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305 閑話ー帝都民ネットワーク

いつも読んで頂き有難うございます!


このお話は本編が行き詰まり、気分を変えようと書いた物です。

あんまり、内容はありません。

細かいことは気にせず、軽く読んで頂けたら幸いです。

 時は戻って、リリアスが4歳の頃の話だ。

 ここはアーサヘイム帝国の帝都にある商人ギルド。よくファンタジー物に出てくるあのギルドだ。

 その商人ギルドの2階の1番奥にある会議室での話だ。

 先に説明した様に、ここは商人ギルド。

 なのに、その会議室で顔を突き合わせている者は、商人ばかりではない様だ。


 見るからにガタイが良くて、剣が似合いそうなおじさん。

 その横には秘書か? それも冒険者上がりか? の様な女性。

 定番のメイド服を着た女性が2人。1人は眼鏡をかけている。メイド服の色が違うのでどちらかが上司なのだろうか? それとも、別の貴族に仕えているのか?

 他には、宿屋でも経営していそうな、少し猫背のおじさん。

 料理人だろうか、腕を組みエプロンをつけた男性。

 教会の司祭か? キャソックと呼ばれる司祭平服を着ている男性。

 1番奥のお誕生日席に座っているのが、おそらくこの商人ギルドのギルマスだろう。

 横にはこれまた秘書らしき女性が、手に書類を持って立っている。

 そのギルマスらしき男性が話を始めた。


「さて、皆今月の定例報告会を始める。まず、先月の報告だ」


 横に立っていた、秘書らしき女性が書類を見ながら話し出す。


「先月は、例の男爵家1件でした。皆様の調査報告を上げたところ、上でもある程度掴んでいたらしく直ぐに動いてもらえました。やはり、調査通り市場での売上を誤魔化していた様です。それと、男爵が気に入ったメイドに言い寄り、弱味を握り無理矢理愛人にしていた事が発覚しました。

 結果、貴族院からの追放、総財産の半分が没収となりました。爵位の返上は免れておりますが、領地も持っておりませんし貴族院から追放されていますのでもう終わりでしょう。奥方は子息を連れて実家に帰り、先日は邸を売りに出した様です。皆様、ご苦労様でした」


 パチパチパチと、拍手がおこる。


「さて。今、気になるのはあそこの侯爵家だな」


 ギルマスらしき男性が問題提起をする。


「しかし、ギルマス。あそこの令嬢はフレイ殿下の婚約者だ」


 やはり、ギルマスだったらしい。ガタイの良い男性が発言した。


「ああ。だからこそだ。ボスがそう言ってきた。」

「あの御令嬢も幼い時は、よく教会にも奉仕活動に来られていたのですが。どこで道を逸れてしまわれたのか」

「司祭様、あそこは奥方が駄目です」


 メイド服を着た女性が、発言した。


「うちの冒険者なんだが、向こうさんが領地に戻る時だろうな。何度か道中一緒になった事がある」


 ガタイの良い男性が言う。「うちの冒険者」と、いう事は冒険者ギルドのギルマスか? なるほど。ガタイが良い筈だ。


「ギルマス、それでどんな印象だったと?」


 ギルマスからギルマスと呼ばれたところを見ると、この男性はやはり冒険者ギルドのギルマスだろう。


「その時は奥方と令嬢だけだったんだが、メイドも護衛もピリピリしてたらしい。見てらんなかったと言ってたぞ」

「どうしてだ?」

「あれだよ、ヒステリックなんだと。で、奥方がやたらとな、フレイ殿下の婚約者だ。将来は皇后なんだ。と言って、なんだかんだと文句ばっかつけてたんだと」

「で、令嬢は?」

「似たようなもんさ。2人でキーキー言って文句つけるもんだから、メイドがアタフタしていたとよ」


 ガタイが良い方のギルマスが、肩を窄める。


「あそこの御者のオッサンも可哀想だぜ! よくうちに昼を食べに来てくれるしよぉ! 夜は呑みにも来てくれるんだ! 奥方と令嬢から、馬車が揺れない様に早く行けと言われるってな! そんな事出来る訳ねーよ! あんまり気の毒なんでよぉ! 思わずツマミをサービスしてしまって、カカァに怒られたっつーの!」


 食事処でも経営しているのだろうエプロンを着けた男性だ。変に威勢が良く、声も大きい。


「メイドに対しても酷いものですよ。茶葉が悪いだのシーツにシワが寄ってるだのと言い掛かりをつけて、平手打ちをされるそうです」


 メイド服を着た女性が言った。


「あ、あのぉ、フレイ殿下の婚約者と言う立場を利用してぇ、下位貴族に賄賂を要求していますよぉ」

「マジか?」


 もう一人の眼鏡のメイド服の女性が、おずおずと片手を挙げて話を続けた。眼鏡なのに、まさかのぶりキャラか!? それとも天然なのか?


