
「殿下、そうですね」
なんだ? またトラブルか? もう巻き込まれるのは嫌だぜ?
とにかく俺はりんごジュースを飲もう。
「コクン……うま!」
「アハハハ、殿下。本当に好きですね」
「ラルク、当たり前じゃない。りんごジュースは大事。超大事……コクン」
静かになったな。何だったんだろう?
「殿下、着替えられますか?」
「うん、ニル」
鉱山に入って埃っぽかったからね。着替えよう。
「ラルクも着替えたら?」
「宜しいですか?」
「うん」
「では、直ぐに戻ります」
続きになっている隣の部屋にラルクは着替えに行った。隣が従者や侍女の部屋になってるんだ。
リュカ、まだかなぁ? 何だったんだろう? 俺は着替えてソファーでのんびりする。ラルクも着替えて戻ってきた。
「殿下」
「リュカ、何だったの?」
「それが……伯爵令嬢の元婚約者だそうです」
「は? 元?」
「はい。男爵令嬢と一緒に乗り込んで来ていました。その男爵令嬢を好きになったからと婚約破棄されたそうです」
「何それ!」
リュカが聞いてきた話だと……
ロウエル伯爵の令嬢、ルティーナは鉱山のあるビスマス伯爵領の向こう側、ビスマス伯爵領のお隣の領地の伯爵家長男ルーペス・ペブルスに申し込まれて学園初等部入学時に婚約したらしい。
それが、高等部に入ってからルーペスは男爵令嬢と親密になり、卒業パーティーの時に皆の前で婚約破棄を言い渡されたそうだ。
「何それ! 馬鹿じゃないの!?」
なんだそりゃ! まんま、ラノベなんかによくある話じゃねーか。実際にそんな馬鹿な事をする奴がいるんだな。
「はい。その元婚約者が愛人にしてやるから持参金を出せとか言ってくるのだそうです」
「はぁー!? なんだそいつ! 頭おかしいんじゃないの!?」
――コンコン
「誰だろ? ニル、お願い」
ニルがドアを開けた。
「殿下、御令嬢です」
え? 噂をすればだよ。何だ?
「ニル、入って頂いて」
さっき玄関で出迎えてくれたルティーナ嬢だ。
「リリアス殿下、お騒がせして申し訳ありません」
どうぞどうぞ、座ってね。ちょうどリュカから話を聞いて、ちょっと興味があったんだ。
「気にしないで下さい。大丈夫です」
「申し訳ありません。有難うございます」
「いえ、ボクよりルティーナ嬢は大丈夫ですか?」
「有難うございます。もう話が通じなくて困りました」
「ビックリですね。しかも男爵令嬢も一緒に来るとか無神経にも程があります」
「そうなんです! 殿下!」
あらら、なんか身を乗り出してきちゃったよ。ニルがお茶を出してくれる。
「学園で私が虐めたとか言われて。そんな事一度もしていないのです。一度、フォルセ殿下が庇って下さった事があるんです」
「あら、フォルセ兄さまが?」
「はい。私はフォルセ殿下と同じクラスだったのです。男爵令嬢と元婚約者は違うクラスなのですが、教室に来てまで言い掛かりをつけて来られた時に」
ニルがクッキーを勧める。シェフのクッキーだからね、美味しいよ。
「まあ、有難うございます。いただきます」
「何を言われたんですか?」
「休み時間に男爵令嬢の制服に水をかけたと」
「はぁ!? 何それ?」
「それで私の後ろの席だったフォルセ殿下が、ずっと後ろにいたけど一歩も教室を出てない。と言って下さったのです。そして、そんな馬鹿な言いがかりは止めるよう言って下さったのです。あの妖精の様な殿下が厳しくピシッと! もう嬉しくて涙が出そうでした。
まあ! このクッキー、とっても美味しいです!」
「ボクのシェフが作ったクッキーなんです。学園てそんなとこなの?」
「殿下、まさか! そんな事はありません!」
「でもお聞きしていると、そう思ってしまいますね?」
「ね、ラルクもそう思うでしょ?」
「はい」
「ああ、彼はボクの側近候補のラルクです。ボクより1歳上だから、先に学園に入学するんだよね」
「そうなんですか。決してそんな事はありませんよ。あの男爵令嬢がおかしいのです」
男爵家てそんなのばっかかよ!