324ー解決
「お爺さん……ごめんなさい。お婆さん、ごめんなさい……ぅう……私は……村のみんなに取り返しのつかない事を。迷惑をかけたから」
「ソニア、奴隷商の手下を村まで案内した事だが、あれは不可抗力だ。相手はその道のプロだ。あの時ソニアはまだ13歳だ。見破るのは無理だ。大人でも無理だ」
ルーの言葉にソニアが顔を上げる。
「それは村の者も理解している。みんな、何とも思ってない。あの時、ソニアが無事で良かったと思っているんだ」
村長が話を続ける。
「あたし……みんなあたしに気を遣ってくれてるんだとばかり」
ソニアの目から大粒の涙が溢れ出す。
「だからソニア1人で考えても無理なんだ。純血種の事もそうだ。希少て事は少ないんだよ。それ以外の人の方が多いんだ。
そんな事、村の皆も誰も気にしていない」
「今、リュカが言った通り誰も気にしていない。純血種を残そうとはしているが。しかし、実際にソニアの父親は純血種ではない母親と婚姻しているだろ? 純血種がそれ以外の人と婚姻したいと言っても、誰も反対しない。その程度だ」
村長の言葉にまたソニアの目から涙が溢れた。
「だから、一人で考えても仕方ない事もあるんだ。お前が意地はらずに、最初から祖父ちゃんや祖母ちゃんに相談していれば良かったんだ。そうしていたら、こんな迷惑を掛けないで済んだんだ」
リュカ、たたみ込むんじゃないよ。お前もう少し優しく言ってやろうぜ?
「ソニア、お前は7年前からただ拗ねるだけで何もしてこなかった。確かめる事も、相談する事も、抗う事もな。ソニアの時間はあの時から止まったままだ。
周りを見てみな? 同年代は何してる? リュカはどうしてる? 7年もお前は何をしていたんだ」
「ルー、それは言い過ぎだよ」
「リリ、言い過ぎな事はない。私もルー様と同じ意見だ」
「兄さま」
「気持ちの問題もそうだが、勉学はどうしていた? この村の者は皆、訓練をしているが君は参加していたのかな? 村の皆に迷惑を掛けたと思っていたのなら、拗ねるのではなく違う事もできた筈だ。それを思いつかなかった事が残念だよ」
クーファルは正論だ。迷惑を掛けた分、役に立とうと言う考えもあった筈だ。
しかし、皆がクーファルの言う様に強くはない。
「ソニア、もう大丈夫よね?」
お婆さんが優しく助け舟を出す。
「はい。もう、自分がどれ程馬鹿だったかよく分かりましたから。本当に申し訳ありませんでした」
「ソニア、元気になったら一緒に頑張りましょう。7年の遅れを少しでも取り戻さないとね」
「お婆さん、ありがとう」
うん。良いんじゃないか? お婆さん、フォローありがとうだよ。
「で、リュカ。お前セレーネが好きだったのか?」
「な、なんでだよ、親父! 急に話変えんなよ! 意味分かんねーよ!」
「だって、今ソニアが言ってたろう?手を取っていたってな」
「あのなぁ、親父。俺とセレーネは同志みたいなもんだよ。小さい頃から、一緒に村を良くしようと話してた同志だよ。でも、俺は殿下に付いて行くと決めて村を出るから後は頼んだ、て話をしてただけだよ。
兄貴と好きあってるの知ってるし、そんな感情ある訳ないだろ!」
「そうか? なら良いんだが。兄弟でセレーネを取り合うのはどうかと思ってだな。ワハハハ!」
「親父、面白がってるだろ」
なんだ? そうなのか?
「じゃあ、リュカ。今は好きな人いないの?」
「殿下まで! 何言ってんスか!? 俺は今、殿下をお守りして、少しでもオクソール様やシェフに追いついてと、それだけしか考えらんないんスよ! もう、止めて下さいよ!」
「アハハハ、そうなんだ!」
リュカがめちゃ慌てている。
「リュカ、お前シェフより弱いのか?」
「親父、シェフを舐めたら駄目だ。超強いからな。なんせオクソール様の次に強いんだ。元騎士団副団長だからな」
「そうなのか!?」
「アハハハ、そうですよ。ボクのシェフは強いって言ったじゃないですか。ワイバーンだってウホウホと討伐してますから!」
「殿下! ワイバーンですか!?」
「はい、村長。あのワイバーンです」
「なんと……!」
その時だ。
「殿下! とても美味しそうな猪ですよ! 夕食は皆で猪鍋です!」
そう言いながら、シェフが帰ってきた。
皆、一斉にシェフを見る。
「おや? どうされました? 皆さん、猪鍋お嫌いですか?」
シェフ、良いタイミングだよ。最高だ。
「ボクの自慢のシェフです」
俺はそう言った。
「なるほど。素晴らしい」
シェフが訳分からなくて頭を捻っているよ。
「シェフ、猪鍋楽しみにしてるよ!」
「はい! 殿下! 腕に縒りをかけて作りますよ!」
シェフが厨房へ消えていった。
さて、もういいだろう? ルーさん。
「ああ、リリ。充分だ。爺さんの教えを守っていってほしいな」
「うん、そうだね」
「ルー様、有難う御座います」
お爺さんがルーに頭を下げた。
「心が歪んでいると物事を正確に判断できなくなる。チャンスにも気付かなくなる。周りの気持ちも見えなくなる。
良い事なんか何にもないんだ。
ソニア、よく分かったろう。君の側には理解しようとしてくれる人達がいるんだ。
それは幸せな事なんだ。これから、頑張るんだよ」
「はい……はい! ルー様!」
「クーファルもいいかな?」
「はい。ルー様が良いのであれば、私は何も言う事はありません」
「じゃあ、リリ。僕はこの辺で。今回は鉱山に行くんだろ? 気をつけて行くんだよ?」
「うん、ルー有難う」
ポンッとルーが消えた。
「リリアス殿下、驚きました。光の精霊様が出てきて下さるとは」
「村長、多分心配して出てきてくれたんだと思う」
「リリアス殿下、そうですか。本当に加護を受けておられるのですな」
「うん」
今回ルーが、心配して出てきたのは多分クーファルとミリアーナの事があったからだろうな。
そう思ってクーファルを見る。
「ああ、リリ。私もそう思うよ。有難い事だね」
クーファルがそう言った。やはりな。てか、またクーファルは俺の思っている事を読んだな。