320ー制圧
オクソールがドアに手をかけて皆を見る。皆が頷くと、オクソールは一気にドアを開けた。
同時に皆が踏み込む。ユキはまた前足で男達を昏倒させていく。オクソールとリュカ、シェフがその部屋にいたごろつき達を素手で気絶させていく。
後は、皆が気絶させた男達を俺がバインドする。楽勝だぜ。アッと言う間だぜ。
あれ、フォカが固まっているぞ? どうした?
「殿下、そりゃ驚きますよ。俺なんて全然出番ないじゃないですか」
そう? いつもこんな感じだぜ?
男爵と思われる男が、1番奥で護衛らしき男二人に守られていた。
「な、な、なんなんだ! お前達! 無礼だぞ!」
あー、はいはい。まだ状況が分かってないんだね。
「ねえ、男爵なの?」
俺が、ユキの側で男爵らしき男に聞いた。
「なんだ! ガキのクセに! 私はこの町の町長だぞ!」
「そう。ボクはリリアス。この国の第5皇子だ」
「…………」
あれ? 反応ないぞ。俺、威厳がないからな。ちょっとショックだぜ。
俺はそのまま男爵に向かって歩く。前にユキ、両側にオクソールとリュカがいる。
「クソッ!」
護衛の男二人が斬り掛かってきた。
――ガキーン!
オクソールとリュカが剣の鞘で受けて顎を下から殴りそのまま投げ倒し昏倒させた。
「な、な、何なんだ! お前達! 男爵の私にこの様な事をしてただで済むと思うなよ!」
「馬鹿なの? だからボクは第5皇子だって言ってるじゃん?」
「殿下」
「オク、手を出さないで。ユキも。ボクはね、これでも怒ってるんだ」
「クソッ! ガキが!!」
男爵が殴りかかってきたので、俺は鳩尾を狙って思い切り蹴りを入れた。
「グフッ!」
男爵が、身体を折ってふらつき倒れかかるところに、顎を狙って今度は殴り倒した。
人に暴力を振るったのはこれが初めてだ。肉の質感、骨にあたる感触。ゾッとした。
「グエッ!」
男爵が倒れたところをユキが前足で押さえつける。
「殿下、お手を痛めます」
オクソールは冷静だ。うん、痛いし気分も悪いからもう止めておく。
慣れない事はしない方がいいな。
「殿下、俺は兄貴と地下に行きます」
「うん。シェフも行ってあげて。見張りがいるといけないから」
「はい。分かりました」
「リュカ、地下から嫌な匂いがする。口と鼻を覆う方が良い」
「ユキ、分かった」
「…………ッ! な、な、なんなんだ!? 何で喋ってるんだ!? お前達は何なんだ!」
――シャキーン……
オクソールが剣を抜いて男爵に突き付ける。
「お前は聞いていなかったのか? このお方は第5皇子リリアス殿下だ。無礼だぞ!」
「馬鹿が! そんな訳がないだろう! 私は騙されんぞ! こんな小さな町に皇子が来る訳ないだろう!」
「馬鹿はお前だよ。それが来るんだよ。知らないかな? それ、押さえてるのユキヒョウの神獣だよ。ボクを守ってくれている。聞いた事ない?」
「神獣……!」
男爵は何を思ったのか、無理矢理立ち上がり逃げようとした。
『アースバインド』
逃す訳ないだろ。男爵は倒れ込んだ。
「お前ら! 何をしている! 起きろ! 起きて私を助けろ!」
ハァ……もう嫌になる。こんな状態で逃げられるとでも思っているのか?
「殿下! 地下にソニアがいました! でも……! 殿下!」
リュカが飛び込んできた。どうした? 地下で何があったんだ?
シェフがソニアをお姫様抱っこして入ってきた。うわ、何だこの匂いは!?
「殿下、香の様な薬物だと思います。他にも女性が3人いましたが、皆意識が朦朧としていて酷い状態です」
シェフ、なんだって!? それでか! それでユキが嫌な匂いと言っていたのか!
『鑑定』
確かに、麻薬の類か。解毒でいけるか?
『アンチドーテ』
ソニアの身体が白く光る。鑑定で確認する。
『ヒール』
よし、これで大丈夫だ。
「リュカ、大丈夫だよ。他の人も解毒するよ。」
「はい、殿下。連れてきます」
「え? ボクが行くよ」
「駄目です。ユキが感じていた様に地下は変な香で充満してます。連れて来ます」
「リュカは大丈夫なの?」
「マルチプルガードがあります!」
あぁ、そっか。そうだった。
「じゃあ、リュカお願い」
「はい!」
「殿下、隣の部屋に寝かせておきます。私もリュカとフォカを手伝います」
「うん、シェフ頼んだよ」
「はい」
一連を黙って見ていた男爵。小刻みに震えている。
「さて、男爵。この町で何をしていたのかな?」
「……私は! 私は何もしていない! そ、そうだ! こいつらに脅されていたんだ! 私は無実だ!」
「殿下、騎士団を呼びます。下の男達も連行しないといけません」
「オク、クーファル兄さまにも報告して。
きっと指示があると思う」
「はい、分かりました」
「で、殿下! リリアス殿下! 私は無実なのです! 私は騙されていたんです!」
「いい加減にしなよ。この状況でそんな事が通ると思っているのか?」
「殿下!」
「いいか、お前が地下に閉じ込めていた人達、この町の人達、皆生活があるんだ。皆、生きている人間なんだよ。
お前がこんな事をして許されるとでも思っているのか? 人の命を何だと思っているんだ! ふざけるんじゃない! お前は自分のした事を償うんだ。罪を犯した者にはそれなりの処分があって当然だ。帝国は甘くない。徹底的に調べられるからな。もう、お前は終わりなんだよ」
「……ッ!」
男爵は真っ青になって震えていた。
「殿下、クーファル殿下が残りの騎士団をこちらに向かわせて下さっているそうです。この領地の伯爵にも連絡済みだそうです」
さすがクーファル。やる事が早いね。
「オク、一つの部屋にまとめようか?」
「男達は皆、気絶させて殿下がバインドして下さっているので、放っておいて大丈夫でしょう」
「分かった。使用人達はどうなっているのかな?」
「殿下、あちらを」
オクソールに言われて部屋の入り口を振り返る。
陰から皆遠巻きに見ている。皆、無事の様だ。念の為、鑑定しておく。
「使用人は皆関わってないみたいだね」
「はい。殿下、どうされますか?」
「うん。ちょっとボクが説明するよ。オク、男爵も寝てもらっておこうか?」
「そうですね」
「ヒッ……!」
と、オクが男爵の首に手刀を当てた。
「あらら」
「面倒ですからね。煩いですし」
まあ、いいや。俺は、部屋を出て使用人達に話しかける。