303ー新しいmission
「クーファル兄さま、それで?」
「リリ、それでとは?」
「狙われて撃退したのは分かりましたけど、それが婚約にどう繋がるんですか?」
あれ? また皆に見られてる。
「リリ、それを聞くのは野暮と言うものだ」
「フレイ兄さま、分かりません。コクコクゴクン」
「リリ、あの時にミーアは身を挺して私を守ろうとしてくれたんだ」
おや、もうミーアと呼んでるのか。
「それは充分な理由にならないかい?」
あ、もうりんごジュースないぞ。俺はまたニルを見る。あらら、首を横に振られてしまった。
「リリ、もうりんごジュースは駄目だって」
「はい、フォルセ兄さま。残念です」
「リリ、聞いていたかな?」
「はい。要するにクーファル兄さまは、そんなディアの姉様を好きになったんですね」
「リリ……まあ、その。そう言う事だね」
そうか。青春だね。リア充だね。クーファルさんよぉ。
「リリ、なんか変なお顔になってるよ?」
フォルセ、変な顔って何だよ。ヒデーな。
「次はテュールだな」
「フレイ兄上、止めて下さい」
俺はまだ10歳で良かったよ。
「リリ、あなたもディアと婚約しておいても良いのよ?」
「へッ? 母さま!?」
「そうだよ、リリ。ディアちゃんは可愛いし良い子だから早く決めとかないと!」
「母さま! フォルセ兄さま! だから、ディアはお友達です!」
本当にもう、楽しんでいるだろ?
「リリ、母様は真剣よ? 私はディアちゃんが良いわ」
「母さま、ボクはまだ10歳ですよ? それに何度も言いますが、ディアはお友達です!」
この後、しばらく母にディアを推される事になった。母は本気らしい。
しかし俺はさぁ、何度も言うけどロリコンじゃねーもん。無理だわ。
クーファルの婚約に至るまでの驚きの出来事が、いつの間にか俺とディアーナの話になっていた。やめてくれ、マジで。
「父さま、リリです」
「入りなさい」
あれから母のディア推しを躱しながら、季節は初夏になった。
俺は父に呼ばれて執務室に来ている。
「リリ、季節も良いし北の方の調査を再開しようと思ってね」
父が『北の方』と言っているのは、北の山脈近くにある鉱山の事だ。
俺が7歳の時に、1番帝都に近い鉱山を王国の人間に爆破される事件があった。
幸い被害は大した事はなかった。王国へ行った際にその事件も解決済みだ。
その時に、硬い岩盤の向こうにミスリル鉱脈が見つかった。ミスリルの事と、鉱山の安全確認の為に俺は帝国にある鉱山を調査して回っている。
鉱夫達にも鉱山の危険性を教えている。
北の山脈近くにある鉱山は冬は厳しい。雪に閉ざされてしまう。鉱夫も冬は入っていない事もあって延び延びになっていた。
ミスリル鉱脈を確認できるのは、鑑定スキルを持つ俺だけだ。だから、最初は俺が行く必要がある。
その後の管理は、クーファルが視察マニュアルを作ってくれた。
そのマニュアルに沿って、点検したり改善案を出してくれたりしているので任せてある。
俺が未だに確認に行けていない鉱山は三つ。北の山脈の手前に二つと、山脈に入ってすぐの場所に一つある。
「父さま、どこから行きますか?」
「手前からで良いんじゃないかな?」
「分かりました。クーファル兄さまも同行してくれますよね?」
「もちろんだ。リリが鉱脈を確認した後はクーファルが仕切ってくれているからね」
クーファル、やっぱ頼りになるよ。俺は辺境伯領にフレイと一緒に行って痛感したよ。遠出するならクーファルがいい。
「でね、リリ。今度は少し距離もあるし険しい場所もあるから、時間が掛かると思うんだ。クーファルの予定もあるからね、1週間後に出発を予定している。そのつもりでいてほしいな」
「はい。分かりました」
「それから、ついでと言っては何だけど一度リュカの村に寄って来てはどうかな?リュカはずっと帰っていないだろう?」
おッ? マジか! それは嬉しい。後ろに控えているリュカを見ると複雑な顔をしている。
「リュカ、嫌なの?」
「いえ、殿下」
「リュカ、はっきり言いなさい」
「セティ様、本当に嫌ではないです。有難いです。ただ、うちは貴族でもありませんし、それに恥ずかしいと言うか」
「何が恥ずかしいんだ?リュカは3等騎士にも叙任されて立派になっただろう」
「そうではなく。いや……その、村の連中の反応を考えると……」
「リュカ、里帰りもしてないんだし良い機会だ。殿下と行って来なさい」
「……はい、セティ様」
「リュカ、そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
「殿下、心配はしてません」
父の執務室を出て、俺の部屋だ。ニルがりんごジュースを出してくれた。ユキも一緒に貰っている。
しかし、何度見てもユキさんのりんごジュースを入れている器がデカイ。それ、やっぱスープ皿だよな? マジでりんごジュースに見えねーよ。
「大丈夫だよ。ボクは多少の事は平気だから」
「多少で済めば良いのですが」
「え? そんなに?」
「はい。何しろ、皇族にお仕えするのは俺が初めてですから」
「ああ、そう言う事か」
狼獣人は希少だ。中でもリュカの様な純血種は特にだ。
だから、狙われてきた。その為、村の外に出る事を極力避けて来たのだろう。
そんな希少種のリュカが外に出ただけでなく、俺の従者兼護衛になり3等騎士にまでなった。
しかも、リュカは村長の息子だ。そのリュカがクーファルや俺と里帰りなんてしたら、そりゃあ村上げての騒ぎになってしまうか。
「リュカ、覚悟しておくよ」
「殿下、お願いします」
――コンコン
「失礼致します。リリアス殿下」
クーファルの側近ソールだ。何だろう?
「殿下。陛下からお話を聞かれましたか?」
「うん。今聞いてきた」
俺は、座ってと手で合図する。が、側近のソールは座らない。同じ様に手で、いいえと返事された。
「ああ、そうだ。リュカ、楽しみだな」
「ソール様まで、止めて下さい。めちゃ心配ですよ」
「まあ、どこも同じだろう?」
「そうですか? ソール様のご実家はどうですか?」
「うちはそう言う家系だからな」
「そうでした」
ソールもニルと同じで、側近や従者、侍女として仕える役目を担う専門の家系だ。
あ、そうだ。思い出した。ニルとソールて良い雰囲気の時があったけど、どうなってるんだろう?