322ー翌日
1階に行くと、ソールが来てくれていた。
「リリアス殿下、お疲れ様でした」
「ソール、後はお願い。残っている使用人達の話しを聞いてあげて欲しい」
「はい、お任せ下さい」
邸にいたごろつき達は皆護送用の馬車に乗せられていた。気絶したままの者もいる。
ソニアはリュカが一緒に馬で連れて帰るらしい。まだソニアは気が付いていない。
邸の処理を指示してから、ソールが話を聞くそうだ。
俺はオクソールの馬に乗せられて、ソニアを抱えたリュカ、フォカ、シェフ、ユキとまだ明け切らない薄明かりの中を村に戻った。
目を覚ますと知らない天井が見えた。
「殿下、お目覚めですか?」
「……ニル」
「はい。リュカの家です。昨夜はオクソール様が」
ああ、そうか。馬で寝てしまったんだ。
「リリ……大丈夫か?」
あれ? クーファルだ。どうして?
「先程からクーファル殿下が心配されて」
そうか……また、心配かけたな。
「リリ」
クーファルが、まだ起きようとしない俺の髪を優しく撫でる。
「兄さま……」
駄目だ。勝手に涙が流れ出す。
「リリが泣く事ではない。リリは助けたんだ。リリにだって無理な事はあるんだ。自分を責めてはいけないよ」
「兄さま……ゔぇ、ゔぇ。兄さま! ゔぇ〜! ヒック、ゔぇ〜!」
「リリ……済まない。またリリに辛い役目をさせてしまった」
俺は、クーファルに抱きついて声を出して泣いてしまった。
俺が何か出来る訳じゃない。分かっているが、自分の気持ちに整理がつかない。
クーファルはずっと俺を抱きしめていてくれた。リュカが聞いているとは気付かずに、俺は暫く泣いた。
「殿下……」
「リュカ、こんな所でどうした?……この声は、殿下は泣いておられるのか」
「親父。殿下は悪くないのに。何故こんな思いを……!」
「殿下は責任感がお強いのだろう。しかし、まだあんなに子供なのに」
「殿下はもっとお小さい頃からそうだ。3歳の時だって、自分のせいだと言って泣いておられた。あんな思いをしてほしくなくて、俺はお守りすると決めたのに。
まただ。また、俺は何も出来なかった。クソッ!」
「リュカ、お前も理解しないといけない。世の中にはどうしようもない事もあるんだ。割り切るしかない事もあるんだ。お前が殿下と同じ様に悔しがっていてどうする?」
「親父……」
「笑っていろ。お前らしく、能天気に笑っているんだ」
「そんな事……」
「出来ないか? それでも笑え。それが、殿下のお心を癒す事になるんだ。お守りする事になるんだ。そう思って笑え」
「親父……分かった……!」
「ヒック……グシュ……」
「リリ、落ち着いたか?」
「はい……兄さま。すみません」
「謝る事はない。まさか、こんな事件に突き当たるとは誰も予測できなかった。また、リリに辛い思いをさせてしまったね。兄様の配慮が足らなかった。ごめんよ」
「ヒック……兄さま……悪くないです」
「リリも悪くない」
「兄さま……ヒック……グシュ」
「ソニアが無事で良かった。リリには辛い思いをさせてしまったが、今回の事で一つの町が救われたんだ。それは大変な事なんだ。リリが泣いていたら、救われた町の人達が喜べないよ?」
「はい……兄さま」
「リュカや村長が心配しているよ」
「はい。兄さま、ありがとうございます」
「リリ……」
また俺はクーファルに抱きしめられた。
「さあ、皆に顔を見せてあげなさい」
俺は、ニルに手伝ってもらい着替えて身支度を済ませた。
「ふぅ〜……」
「リリアス殿下」
「ニル、大丈夫」
心配かけてはいけない。いつまでも泣いていても何も良い事はない。切り替えないとな。
俺は、皆が待つリビングに向かう為、部屋を出た。
「殿下!」
リュカがとんできた。心配そうな顔をしている。リュカの方が泣きそうな顔をしている。すまないな、有難う。
「リュカ、大丈夫だよ。ありがとう」
「殿下……皆待ってます」
「うん。ソニアはどう?」
「はい、気がつきました。まだ、身体が怠い様で休んでいます」
「そう。無事で良かった」
「殿下、ありがとうございます」
「ボクだけじゃない。みんなで力を合わせたからだよ」
リビングに入っていくと、村長やお爺さん達皆がいた。
「殿下、こちらに」
「リュカ、ありがとう。ニル」
「はい、りんごジュースです」
俺はりんごジュースを飲む。大丈夫だ。ちゃんと美味しい。味も分かる。
「殿下、ソニアを助けて頂いてありがとうございます!」
村長がそう言って頭を下げた。フォカやリュカ、皆が頭を下げている。
「村長、皆さん、止めて下さい。ボクだけではないです。村の人達や、リュカやフォカの力もあります。とにかく、無事で良かったです」
「今回の事で、ソニアも懲りたでしょう。また、殿下に助けて頂きました。感謝しております。本当に有難う御座います」
「もう村長やめて下さい」
そこへ、シェフがヒョコッと顔を出した。
「殿下! お腹が空いてませんか? 殿下のお好きなミルク粥をお作りしました!」
シェフ、有難い。救われるよ。
「うん。シェフ有難う! 食べるよ!」
「はい! お持ちします!」
「ニル、我もりんごジュースを」
「はい。ユキ待って下さい」
ニルが器を貰いに立つ。
「リリ、もう昼過ぎだ。よく寝れたかな?」
「はい、兄さま。ボクそんなに寝てましたか?」
「ああ。オクソールが抱いて帰ってきたからね。懐かしいよ」
「本当ですね。前はよくオクに抱かれて寝てしまってました」
「親父!」
フォカが慌てて玄関から入ってきた。
「リリアス殿下! お目覚めですか! 良かった!」
「フォカ、ありがとう」
「フォカ、どうした?」
「親父! 猪だ! 猪が罠に掛かった! リリアス殿下! 今夜は猪鍋食べて下さい!」
俺のミルク粥を持って来ていたシェフが動きを止めた。
「フォカ、猪か!?」
「ああ、シェフ! まだ生きてる! 見るか?」
「ああ! もちろん! 殿下、ちょっと行ってきます!」
シェフは、さっさとミルク粥をニルに渡してフォカと一緒に出て行った。
「シェフは相変わらずだね」
「はい、兄さま。さすがシェフです」
「リリアス殿下、熱いですよ」
「うん。ニル、ありがとう」
ニルに貰いミルク粥を食べる。シェフのミルク粥は優しい。ホッとする。
ユキがまたデカイ器でりんごジュースを飲んでいる。それは丼か? 丼なのか!?
「あれ? ニル、ラルクは?」
「はい。ソニアを見に行ってます」
「そうなの?」
「はい」
「リリ。ラルクもね、何も出来なかったと自分を責めているんだ。せめて、これ以上リリを煩わせたくないと言ってね」
「兄さま、そんなラルクはまだ……」
「リリより1歳上なだけだよ。リリもまだ子供だ」
「兄さま」
突然、ポンッとルーが現れた。