表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/442

31ー我儘皇子

「殿下、落ち着いてください」


 廊下を一人でドンドン歩いて行く俺に、ニルが半歩後ろから声をかけてくる。


「ニリュ、分かってりゅ」


 分かってても、腹立つもんは腹が立つんだよ。畜生、卑怯な事しやがって!


「殿下、どうなさるお積もりですか?」

「そんなの決まってりゅ!」


 絶対許さないぞ、俺は! 人の命をなんだと思ってんだ!


「人質をみんな助けりゅの! そりぇと、その子爵は許さない!」

「殿下…… 」

「とーさまとにーさまに知りゃせなきゃ。るーはどこ行ったんだよ! いつも側にいない!」


 ポンッとルーが現れた。 


「るー!」

「悪い悪い、ちょっと調べ物を頼まれてたからさ」

「いつもいないぃッッ!!」


 俺は怒ってるんだ!! マジだぞ! ギッとルーを睨む。


「そんな怒んないでよ。子爵の居場所を突き止めて来たからさ」


 と、言ってルーはウインクなんかしやがった! 余計にムカつく! 空気読めよ!


「るー、とーさまに報告してきて!」

「なんだよ、そんな怒るなって」

「人質を助けりゅの!」

「人質!? 何の話だ?」

「だかりゃ! いつもいないかりゃッ!!」


 ニルがルーに昨夜からの事を説明した。俺はりんごジュースを飲んで待ってた。落ち着け。怒りに振り回されたら駄目だ。


「そうだったのか……リリごめんよ」


 ぷん……


「まさか、そんな強硬手段に出るなんて思わないじゃないか」


 ぷんぷん……


「ボク守ってもりゃわなくていい」

「リリ、ごめんて。謝るからさ!」


 違うんだよ! ま、ルーにも怒ってるけどさ! 人の命の扱いの軽さに怒ってるんだ! あー、全然怒りを抑えられない! 超ムカつく!


「なんなの!? なんであんな酷い事が出来りゅの!? 人質とって、その上隷属の魔道具だよ! 心臓に刺さって死ぬんだよ! よくそんな事を考えついたよ! ボク一人なんかの為に! よくそこまでやりゅよ……! 20人だよ! もしかしたりゃ20人全員死んでたかも知りぇないんだよ!! じゃあボクお城の奥にひっそり籠りゅよ! お城から外に出ない! そしたりゃ誰も傷つかない! 犠牲になりゃない! ボクはもう死んだ事にしてくりぇていいッ!! だかりゃもう守ってもりゃわなくていいッ!!」


 一気に言った……涙が止まらない。ムカつく! 悔しい! 俺一人を狙うために20人だ! 人質も入れたら、一体何人になるんだよ!

 なのに俺はまだ3歳でなんにも出来ない! 守ってもらわなきゃ生きていけない! その事実が悔しくて!!


「ヒグッ……ヒック……」

「殿下……!」

「リリ…… 」


 クソ、3歳児は涙腺弱すぎんだよ! ニルに抱きしめられたじゃねーか!


「……うっ……うぇぇっ……グシュ……ゔぇー……」




「泣き疲れて寝ちゃったな」

「はい、ルー様…… 」

「悪い事しちゃったな」

「殿下は心配されていたんですよ。ルー様が何も言わないで居なくなられたから」

「ああ、申し訳ないな」

「フレイ殿下のご依頼ですか?」

「ああ、そうなんだ」

「次からは、一言言ってから行かれると宜しいかと」

「ああ、そうするよ」

「お願いします」

「こんなに泣かれるとな。キツイな」

「はい…… 」

「リリはどんだけ思ってるんだ。まだ小さいのに」

「はい…… 」

「ニル、ベッドに寝かせたら?」

「いえ。このままで…… 」

「重いだろ?」

「……本当は、お母様に甘えたいでしょうに。小さいのにお一人で我慢して。何も仰らないで、笑ってらっしゃる。私一人位が甘やかしても構わないでしょう」

「ニル……そうだな。まだ3歳だったな」

「はい…… 」



「……ふわぁ……」


 あれ、俺寝てたか? ちょっと抑えきれなかったな。


「殿下、お目覚めですか?」


 ニルの顔がすぐそこにあった。


「……ニリュ、ずっと抱っこしてくれてたの?」

「はい、殿下がお可愛いらしくて」


 と、ニルはニコッと微笑む。違うだろ! 絶対違うだろ! どんな罰ゲームだよ!


「ニリュ、ごめんなさい」

「殿下が謝られる事は何もありません。りんごジュースお飲みになりますか?」

「うん、おねがい。ありがとう」


 やっとニルは俺をソファーに下ろして、りんごジュースを用意してくれた。


 何やってんだよ、俺は。一人ムカついてルーに当たって、挙句に泣き疲れてニルに抱っこされたまま寝るなんて。最悪だ。マジ、我儘皇子だ。


「ニリュ、ごめんなさい」

「いいえ、殿下。謝らないで下さい。殿下は悪くないですし、間違ってもおられません」

「だってニリュに迷惑かけた」

「迷惑じゃありません。役得です」


 どこが役得だよ! そんな訳ないじゃん。


「ニリュ、ありがとう」

「はい、殿下」

「で、るーはまたいないの?」

「陛下にご報告に行かれました」

「そう…… 子爵の居所を突き止めたって言ってた。にーさまが頼んでたの?」

「そうみたいです。フレイ殿下が」

「るーにも謝らなきゃ」

「殿下?」

「怒っちゃったかりゃ。るーはお仕事してたのに」

「……殿下、お昼食べられますか?」

「もうそんな時間なの?」

「はい、そろそろかと」

「……ああ、うん。食べりゅよ」

「では。シェフ、お願いします」

「はい! 殿下! お目覚めですか!」

「うん、シェフいつもありがとう」

「何を仰います! 今日のお昼はスープパスタです! クリーミーで美味しいですよ!」

「うん、ありがとう!」


 いつものシェフで救われるわ。つうかさ、1階から持ってきてドアの外でスタンバッてるのに、いつも出来立てだよな? ほやほやだよな? 何でだ? そう思いながら食べる。

 ……? のびてないな……俺はジッとスープパスタを見た。


「殿下、どうされました?」

「ニリュ、もしかしてこりぇも魔法?」

「……?」

「のびてない…… アツアツ…… 」

「ああ、殿下。そうですよ。シェフの魔法ですよ」


 シェフ、地味にスゲーじゃん!


「シェフ、凄いッ!!」

「殿下! 有難うございます!」


 何気にシェフ万能じゃね? 凄くね? ビックリだよ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] うまいご飯を常に作れる人は最強ですわ [一言] いやいや普通に役得ではないかニル。 泣き疲れた三歳児抱っこして寝顔と体温味わえるなんて人生でそう何度もないことですよ。自分の子供でもそう何回…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