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299ークーファルの婚約 4

 皇后様も含めて皆で城の一室に移動すると、既にナリーシア様と母が待っていた。


「待たせたかな?」

「いいえ、陛下」

 

 ナリーシア様が優雅にお辞儀をされる。母もそれに倣っている。

 第1側妃が俺の暗殺を企てて極刑に処されてからは、ナリーシア様が第1側妃で母は第2側妃だ。

 それで、母はいつもナリーシア様より一歩下がる。歳も少し上だしね。まあ、でも仲良くやっている。

 俺はフォルセと母の間に陣取って座った。クーファルが話し出す。


「前にルー様が言ってらした事だ。皆に知っておいて貰いたい」

「クーファル兄上、兄上が大変でらしたのですよね?」

「ああフォルセ。まあ、少しね」

「言って下さればお手伝いできたかも知れないのに」

「有難う、フォルセ。じゃあ次からは頼らせてもらうよ」

「クーファル兄上、本当ですよ?」

「ああ。宜しく頼むよ」

「はい、兄上。テュール兄上も、リリもだよね?」

「ああ。何でも言って下さい。兄上」

「そうです。ボクはいつも兄さまを頼っているのに、水くさいです」

「テュール、リリ。有難う。

 これから話す事は極秘事項なんだ。

 少し前になる。リリが辺境伯に行っていた頃だね。始まりはもっと前らしいのだが……」

 

 そう言って、クーファルは話し出した。

 始まりは1年程前らしい。俺がディアに頼まれて、書庫の閲覧許可を貰った頃に遡る。



 ――1年前


「初めてお目に掛かります。ディアの姉のミリアーナ・アイスクラーと申します。どうぞミーアとお呼び下さい。いつもディアがお世話になっておりますのに、今回はご無理をお聞き届け頂き有難う御座います」

「初めまして、リリです。そう硬くならないで下さい」

「リリ殿下、ご無理をお願い致しまして申し訳ありません」

「ディア、大丈夫。これ位ならボクでも平気だよ。気にしないで」

 

 そう言って、俺はディアのお姉さんのミリアーナに書庫の閲覧許可書を渡した。


「有難うございます! 嬉しいですわ」

「お役に立てたなら、ボクも嬉しいです。今から行ってみますか? 書庫の場所を知らないでしょう?」

「殿下、そこまでして頂いては申し訳ないです」

「大丈夫ですよ。ディアも一緒に行ってみない?」

「まあ、是非。お姉さま、お言葉に甘えませんか?」

「ディア、良いのかしら?」

「はい。リリ殿下、お願いします」

「うん。いいよ」

「殿下、有難うございます!」

 

 そうして、俺は二人を書庫に案内した。


 これが、約1年前の出来事だ。

 この事が、クーファルを巻き込む事件に発展しているとは、夢にも思わなかったんだ。



 

 ミーアこと、ミリアーナ・アイスクラー侯爵令嬢。

 今日も城の中を既に通い慣れた足取りで書庫にいそいそと向かっている。

 書庫の入口に着くと、侯爵令嬢に侍女らしき人物が念を押している。


「ミリアーナ様、宜しいですか? お迎えに参りますからね。その頃には出て来て下さい。時の鐘が四つ鳴ったら必ず出て来て下さいね」

「何度も言わなくても分かってるわよ」

「だってお嬢様。いつも出て来て下さらないじゃないですか」

「今日は大丈夫よ。じゃあね」

「お嬢様、約束ですよ!」


 侍女の声も気に留めず、ミリアーナは書庫に入っていく。


「今日は昨日の続きを読まなくちゃ。昨日は良い所で迎えが来ちゃったから気になって仕方なかったわ」


 侍女は連日、迎えに来ても出て来てくれないお嬢様を待っているらしい。

 ここは城の書庫だ。誰も彼もが入れる訳ではない。なので、侍女も待つしかないのだ。

 そろそろ、入口の監視員に覚えられそうだ。いや、もう既に覚えられているかも。


 令嬢はそんな侍女の心配も知らずに、嬉しそうにお目当ての本を手に夢中になっている。

 本に夢中になるのは悪い事ではない。そこが決められた閲覧室ならば問題はなかった。ミリアーナが夢中になって読んでいた場所が問題だった。

 そこは、書架の高い場所に納めてある本を取る為の脚立の上だった。


「君、そんな所で読むのは危ないよ」

「えっ? あ……えッ……!」

 

 声を掛けられ我に返った令嬢は一瞬自分がどこにいるのか分からなくなってしまった。

 バランスを崩して、脚立から落ちてしまった。


 『ああ、もう駄目』

 

 と、令嬢は床に打ち付けられる事を覚悟した。それでも本は抱えて離さない。


「おっと。私が急に声を掛けたらからだね。申し訳ない」

 

 覚悟した痛みはなく、代わりにしっかりと腕の中に抱えられていた。


「も、申し訳ありません!」

「シィ〜、ここでは静かにね」

「あ……すみません」

 

 ゆっくりとフワリと下される。


「大丈夫かな? そう高さがなかったから私でも受け止められたが、閲覧室でゆっくり読む方が良いよ?」

「はい、申し訳ありません……え? クーファル殿下……!?」


 自分を抱きとめてくれたのが、第2皇子のクーファルだと気付いた令嬢は慌てて離れて頭を下げる。


「頭を上げて。君はどこの御令嬢かな?」

「失礼致しました。アイスクラー侯爵の娘でミリアーナと申します。妹がリリアス殿下にお世話になっております」

「ああ、ディアの姉君か。そう言われてみれば、よく似ている」

 

 これが、クーファルとミリアーナの出逢いだった。




「コクン……コクン」

「リリ、それいつも持ってるの?」

「え? フォルセ兄さま、何ですか?」

「それだよ。りんごジュース?」

「はい。りんごジュースは大事」

「凄い飲んでるね」

「美味しいんです。でも、もうこれ以上飲むとニルにまた叱られるから」

「アハハ、ニルに叱られるの?」

「フォルセ兄さま。ニルは叱る時は怖いのですよ?」

「リリがりんごジュースを飲み過ぎるからでしょ?」

「そうです……」

 

 俺はりんごジュースをマジックバッグに仕舞う。


「リリ、聞いてたかな?」

「クーファル兄さま、聞いてましたよ。ベタな出逢い」

「リリ……ベタなんて」

「ベタだろ?」

 

 フレイが1票。


「ベタですね?」

 

 テュールも1票。


「うん、ベタだよね?」

 

 フォルセも1票。

 はい、兄弟全員一致でベタ決定。


「ほら、クーファル兄さま。皆ベタだと言ってます」

「クーファル、いいから先を話してくれ」

 

 フレイ、ちょっと退屈してない? フレイは知ってるもんね。そりゃ退屈だよね。


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