304ー拗ねてる
「ねえ、ソール。聞きたい事があるんだけど」
「はい、殿下。何でしょう?」
「ニルとはどうなってんの?」
「……」
あれ? 聞いたら駄目だった? ソールとニルが顔を見合わせている。
「殿下、その……。 その話もご報告がありまして」
おや、良い報告か? ニルがソールの側に移動した。
「今回の鉱山の調査が終わったら婚姻する事になりました」
「「えぇーーッ!!」」
リュカも一緒に驚いている。そりゃそうだよ。婚約じゃなくて婚姻かよ!
ちなみにラルクは側近候補の勉強で今日はいない。
俺は15歳になったら学園に通う事になるが、ラルクは1歳上なので1年先に入学して通う事になる。
「何それ!? ニル、ソール。婚姻? 婚約じゃなくて?」
「殿下、もしかしてご存知ありませんでしたか? ニルと私は子供の頃に婚約しております」
「「えぇぇーーー!!!!」」
出たよ。久しぶりにまた出たよ。ニル、やってくれたよ。本当にさ。
「ニル、特大のやってくれたね」
「え? 殿下、そうですか?」
「そうだよ! ボク、全然知らなかったよ!」
「そうでしたか?」
「ニル、話してくれてないよ?」
「でも、殿下がお産まれになる前の事ですから」
「婚約が?」
「はい」
「あー、殿下。申し訳ありません。ニルはこう言うところがありまして」
「ソール、そんな事は知ってるよ。今迄に何度もあったから。でもさ、婚約だよ? 言ってくれてもいいじゃん?」
「え? 殿下、申し訳ありません?」
「ほら、ニルったら疑問形だよ。ここに来てまだ疑問形だよ。本当、ビックリするよ」
「アハハハ、殿下。ニルはこんな感じですよ」
ソール、笑ってるよ。きっともう慣れっこなんだろうね。ハァ〜、もう良いよ。
「とにかく、二人共おめでとう」
「有難うございます」
「殿下、有難うございます」
あれ? じゃあ婚姻した後はどうなんの?子供ができたらどうすんの?
「ニル、辞めちゃうの?」
「殿下! まさか! 辞めませんよ!」
「でもさ、子供が出来たらどうすんの?」
「産休は頂きますが、ギリギリまでお仕えして産んだら直ぐに復帰します!」
えぇ〜、それは俺が怖いなぁ。でも、ニルがいなくなるのは嫌だなぁ。
「殿下、ラルクがいます。その為の側近です。リュカと言う従者もいます」
「ソール、そうだけど。ニルは違うの。ボクの母親代わりであり、姉であり、侍女なの」
「殿下ッ!」
あら、ニルがウルウルしてるよ。当たり前じゃんか! ニルは家族同然だよ。どんだけ一緒にいると思ってんだよ。
「殿下、リュカもラルクもそうなりますよ」
「ソール、リュカは違う」
「えぇ!? 殿下! 俺は違うんですか!?」
「だってリュカは同志だよ。仲間だよ、ヒマ友だよ」
「あれ? 最後が何か変です、殿下」
「変じゃないよ、リュカ」
「俺、何か複雑なんスけど。じゃあ、ラルク様はどうなんですか?」
ラルクかぁ。まだ日が浅いからなぁ。
「分かんない」
「へ?」
「だってまだ日が浅いからね。分かんない」
「アハハハ。殿下もニルに負けてませんよ。それより、もう一つご報告があります」
え?もう満腹なんだけどなぁ。
「リリ殿下、姉が婚約しました」
「アズが!? ニル、誰と!?」
「アルコース様の側近のローグ様です」
「えぇッ!!」
あれ? リュカが一緒に驚いてくれない。
「リュカ、もしかして知ってた?」
「知っていたのではなくて、気付いてました」
「マジ!?」
「はい。殿下はアウル様にゾッコンでしたから、気づかなかったのではないでしょうか?」
ゾッコンて何だよ、ゾッコンて。確かに大好きだけどさ。
「おめでとう」
「ニルさん、おめでとうございます!」
もう、ビックリしすぎて疲れちゃった。
「ニル、りんごジュースおかわりちょうだい」
「はい、殿下」
俺は全然知らなかったんだけど、ニルの姉のアズも婚約していたらしい。
アズが仕えているフィオンは王国の第2王子と婚約していたが、王国が俺を狙った事で婚約破棄していた。
アズはその第2王子の側近と婚約していたんだそうだ。
フィオンが第2王子と婚姻しても、仕える為だろうな。しかし、フィオンの婚約が白紙に戻されるのと一緒にアズの婚約も解消されていた。
俺、全然全くこれっぽっちも知らなかったよ。マジで。
俺って本当に子供扱いされてるんだなぁ、て思ったよ。ま、子供だけどさ。
しかし、貴族てやっぱ子供の頃に婚約するんだね。俺の兄弟はしてないけど。
いや、違うな。フレイもクーファルも婚約者はいた。だが、セティの調査に引っかかって爵位剥奪されたみたいな話を聞いた覚えがあるぞ。
ハッキリとは覚えてないけどさ。
これから、テュールが大変だと言う事だけは確かだな。なんせクーファルも婚約したからさ。
「殿下、お伺いしたのはご報告だけではなくて、お願いもあります」
なんだよ、また何か作らせるのか? もうないだろ。
「殿下、王国に行く前に作られていた転移玉です。クーファル殿下が転移玉を持って行きたいと仰ってまして」
ソールが説明してくれた。俺はりんごジュースを飲むけどな。ちゃんと話は聞いてるよ。
今回、調査に向かう鉱山は帝都から距離もあるし山脈に近いので、少々険しい場所にある。
調査には、鉱山の管理をしてくれている者も数名同行するらしい。次から転移玉で転移できる様にだ。
俺が作った転移玉は一度行った事がある場所にしか転移できないからな。
今後の調査はそれで楽になるが、鉱山に万が一の事が起こった場合だ。
冬だと雪に閉ざされる。そうでなくても移動は不便だ。
そこで、万が一に備えて転移玉を何個か置いてこようと言う訳だ。
まあ、いいんじゃないか? 便利で、安全になるならそれがいいよ。
「分かった。じゃあ作るから、魔石を用意してほしいな」
「殿下、お持ちしてます」
なんだよ。用意周到じゃん。
ソールは転移玉用の魔石を大量に置いて行った。こんなに作るのか? いやいや、無理だろ。と、言うか嫌だぜ? 必要か? これ。
「殿下、全部今すぐではなくて在庫にしたいと言う事です」
「ニル、本当に?」
「はい。これは本当ですよ」
じゃあ、何が嘘なんだよ。いかん、俺ちょっと今拗ねてるな。スネ◯君だよ。