315ー実験結果
「セレーネ、また移動して」
「はい、殿下」
「セレーネ、手を出して」
俺はセレーネの横まで移動して手を握る。
「いい? 今からボクがセレーネに魔力を流すからね。そのボクの魔力を意識してまた掛けてみて」
「そんな事、出来るんですか?」
「うん、出来る。リュカは出来なかったけど」
「じゃあ、やります」
何だよ。この2人も張り合ってんのか?
セレーネに魔力を流す。ゆっくりとしっかりと。
「セレーネ、分かる?」
「はい! 殿下! 凄いです!」
「じゃあ、掛けてみて」
「はい、殿下」
セレーネがまた魔力を掛ける。
今度はセレーネが掛けたであろう場所がキラッと光った。
「殿下!! 信じられません!」
うん、まあ分かりやすく光るからな。
「セレーネ、結論から言うと、光、水、土だね」
「殿下、どう言う事です?」
「リュカ、植物に魔力が行き渡る順だよ。ん? 行き渡る? 浸透するかな?」
「殿下! では、私の水属性でも出来るのでですか!?」
「うん。光属性だとキラキラして目で見れるから、分かりやすかったんだろうね。でも、水属性でも出来る。少ないけど、土属性でもね。効果で言うと、光属性の半分が水属性でそのまた半分が土属性て感じかな」
「殿下! 有難う御座います!」
「それとね、土を耕すでしょ? その過程で何度か掛けてみるのも良いよ。耕す前に1度、耕してからまた1度みたいにね。ああ、そうだ。種の状態の時に掛けるのも良いね。強くなるよ」
「殿下、素晴らしいです! ご存知だったのですか?」
まあ、ぶっちゃけそうだ。知ってたよ。俺は城で色々試させられてるんだ。
城の裏に少しだけど畑がある。
野菜だけでなく、表の花壇に植える前の花とかね。温室や薬草園もある。果樹園もあるんだぜ。小さいけどな。
そこで、俺は実験をさせられている。言い出しっぺはフレイの奥さんシャルフローラだ。
彼女は薬草オタクだ。薬草に魔力を掛けてみてほしいと言ってきたのがきっかけだ。
この世界には遺伝子操作なんて出来る設備はない。
だが初代皇帝が、遺伝子の存在をちゃんとレクチャーしてくれていたから知識はある。
しかし、それを知識として知っていても、どうこうする事はできない。
そこで、魔法の出番だ。魔法は本当にファンタジーだ。
不可能を可能にしてくれる。しかも、特別な何かが必要な訳じゃない。材料もいらない。なんて、エコなんだ! いや、脱線してしまった。
俺が日々、城の庭師や畑を担当するおじさん達に紛れて実験してきた結果だ。
種の時点から魔力を掛ける。耕す時に1度、耕してから種を植える前に再度掛ける。そして、芽が出たらまた掛ける。それが1番良い結果が出た。
花や植物なら虫や病気に強く立派に、そして実がなる物や穀物はより美味しく。俺の努力の結晶だぜ!
「でもね、やり過ぎは良くないんだ。魔力過多で枯れちゃうよ」
「殿下、そうなのですか?」
「うん。結果が良いと、いいじゃん! て思ってつい多めにやっちゃうんだよ。そしたら、見事に枯れちゃってた」
「お城ではそんな事までされているんですね。驚きました」
「それはね、フレイ兄さまの奥さんが薬草オタクだから」
「ブフフ! 殿下、それじゃあ分かりませんよ」
「え? リュカ、そう?」
まあ、ちょっと休憩だ。俺はラルクの横にしゃがみ込んでりんごジュースを飲む。
「ブフフッ!」
「リュカ、何?」
「リリ殿下、りんごジュースタイムじゃなくて、ちゃんと説明して下さいよ」
「えー、リュカお願い。コクコクコク」
「また、ニルさんに言いつけますよ?」
「うわ、リュカ酷いね。コクン」
「殿下、それ位で」
「うん。ラルク、分かってる。もっと飲みたいのになぁ」
俺は、りんごジュースをマジックバッグに仕舞う。
「ワハハハッ! 殿下は面白いですな!」
「フフフフ。本当に。リュカ、良かったわね、殿下にお仕えできて」
「リリ殿下はいつもこんな感じなんだ」
「リュカ、説明しといて」
俺はユキさんに乗ろう。
「リリ、ゆっくりだが少しだけ走るか?」
「うん! ユキ、この畑のまわりだけね!」
「ああ、分かった」
「リュカ、少し回るから説明しといてね」
さて、リュカに丸投げして俺はユキさんに乗って走る。
「リリ、良い村だな」
「うん、そうだね。それに、リュカも好かれてる。嬉しいね」
「リュカは良い子だからな」
「良い子って、ユキから見たらまだまだ子供みたいな感じなの?」
「まあ、そうだ。オクソールは違うがな」
「アハハハ、オクはね。リュカとは違うよ」
ユキとのんびりこうしているのも良いな。ああ、アウルに会いたくなる。恋してるのかよ! て、感じだな。
無事に城に戻ったら、またお休みもらって会いに行こう。
「殿下! 戻って下さい!」
「ユキ、リュカが呼んでるよ。戻ろう」
「ああ」
リュカに呼ばれて戻る。
「殿下、シャル様の事は説明しましたけど、殿下が魔力を流すのは俺分かりませんよ?」
「ああ、あれはやってみたかったの。シオンみたいに出来る様になるかなぁ、て思って」
そしてまたリュカが説明する。
魔術師団副師団長のシオンは、俺が光属性の魔力を流してからヒールが使える様になったと。
「本当ですか!? 羨ましいです!」
「そう?でも、駄目っぽいや」
「私は駄目ですか?」
「リュカも全然駄目だったね」
「はい。オクソール様は出来たのに、めちゃ悔しいです!」
「リュカ、お前がオクソール様に勝てる訳ないだろう?」
「祖父ちゃん、それは俺も分かってるよ。でもさ、それでも少しでも近付きたいんだよ」
「そうか。その気持ちなら良い。だが、決して僻むなよ。嫉妬するなよ」
「祖父ちゃん、分かってる」
そうか。このお爺さんがいる家庭でリュカは育ったんだ。
「お爺さん、有難う」
あら、俺思わず礼を言ってたよ。
「リリアス殿下、何を仰います」
「お爺さんのその考えがある家庭で育ったから、リュカは真っ直ぐな良い子なんだなぁ、て思った。リュカの根っこになってる。有難う」
「殿下、本当に10歳ですか?」
「え〜、ボク老けてる?」
「アハハハ。いえ、そうではなく。殿下はまだ10歳でいらっしゃる。なのに、リュカよりしっかりしておられる。ちゃんと、周りが見えてらっしゃる。驚きました」
「えぇ〜、有難う! エヘヘ」
そんなに褒められると、こそばゆいよ。