328ーロウエル鉱山
遅くなりました。
本日、2話目。どーぞ!
「リリ、眠くなったら直ぐに言うんだよ」
「兄さま、もうボクはお昼寝しません」
「おや、成長しているんだね」
「もう。いつまでも子供じゃないんです!」
俺はクーファルに乗せてもらって馬で移動している。風が心地よい速さだ。
「お昼、美味しかったですね! 兄さま!」
「ああ。シェフの作る料理はどれも美味しい」
「はい! とっても美味しいです!」
「リリ、それよりも兄様には話してくれないのかな?」
「兄さま、何ですか?」
「男爵を捕らえた時に何があったんだ?」
「……兄さま。ソールが報告しているのではないのですか?」
「ああ、報告は聞いた」
ああ、やはりクーファルは知っているんだ。そして俺を心配してくれているんだ。
「兄さま……とても悲惨な状況でした」
「ああ」
「ソニアはまだマシです。先に地下に監禁されていた女性達は本当に酷い状態でした。ボクは直視できませんでした」
「ああ……」
「解毒もして、ヒールもしました。身体は癒されている筈です。でも、アンチドーテでもヒールでも彼女達の心は癒せません」
「ああ……」
「兄さま……ボクは無力でした」
「リリ……それは違う」
「いえ、兄さま。そうなんです」
「リリ」
「気付かなかった。知らなかった。被害者より助けた人がいるんだから良いだろうでは駄目なんです」
「リリ、それは無理だよ」
「兄さま、でも……」
「リリ、いいかい? 私達は全能ではない。ましてや、神ではない。私達が出来る事には限界があるんだ」
「はい。分かってます」
「リリは出来る限り助けようとした。そして、救われた人達がいるんだ。リリはちゃんと理解しているかい? 監禁されていた女性達やあの邸の者達だけでなく、前町長の家族やあの町の住民も救ったんだよ。
男爵が捕まった事で、税は元に戻される。国からの援助も出るだろう。リリが悲観する事はないんだよ」
「兄さま……」
「リリは、小さな頃から色んな事に関わってきた。色んな事を見て考えてきた。そのせいか、同年代の子達よりも色んな事に慣れている。責任感も強い。それは良い事だ。だけどね、リリ。
理不尽な事は沢山あるんだ。その度にリリが傷つく事はない。リリの中でうまく折り合いをつけられる様になりなさい。出来なかった事にいつまでも引きずられるのは良くない」
そうだな。分かっていた筈なんだが。前世だって、助けられる命と助けられなかった命だってある。
その事にも折り合いをつけていた筈だ。
「クーファル兄さま、分かりました」
「うん。リリは良い子だね」
季節は夏なのに、まだ爽やかな風の吹く草原を丸2日移動して俺達はやっと最初の鉱山に到着した。
「ここ迄来ると、本当に山が近いですね」
「ラルクは来た事ある?」
「いいえ、殿下。初めてです」
「ボクもだ。山脈の端っこって感じだね」
「はい。夏なのに涼しいですし」
ラルクと話しながらクーファルの元へ向かう。
今回、調査を行う鉱山は三つ。
帝都に近い順に、ロウエル鉱山、ビスマス鉱山、オリクト鉱山。鉱山がある領地を治めている伯爵家の家名が付いている。
ここが最初の鉱山、ロウエル鉱山だ。山脈の端の小さな山、て感じだ。近くに小さいが町がある。鉱山の仕事に従事している者達の町だろう。
鉱山の入り口の方に何棟かしっかりした造りの建屋がある。
鉱夫達の宿舎もあるのだろう。その建屋の一つの前で、クーファルが待っていた。
「リリ、来なさい」
「はい、兄さま」
俺は、クーファルに呼ばれて隣に並ぶ。
鉱山の責任者だろう貴族の男性がいた。
「クーファル殿下、リリアス殿下、遠路よくお越し下さいました。この地の領主を務めておりますロナード・ロウエルと申します。お見知りおき下さい」
「ロウエル伯爵だな。クーファルだ」
「初めまして、リリアスです」
「ご足労頂き有難うございます。これは、この鉱山の責任者でノゴスと言います」
「ノゴスです。私がご案内させて頂きます。宜しくお願いします」
出迎えてくれたのは、ロナード・ロウエル伯爵。
身長も高くないちょっと小太りの人の良さそうな人物だ。マロン色の短髪に赤茶色の瞳。丸い眼鏡をかけている。
ロウエル伯爵の横に一歩下がって控えている鉱山の責任者、ノゴス。
赤茶色の短髪に茶色の瞳。鉱夫と言うより、冒険者と言った方が似合う。
「事務所の方へどうぞ。こちらです」
ノゴスに案内されて、建屋の一つに入る。事務所にしているのだろう部屋の隣に、応接室の様な部屋がありそこに通された。
鉱山だからもちろん鉱夫がいる。男ばかりだ。なのに、案内された建屋は掃除が行き届いていて、事務所の中も整頓されていた。
今迄調査してきた鉱山の中でも1番清潔感があるかも知れない。
「兄さま、とても清潔感がありますね」
「そうだね。1番じゃないかな?」
「はい。ボクもそう思います」
調査が入るから目につく場所だけ慌てて掃除した訳でもないだろう。普段から気をつけていないと、この清潔感はないだろうな。良い事だ。
「鉱山とは男ばかりで、しかも重労働ですから汚れやすい場所なのです。しかし、それでは良くないと言って妻が色々気をまわしてくれております。ですので、この鉱山は女性も結構働いております。
ああ、もちろん鉱夫としてではありません。事務仕事や調理、掃除等です」
「そうなのか。それは良い事だ」
良い事だな。雇用にも繋がる。女性の働く場所が増えるのは良い事だ。
クーファルが、調査の内容を説明してくれる。注意点や禁止事項をまとめた書類も渡す。
「実際に、鉱山の中を見せてもらおうか」
「はい、クーファル殿下。ノゴス、頼むよ」
「はい、ご案内致します」
伯爵とノゴスが先導して鉱山に入る。
鉱山の中もしっかり掃除されている。何より歩きやすい。坑道がちゃんと整備されているんだ。これだと、レールを敷いて小さな人車位なら走らせられそうだ。
俺は、鑑定をしながら坑道を進む。地図に印をつけながらだ。
念の為、サーチも常時発動している。
俺が気になった箇所はオクソールも『精霊の眼』で見てくれている。