306ー独占欲?
早速俺は、転移玉を作る。面倒だ。俺、作ってばっかじゃん。
これって、魔術師団は作れないもんなんかね? 今度シオンに聞いてみよう。
「あ、ねえリュカ。リュカの村にも転移玉置いてこようか?」
「え? 殿下、何故ですか?」
「いや、便利かなぁ? て、思って。」
「いえ、必要ないですよ。有難うございます」
「そうなの?」
「はい。みな獣人ですから。いざと言う時は獣化します」
「なるほど〜」
そっか。リュカはいらないか……
「リリ、拗ねるでない」
「ユキ、分かっちゃった?」
「ああ。だが、拗ねるのはよくない」
「うん。ごめん」
ユキさん、凄いなぁ。兄貴みたいだ。
「ねえ、ユキ。久しぶりに乗せてよ。ちょっと走らない?」
「ああ、いいぞ」
「やった!」
俺は転移玉作成をそっちのけにして、ユキと外に出た。
城の裏側に騎士団や近衛師団の屋内鍛練場や薬草園に畑もある。
俺が毎朝オクソールと鍛練しているのはこの屋内鍛練場だ。
その並びに屋外のだだっ広い合同鍛練場がある。そこにユキとリュカと向かう。
「リリ、どうした?」
「ん? ユキ、分かんない。なんかね、ちょっと寂しかった」
「ニルの事か?」
「うん。多分」
「殿下、ニル様は天然ですから。悪気はないですよ」
「リュカ、それも分かってる。リュカも婚姻するんだよね」
「え? 殿下、俺そんな話ありませんよ?」
「いや、いつかはだよ」
「俺より先にオクソール様です」
ああ、そっか。年齢的にもオクソールが1番先か。あー、オクソールもニルとよく似たとこあるからなぁ。また俺、ビックリさせられるかも。
「リュカ、オクはそんな話あるの?」
「殿下、何言ってんスか。オクソール様がどんだけモテモテか、知らないんですか?」
マジかよ。知らなかったよ。まあ、モテるだろうとは思っていたけど。
「リュカ、マジ?」
「大マジです」
「リリは少し疎いところがあるな」
「うわ、ユキに言われたくない!」
「ブハハハ!」
リュカ、爆笑するんじゃねーよ。
「ああ、殿下。でも獣人は人間より長生きだと知ってますか?」
「え? そうなの?」
「はい。ある程度まで成長したら暫く止まります。で、ゆっくり老化するんです。だから、人よりも婚姻は遅いと思います。うちは3歳上の兄もまだ一人ですから」
「そうなんだ。僕知らない事ばっかだ」
裏の鍛練場に着くと、噂のオクソールがいた。本当だ。こんな所にまで令嬢たちが見学に来ている。
ここにもいたよ、リア充が!
オクソールが俺を見つけて走ってくる。
「殿下、どうされました? 鍛練しますか?」
もう、リア充なのに脳筋だよ。
「しないよ! ユキと走るの。」
「いつでもお相手しますよ?」
いや、それはいいよ。それより、オクソールさぁ。
「ねえ、オク。オクは婚約者とかいないの?」
「は? 何です? 急に」
「オクソール様、あれです。ニル様の」
「ああ、お聞きになったんですね」
なんだよ、オクソールも知ってたのかよ。
「私は全くありませんよ。殿下にずっとお仕えしますから」
「なんでよ、婚姻したら外れなきゃいけないの?」
「いえ、そんな事はありません。ああ、殿下。ついでと言っては悪いのですが、シェフは既婚者だとご存知ですか?」
また、マジかよ。今日はこんな日かよ。
「知らない……」
「シェフの名前は?」
「し、知らない……」
「それでも、シェフは殿下が最優先ですよ」
「……うん」
「ニル殿も、私も、シェフやリュカもそうです。また別物なんですよ」
「うん……」
「殿下、失礼します」
そう言って、オクソールは俺を抱き上げた。オクソールにこうして抱っこされるのは久しぶりだ。
「大きくなられました。小さかった殿下がこんなに大きく。まだまだ大きくなって頂かないと」
「オク……」
俺はオクソールの首に抱きついた。
「殿下、辺境伯領で言ってらした事は変わりませんか?」
オクソールが小さな声で聞いてきた。あれだ。俺が婚姻しないと思うと言った事だ。
「うん」
「そうですか。殿下がそう思われるのも理由があるのでしょう?」
「うん……」
ごめん、話せないんだ。
「殿下が考えてそう思われるのなら、私はそれも良いと思っております。ですが殿下。私達は殿下のお子を見てみたいです。お世話してみたいと思っておりますよ。
しかし、それを負担に思われてはいけません。殿下のお気持ちが1番です。
ニル殿も、シェフもリュカも、どんな事があっても殿下にお仕えします。殿下が大切なのです。
ですので、ニル殿にとっては殿下にお仕えする事が1番で、ご自分の婚姻は然程重要ではなかったのではないでしょうか?
ましてや、子供の頃に婚約された事ですから」
「うん。オク、分かった。有難う」
俺は、恵まれている。本当に。オクソールはよく俺の事を理解してくれている。
「そうだ、殿下。アスラール殿に2番目の子が出来たそうです」
「えッ!? オク、本当に?」
「はい。まだ分かったばかりだそうです」
「えー、産まれたら会いたいなぁ。あー、駄目だ。アウルに会いたくなってきた」
「アハハハ。殿下は本当にアウルース様がお好きで」
「うん! あの子は可愛い。特別なんだ」
「私達にとって、リリアス殿下もそうですよ。特別です」
「オク、有難う」
「はい」
「リリ、走ろう」
「うん! ユキ」
俺はオクソールにユキに乗せてもらう。
「殿下、お気をつけて。ユキ、頼んだ」
「ああ。大丈夫だ」
ユキはシュタッと走り出した。
風を切って走る。ああ、ここが城の裏の鍛練場ではなくて、辺境伯領だったらなぁ。アウルと一緒に乗れるのに。
「リリ、また行こう」
「うん! ユキ、絶対に行くよ! その時はアウルも乗せて走ろう!」
「ああ! 楽しみだ!」
ユキが何周も走ってくれた。ちょっと俺、凹んでたのかなぁ?
オクソールと話せて、ユキと走って良かった。少し、吹っ切れたよ。
うん。大丈夫。頑張るさ。
「殿下ー! 夕食ですよー!」
シェフが呼んでいる。アハハハ、めちゃ大きな声だ。
「はーーい!!」
俺も大きな声で返事をする。
「ユキ、有難う! 夕食だって!」
「ああ!」
今更だけど、シェフの名前を聞こう。シェフの奥さんの事を聞いてみよう。
俺は皆に大切にしてもらっている。でも、俺だって皆が大切なんだ。だから、知りたいと思う。知っていこうと思う。
そっか。俺は知らなかった事が寂しかったのか。やだね、なんか独占欲みたいじゃね? やだやだ、気をつけようっと。