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321ー居た堪れない

「皆、大丈夫だから出てきてくれない?」

 

 物陰から恐る恐る使用人達が出てきた。


「男爵を拘束した。ごろつき達も全員拘束してあるから大丈夫だよ。何か知っている人がいたら話してくれないかな?

 ああ、ボクはリリアス。この国の第5皇子だ。悪い様にはしないよ」


 ――リリアス殿下……

 ――本当に……?

 ――私達、助かったの?


 一人の初老の男性が歩み出てきた。


「リリアス殿下、お初にお目に掛かります。私はこの邸の執事をしております。皆を代表してすべてお話させて頂きます」


 その執事の話は俺にとっては衝撃的だった。

 今、この邸に残っているのは最低限の人数の使用人だそうだ。

 家族を人質にとられていたり、実家に生活費を送らないといけない者、行く場所がない者、そんな者達だけが残っていた。

 今の男爵が来る迄は、町民と一緒に畑を耕す様な町長だったらしい。その前町長が突然病で亡くなった。

 その亡くなり方もおかしかった。ある日急に起きて来なくなり、次の日にはもう息が無かったそうだ。

 そして、すぐに今の男爵がごろつきを連れてやってきた。

 前町長の葬儀も出来ず、前町長の家族は追い出されてしまった。

 それから、地獄が始まったそうだ。


「私達は脅されていたとは言え、何も出来ませんでした。先に辞めて行った者も、領主様にお話しできる立場ではなく、また領主様がおられる街までも遠くどうすれば良いのか途方に暮れておりました」


 邸の執事は話を続けた。

 地下に閉じ込められていた3人の女性達は元はこの邸の使用人だった。 

 こっそり邸を出て行こうとして、見つかり閉じ込められたそうだ。

 男爵に妻子は居らず、地下に監禁していた女性達を順に手篭めにしていったそうだ。夜になると一人ずつ呼ばれ、部屋から悲鳴や助けを呼ぶ声が聞こえた。

 その内、怪しげな香を焚く様になり、女性達が朦朧としだした。その頃には男爵だけでなく、ごろつき達も女性に手を出す様になって行った。

 いつの間にか一人がいなくなると、また別の女性が監禁される。

 それが使用人の女性達の恐怖心を煽り、どんどん抵抗する気持ちが無くなっていった。

 いつ自分の番が来るか。そう怯えながら出来るだけ目につかない様にひっそりと暮らしていた。

 ある日、一人の男性の使用人が抜け出し、領主に助けを求めようとした。

 しかし、途中でごろつきに捕まり殴り殺された死体を見せつけられた。

 恐怖で支配して、心を折るんだ。抵抗する気力を奪うんだ。

 こんな奴が帝国にいたなんて。下位とは言え、貴族にいたなんて。

 どれだけ兄達皇族が指導して目を光らせてもこんな奴等はいなくならないのか。

 クソッ!かなりムカついた。


「みんな、よく今まで頑張ってくれた。無事でいてくれて良かった。もっと早く気付ければ良かったのに。遅くなってごめんね」


 情けない。これが人の上に立つ者のする事か。これが人のする事か。


「殿下、何を仰いますか。私達にも勇気が無かったのです。私達がもっと勇気を出していれば。領主様だけでなく、隣街に駆け込む事だって出来た筈です。今ならそう思えます。しかし、私達は恐怖で何も出来なく……考える事さえ出来なくなっていたのです。殿下が御心を痛められる事はありません。勿体のうございます」

「ありがとう。でも帝国で起こった事はボク達の責任だ。今迄よく耐えてくれた。こんな思いをさせて申し訳ない」


 俺は、使用人達に向かって頭を下げた。


 ――殿下……

 ――殿下、おやめください

 ――殿下、助けて頂いて感謝してます

 ――リリアス殿下

 ――殿下


「殿下、騎士団が到着しました。後はお任せ下さい」

「オク、ボクが責任を持って処理しなきゃいけない事だ」

「いえ、殿下。もう充分です。ソール様がいらしてます」

「ソールが……?」

「はい。ですのでお任せ下さい」

「分かった」


 俺はもう一度執事達に向き合う。


「これからこの邸には捜査が入る。みんなにも話を聞く事になる。それが終わるまでもう少しこの邸にいてほしい。どうか協力してほしい」

「殿下、もちろんです。私達に出来る事は協力致します」

「ありがとう。みんな、食料はあるのかな? ちゃんと食べてる?」

「大丈夫です。どうかお気になさらず」

「殿下」

「オク、分かった。じゃあ、みんな……」

 

 俺は、居た堪れなかった。ムカついて悔しくて情けなくて。言葉が出なかった。

 オクソールがヒョイと俺を抱き上げた。俺もう10歳なんだけどな。軽々と抱き上げられたよ。


「殿下、涙は我慢して下さい」


 オクソールが小さな声で俺に言う。


「オク、分かってる」

「殿下が救った者達です。どうか泣き顔ではなく、無事で良かったと安心させてあげて下さい」

「うん」


 俺は、深く息を吸った。


「みんな、無事で良かった。耐えてくれて有難う。あともう少し協力して下さい。

 明日から今までとは違う朝が来るから。もうみんなを苦しめるものはないんだ。悪夢は終わったんだ。先の事を相談してくれてもいいし、希望があれば何でも相談してほしい。これからは、しっかり食べて安心して眠って下さい」


 オクソールが俺を抱き上げたまま歩き出す。

 執事達使用人が両側に分かれて頭を下げてくれる。

 クソ、クソッ。絶対に忘れない。こんな事はもうない様にするんだ。

 俺は、爪痕が残る位に手をきつく握りしめ歯を強く食いしばり涙を堪えた。



「殿下、よく我慢なさいました」

「オク……悔しい……グシュ。ヒック……」

「殿下。以前も申しましたが、殿下は万能ではありません。神でもありません。どうしようもない、仕方のない事もあるのです。それよりも、助けられた者達がいる事を喜びましょう」

「……ヒック……何人も犠牲者を出した後なのに……グシュ、喜ぶなんてできない……!」

「殿下、それでは助けられた者達の気持ちが休まりません」

「……ゔぇ……オク、分かった……ヒック」


 俺は、一つの部屋に集められた人達を解毒して、状態が良くなかったのでヒールもした。

 監禁されていた3人の女性達はボロボロだった。夜着の様な薄い服1枚で、目が虚で何も捉えていない。食事もしていないのだろう、痩せ細っていた。

 どうしてこんな事が出来るのか。同じ人間のする事とは思えない。

 またオクソールに抱えられて部屋を出る。ユキもオクソールの横に付いて歩く。


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