「え、ええ。そうなんですぅ。フレイ殿下とぉ婚姻した暁には、取り立ててあげるから金を持って来いなんて言ってましたぁ。出入りの商人にまで要求してましたよぉ。

 商人達から詳しく話を聞いてぇ、証拠はもう揃ってますよぉ。

 あと、あとぉ、奥方と令嬢の浪費がすごいんですぅ。ドレスや宝石の代金を支払ってもらえないって、オジサンが泣いてましたぁ。それでも、でも、侯爵は気付いていないんですよぉ〜、お馬鹿さんですよねぇ」

「おいおい、マジかよ。侯爵は何をしてるんだよ」


 商人ギルドのギルマスが誰にともなく問うと、もう一人の普通のキャラのメイド服の女性が答えた。


「令嬢は一人娘なんです」

「それで嫁に出すのか? じゃあ、誰が継ぐんだ?」

「親戚から養子をとるそうです。侯爵は令嬢が可愛くて仕方ないんですよ。本当なら、クーファル殿下辺りに婿に来て欲しかったんじゃないでしょうか?」

「あ〜、いいですか……? クーファル殿下の婚約者も駄目ですね……」


 宿屋を経営していそうな猫背気味のおじさんが言う。ちょっと気弱そうだ。目が泳いでいてオドオドしている。


「そっちもかよ」

「この前……うちで何やら集まってコソコソしてるから……盗み聞きしてやったんです。そしたら、あそこの侯爵は事務官でしたよね……文官試験を担当してるとか。試験問題の横流しをしてたみたいですよ。金をとってました……」

「それは証拠はあるのか?」

「いや〜、それがまだないです。でも……その話をしていた相手は皆控えてありますよ……」

「それでしたら、私達でなんとかなります」


 メイド服の女性が静かに手を挙げる。


「え、メイドてスゲーな」

「MNWを舐めてもらっては困りますね」

「そうですぅ!」

「なんだそりゃ? なんだって? M?」

「MNWです。メイドネットワークの略です」

「略と言うかぁ、隠語と言うかぁ。ちょっとカッコいいでしょう〜? ウフッ」


 ウフッ。じゃねーよ。誰も突っ込まないのか? 慣れっこか?


「なんだそりゃ。要は井戸端会議だろ?」

「とんでもないです! ネットワークですよ。帝都のすべての貴族邸のメイドが繋がっていますからね。それこそ網状にです。井戸端会議なんて規模ではありませんよ」

「はい! 隅から隅までですよぉ!」

「おいおい、コエーな。とにかく、証拠を押さえられるか?」

「はい。お任せ下さい」

「じゃあ次のTNW会議までに頼む」

「かしこまりぃ〜!」

「何ですか? そのTNW会議とは」

「メイドネットワークがMNWなんだろ? 俺達、帝都のネットワークだからTNWじゃねーか」

「ギルマス、それはダサいぞ?」

「やだぁ、ダサぁ〜い」


 冒険者ギルドのギルマスや、眼鏡のメイドにダメ出しされている。そんなこんなで、TNW会議はお開きになった。


 出席していた者達が帰って行くのと入れ替わりで黒い人物が入ってきた。


「TNWは確かにダサいな。クフフフ」

「ボス、何ですか。聞いてたんですか?」

「ああ、途中からだが。相変わらず、個性が強いな。で、今月はどこだ?」

「ボスの希望通り、フレイ殿下の婚約者令嬢んとこです」


 そう言いながら、ギルマスは黒い人物に書類を渡した。


「ふむ……やはりゴミは置くのか?」

「もちろんです。我々が証拠を掴んだんですから」

「そうか。では、それから強制捜査に入るとしよう」

「頼んます」

「で、今回の要望は何だ?」

「皆で考えたんですが。今回は司教様の意見を採用しました」


 ギルマスはまた別の書類を出す。


「スラムか……」


 黒い人物はその書類を見て呟く。


「はい。エイル様のご実家が炊き出しや孤児の保護をして下さっているので、子供は大丈夫なんです。しかし、夫を無くした寡婦や、老人の一人暮らしが心配なんだそうです」

「スラムに堕ちているのか?」

「まあ、スラムと言っても治安の悪いとこではないんですよ。そこまではいってません。しかし、放っておけばそこまで堕ちて犯罪に関わるか、最悪は命を落とす事になるかも知れません。そうならないうちに何か頼みます」

「分かった。直ぐに手配しよう。では、また来月頼む」

「もちろんです。任せて下さい」


 そして、黒い人物は部屋を出て行った。



 これは、リリアスが3歳の時の、あの事件の後から始まった極秘の会議だ。

 帝都民達の、意見を吸い上げまとめて次にどの貴族邸の前にゴミを置くかを決定する会議だ。

 その後、ボスと呼ばれる黒い人物に引き継がれる。

 こうして、また不正を働いていた貴族が粛清される。

 そう、黒い人物だが……

 そう言えば、皇帝の懐刀と呼ばれる側近も黒い髪に黒いシャツ、黒いスーツだ。

 

 リリアスの事件がきっかけで始まったこの会議だが、当のリリアスは当然全く知らない。


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