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313ー村の中

「何もありませんが、ゆっくりして下さい」


 そう言ってお婆さんはお茶を出してくれる。果物も出してくれた。

 これは、まさか……

 

「お婆さん、この果物は……?」

「リリアス殿下、ご存知ですか? ロクワットと言います。もっと南の方の果物で、本当はもう少し早い時期に実がなるそうです。北寄りのこの辺りではこの時期に実がなります。ロクワットの木が直ぐそこにあるんですよ」


 ロクワットて「loquat」だよな。枇杷の英名じゃねーか。まんまだな。

 懐かしい。前世の母親が季節になるとよく買ってきていたな。

 たしか、枇杷の葉は乾燥してお茶にできるんじゃなかったか? そう思って出されたお茶を見る。

 

「もしかして、殿下はご存知でしたかな? お茶に葉を使っておるんですよ」

「ああ、やっぱり。何かで読んだ気がしたんです。葉っぱは汗疹にも良いですよね」

「ええ。殿下はよくご存知で」


 温和そうな穏やかなお婆様だ。

 その時、玄関の方でガタンッ! と扉が開く音がした。


「お爺さん、お婆さん、もうリュカが帰ってきたの!?」


 喋りながら、入ってくる。ん? 誰だ? 騒がしいな。

 

「あー、煩いのが来た」

「リュカ! やだ! 帰って来てたのなら言ってよ!」


 バタバタと上がってくる音がして、女の子が顔を出した。

 

「ソニア、煩い」

「何よ! 偉そうに!」

「ソニア、また後で来なさい」

「お爺さんまで! 何なのよ!」

「ああ、リュカ。いいよ。ボクが急に来たんだから。クーファル兄さまの所に戻るよ。リュカは折角戻って来たんだから、ゆっくりして」


 そう言って立とうとする。

 

「殿下。いえ、ゆっくりして下さい! 祖父ちゃんも祖母ちゃんも殿下に会いたがってたんです。ソニア、また後でな」

「何!? リュカ、ちょっと帝都に出たからって偉そうに! あたしなんかとは話せないって言うの!?」

「誰もそんな事言ってないだろ? 見て分からないか? お客様なんだよ。だから、また後でと言ってるだろ?」

「フン! 何よ! せっかく来てあげたのに!」


 そう言い残して、またバタバタと出て行った。なんだ、あれ?


「殿下、申し訳ありません」

「リュカが謝らなくていいよ。それよりいいの? 怒ってたけど」

「いいんです。挨拶もしないで。あいつが失礼なんですから」


 ん〜、なんかさ。ちょっと引っかかるよね〜。


「リリアス殿下、申し訳ありません」


 ああ、お爺さんまで恐縮しちゃったよ。いかん。


「いえ、気になさらないで下さい。ボクが急に来たのですから」

「殿下、違います! 俺がお呼びしたんです!」

「リュカ、もういいよ。本当に気にしてないから」

「有難うございます。リュカはしっかりお仕えしてますか?」


 お爺さんが心配気に聞く。


「大丈夫です。よくやってくれてます。従者の勉強もしながら、3等騎士に叙任されました。リュカは強くなりました」

「そうですか! リュカが! リュカは直ぐにふざけたりしますから」


 おっ。お爺さんよく分かってるね〜。


「アハハハ、それは変わってません」

「殿下!」

「だって、そうじゃん」

「リュカ、お前は」

「いや、祖父ちゃん。俺マジでちゃんとやってるから!」

「ボクはリュカに小さいとよく言われます」

「そんな失礼な事を! リュカ!」

「殿下! お願いです!」

「アハハハ!」

「リリ、楽しむでない」

「だってユキ。本当だもん。でも、お爺さん。それもリュカの良いところです。ボクは楽しませて貰ってますよ」

「殿下、もっと厳しくして頂かないと」

「オクソールに充分厳しくされてますよ」

「あの獣人のオクソール様ですか!?」

「はい。そのオクソールです。リュカの師匠です」

「なんと! リュカ、お前贅沢だ!」

「祖父ちゃんもかよ! なんでだよ!」

「アハハハ!」

「リリアス殿下、宜しければ村の中をご案内致しましょう」

「はい、是非!」


 お爺さんに案内されながら、リュカとラルクとユキと村の中を歩く。


 ――リリアス殿下だ!

 ――リリアス殿下、お可愛いらしい!

 ――リュカ、お帰り〜!

 ――リュカ、スゲーじゃん!


 村の人達から声が掛かる。リュカは、可愛がられているようだ。良かった。嬉しいね。


 こうして見ると、同じ帝国内とは思えない程、村の様子が違う。

 ロッジ風の家は村独自の文化なのかなぁ?帝都は鉱石で作られた家が主流だけど、この村は木なんだな。木造造りの家ばかりだ。


「殿下、どうされました?」

「ラルク、家は木造なんだと思って。それに、家の形が帝都とは全然違う」

「リリアス殿下、私共は元々ここに住んでいた訳ではありません。もう少し帝都の近くにおりましたが、一族の純血種を守る為にこちらに移動したのです。ミーミユ湖も近くにありますし。それで、家を建てる時に手近にある木材を利用したのです。家の形は代々受け継がれたものですが」

「人間が勝手な事をして、迷惑を掛けたんですね」

「昔の事です。殿下の御曾祖父様が皇帝陛下の時に、この地はどうかとご提案頂いたそうです。それからは、平和に暮らしております」


 しかし、俺が3歳の時に奴隷商に狙われた。それに、不便もあるだろう。


「殿下、お気になさる程ではありません。人間にも色んな者がおります。獣人も同じです。皇族の方々は代々気に掛けて下さいます。その上、リュカの我儘まで聞き入れて下さった。有難い事です」

「お爺さん、そんな事は当然です」

「殿下、有難うございます。お優しいお方だ」


 お爺さんは微笑んでくれる。でも、俺は獣人だから、珍しいからと攫う様な奴等は許せない。

 と、思いながら歩いている。


 この村は綺麗だ。家々の前に色とりどりの花が咲いている。家と家の間にある木にも白い花が咲いている。花が多いよな。手入れが大変だ。


「家の前に咲いている花はホリホックと言って繁殖力が旺盛なんです。こぼれ種でも増えるので、そう手間もかかりません。

 家々の間にある、白い花が咲いている木はドッグウッドと呼んでます。秋になると赤い甘い実をつけます。果実酒やジャムにすると美味しいのですよ」

「へぇ〜、全然知らなかったです」


 ホリホックは葵か? 淡いピンクと白い花と二色の花が咲いている。

 ドッグウッドだとハナミズキだが、実が食べられるならkousa dogwood ヤマボウシか?

 ハナミズキは実家にあった。たしか、実が食べられるのはヤマボウシで、ハナミズキの実には毒があると前世の母親が言っていた。


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