296ークーファルの婚約 2
「贈り物って、リリ何したの?」
「フォルセ兄さま、何だと思いますか?」
「ん〜……?」
フォルセがちょこんと首を傾げて考えている。超絶可愛い。
「で、リリ。何したんだ?」
「テュール兄さま、辺境伯邸の裏庭にある光の樹に花を咲かせました」
「リリ、本当……!?」
「はい、フォルセ兄さま」
「リリアスの気持ちなのね。泣かないで、笑顔でいてと……」
俺は無言でコクコクと頷いた。皇后様の言う通りだ。笑顔でいてほしい。
俺もアウルを忘れない。大事だよ、て伝えたかったんだ。そう、思ったんだ。
ポンッと久しぶりにルーが姿を現した。
「リリ、おかえり」
「ルー、久しぶりだね」
「え? え? 白い鳥さんが喋ってるよ!? いいの!?」
あー、フォルセは初めてだったか。
と、思っているとテュールがガタッと席を立った。
「ルー様ですか!?」
「そうだよ。君はテュールかな?」
「はい! ダンジョン攻略の際に私もいたのですが、ご挨拶出来なくて申し訳ありません」
「あの時は、妖精だ何だとバタバタしていたからね。テュール、気にしなくていいよ」
「テュール兄さま、本当に!?」
「君はフォルセかな? リリから聞いてるよ、とんでもなく可愛いってさ」
「ルー様! 可愛い!」
突然、フォルセがルーを抱きしめた。
「フォルセ!」
「フォルセ兄さま!」
ビックリしたよ! マジ、ルーを抱きしめたりしたのはフォルセが初めてだ。
「フォルセ、離して……! グフッ!」
あらあら、これは家系なのかな? 可愛いものは抱きしめる。てな。ワッハッハ!
「あ……すみません。ルー様、失礼しました」
フォルセが離すと、ルーは慌てた様に俺の肩にとまった。
「ルー様、お久しぶりですわ。その節は有難うございました」
皇后様が、深くお辞儀をした。
「皇后、久しぶりだね。今回は一緒に行ったんだったね」
そっか、俺が5歳で辺境伯領に行った時は、ルーが父と皇后様と母に料理を運んでいたっけ。
「さっき、皇后が言った様に兄弟みんな仲良くて嬉しい。思わず出てきてしまったよ」
「ルー様、有難い事ですわ」
「うん。フレイ、クーファル、テュール、フォルセ、そしてリリ。良い兄弟だね。ずっと仲良くしてほしいな」
「ルー、どうしたの? また何かあるの?」
ルーが出てくる時は何かあるのかと思ってしまう。大抵そうだからさ。
「リリ、そんな事はないさ。でも、リリ。ちょっと驚いたな」
「ルー、何が?」
「花さ。咲かせただろ?」
「うん。ごめん」
「いや、謝らなくていいよ。しかし見事に咲いてたね」
鳥さんなのに、腕を組む仕草をする。鳥さんなのに。ぷぷぷ。
「ルー様、そうなのですか?」
「ああ、クーファル。前よりもだ。満開だったよ」
「そんなにですか?」
「クーファル兄上、前とは?」
「テュール、リリが3歳の時だ」
そうさ、俺が3歳の時に花を咲かせた。あれが初めてだ。
あの時は何も知らなかったし、魔力がどんな物なのかも全然知らなかった。知識も全くなかったし、魔法を使った事もなかったんだ。
ルーに言われるまま、ただ樹に魔力を流しただけだ。だが、今回は違う。
出来るだけ沢山の花をと、思いを込めて魔力を流した。
結果、一つ一つは小さくて可愛らしい花だが、満開の小さな白い花が一斉に樹々を埋め咲き乱れた。
「リリ、僕もあれ程咲いているのを見るのは初めてだよ。まさに、満開だったね」
「ルー、見てきたの?」
「見てきた。アウルが、リリがいると言って泣いていたよ。絶対に忘れないと言っていた」
ああ、止めてくれ。泣いてしまうやろぉ!
「リリ、リリもアウルが大好きなんだね」
フォルセが、俺の背中を撫でながら言う。
「はい、フォルセ兄さま。可愛くて、一生懸命で……大好きです。
離れるのが辛くて……ゔぅ」
「リリ……」
フォルセが、そっと肩を抱いてくれた。
「リリ大丈夫だ。あの子はちゃんと優しい大人になるさ。
あの子は辺境伯領に、なくてはならない子だ」
「ルー様、それはどう言う……?」
「クーファルは知らないか? ユキが言っていただろう。
あの地に愛された子だと。まあ、リリは別格だけどな」
そう言えば、ユキがそんな事言ってたな。
俺は単純にアウルがお利口すぎて怖かっただけなんだが。
止めよう。変なフラグたったら嫌だわ。
「この先、見守ってあげるといい」
「うん、ルー。分かってるよ」
言われなくても、しっかり見守るさ。
「それより、クーファル。よくやった。頑張ったな」
「ルー様、有難うございます」
「えっ? 何? 僕なんにも知らないんだけど。アウルの事も、花の事も、ルー様も初めてなんだけど!」
フォルセ、まあまあ。俺もクーファルの事は何も知らない。
でも、ルーがわざわざ出てきて、そう言うんだから、何かあったんだろうな。
「リリ、そうなんだ。僕も驚いたよ。もしクーファルが駄目ならリリを呼ぼうかと思っていたんだ。でも、クーファルは打ち勝った。クーファル、本当によくやった!」
なんだよ。焦ったいなぁ。教えてくれよ。
「リリ、またゆっくり聞くといいよ」
「クーファル兄さま、ボクにも話してくれますか?」
「ああ、リリ。聞いてくれ」
「とにかく、今は先の事を決めましょう」
皇后様、仕切るね。ちゃっちゃと決めてしまいたいのかね?
「じゃあリリ、また来るよ」
「うん。ルー、有難う」
そしてルーはポンッと消えた。
「えー、クーファル兄上。僕も教えてくださいますか?」
「フォルセ、もちろんだよ。落ち着いたら皆に聞いて欲しい」
「そうだな。知っておくべきだ」
ん? フレイは知っているんだな? そりゃそうか。この感じだと、皇后様も知っているみたいだしな。
「じゃあ、皆良いかしら? 取り敢えず顔合わせね。明後日はどうかしら?」
「母上! いくら何でも明後日は急すぎますよ?」
「クーファル、そう? じゃあ1週間後はどうかしら? 来週の今日ね。顔合わせだから、身内だけよ」
「分かりました」
「兄上、楽しみです!」
フォルセ、無邪気だぜ。バリ可愛い。