298ークーファルの婚約 3
「ねえ、リリは会った事あるんでしょ?」
フォルセが俺に聞く。ディアのお姉さんの事だ。
今日は顔合わせで両家揃ってのお茶会だ。俺がお茶会を開く四阿まで歩いていると後ろから追い付いてきて聞かれた。
今日のフォルセはまた一段と妖精だ。
淡い水色のフリフリ多めのシャツに、紺色地で柄がピカピカと浮き出るベスト。シャツと同系色のパンツをアミアミの白いブーツにインしている。髪を纏めているおリボンもシフォン生地でシャツと同じ水色だ。
「フォルセ兄さま、今日は一段と妖精みたいです。」
「リリ! 何言ってんの!? なんでそんな話になるのかなぁ? リリの方がずっと可愛いよー!」
フォルセに抱きつかれてしまった。フンワリと良い匂いがするぜ!
「兄さま、可愛い!」
「ヤー! リリも可愛いぃ〜!」
「なんだ? この二人は?」
あら、フレイだ。フレイは最近大人だね。オッサンになるのはまだ早いぜ?
「リリ、その目は何だ?」
「フレイ兄さま、大人ですね。フォルセ兄さまの可愛さが分からなくなるとオジサンですよ?」
「はぁ? 何訳分からん事を言ってんだ?」
「いやだね〜。ね〜、リリ」
「はい、フォルセ兄さま〜!」
「ハハハ、フレイ兄上。この二人は放っておきましょう」
「ああ、テュール。そうするわ」
「もう、貴方達何してるの? さっさと座りなさい」
あれ、皇后様に叱られちゃったよ。
「「はぁ〜い」」
「母上、クーファルはまだですか?」
「フレイ、そうね。もう来ると思うわよ?」
ここは皇后様お気に入りの四阿だ。何個かある四阿の中で、1番広くて、1番周りにお花が沢山ある。
皇后様が屋外でお茶会をされる時は大抵この四阿だ。
俺はフォルセの隣、1番末席に座る。だって1番末っ子だからな。いつも1番末席だ。気楽でいいね。
クーファルの実母が皇后様なので、今日のお茶会も皇后様が色々と差配された。
俺の母とフォルセとテュールの母は今日は出席しない。
「ねえ、リリ。会った事あるんでしょ?」
ああ、最初の質問に答えてなかったな。
「はい、フォルセ兄さま。何度かお会いしましたよ。フォルセ兄さまこそ、同級でしょう?」
「うん。だけど、あんまり覚えてないんだ。リリはどんな印象なの?」
「そうですねぇ。お優しい面倒見の良い方ですよ。ちょっと、コミュ症ですけどね」
「え? 何? コミュ症?」
「はい。ボクの母さまの逆ですね」
「え、全然意味分かんない」
俺の母みたいに物怖じしなくて誰とでも直ぐに仲良くなれる様な人を、コミュお化け。
逆にコミュ症は、初対面だとなかなか喋れなくて人見知りな感じと説明した。
「そうなの?」
「はい。でも、『症』ですから。医学的なコミュニケーション障害ではなくて、スラング的な感じです。少し話せば大丈夫ですから。人見知りのちょっとだけ酷い感じでしょうか」
「へえ〜、全然知らなかったよ。リリは賢いね〜」
フォルセが俺の頭を撫でる。
「フォルセ兄さま、やめて下さい。ボクもうそんなチビじゃないです〜」
「え〜、だってリリはずっと可愛いよ〜」
「フォルセ、こう見えてリリは強いぞ」
「え? テュール兄さま、そうなの?」
「ああ。俺の出番がなかったからな」
テュールは辺境伯領でダンジョンを攻略した時の事を言っている。
「テュール兄さま、ラスボス戦の兄さまカッコ良かったです!」
「ハハハ、有難う。楽勝だったな」
「はい。そうですね」
「えー、何? 何?」
「ほら、いらしたわよ」
はいはい。ディアーナ一家が揃ってやってきた。皇后様の声で、皆立って出迎える。
ディアーナ、久しぶりじゃん。と、思って下の方でこっそり手を振る。
あ、気付いた。ニッコリしてくれたよ。
ディアーナの前を歩いているのが兄さんかな? 俺は会うの初めてだ。
「本日はお招き頂き有難うございます」
ディアーナの父親がまず挨拶をする。
「すぐに陛下とクーファルが来ると思いますのよ。気楽になさってください」
皇后様が席を勧める。父とクーファルは何しているんだ? 遅いじゃん。
「リリアス殿下、いつもディアが仲良くして頂き有難うございます。ご迷惑などお掛けしておりませんか?」
ヒューイ・アイスクラー侯爵。ディアのお父上だ。衛生管理局局長をされている。
物腰の柔らかい、穏やかそうな人だ。ディアは父親似だな。
「いえ、侯爵。とんでもありません。いつも場を和ませてくれてます。ボクの周りは男ばかりなので」
「ディアはおっとりしている所がありますので、殿下にご迷惑をお掛けしていないか心配しておりました」
そんな話をしている時に、やっと父とクーファルがやってきた。
「すまない、待たせてしまったね」
「陛下、クーファル。遅いですわ」
「母上、申し訳ありません。
侯爵、よくいらして下さいました」
「陛下、皇后様、クーファル殿下。本日はお招き頂き有難うございます」
そして、簡単にではあるが其々自己紹介をした。
ディアの母親、エリーネ・アイスクラー侯爵夫人。ディアと同じアッシュブロンドの髪に紫の瞳の聡明そうなご婦人だ。
ディアのお姉さん、ミリアーナ・アイスクラー侯爵令嬢も同じ色味だ。
ディアとお姉さんは母親の色を貰ったんだな。でも、雰囲気や顔立ちは父親似だ。
ディアのお兄さん、スティーク・アイスクラー。父親と同じシルバーグレイの髪にブルーの瞳だが、雰囲気と顔立ちは母親似で利発そうな印象だ。
俺はディアーナと5歳の時に友達になったが、お兄さんの事は全然知らなかった。
アースの兄の一人は騎士団にいるから知っているが、他のお兄さん達は知らないし、レイの兄姉の事も知らない。
俺って、何にも知らないんだな……
顔合わせと言っても、俺なんて子供だしりんごジュース飲みながらフォルセと一緒にニコニコとしている内にお茶会は終わった。
「みな、この後いいかな?」
「クーファル、あれか?」
「はい、フレイ兄上。皆に話しておきたい事があるんだ」
以前、ルーが言っていた事だろうな。