295ークーファルの婚約 1
このお話から第五章に突入です!
「えぇッ!? クーファル兄さま! いつの間に!?」
これ、俺の台詞ね。
俺達兄弟全員が、皇后様に呼ばれて四阿で優雅にティータイムだ。
俺は当然、りんごジュースタイムだ。
辺境伯領から帰ってきて1ヶ月程経った頃だ。
初夏と言うにはまだ少し早い、春の空が晴れていて陽射しが穏やかだ。
皇后様にお茶に誘われて、四阿に来てみれば兄弟全員集合だった訳だ。そこで、クーファルから電撃発表があった。
なんと婚約者が決まったそうだ。ビックリしたよ。あんなに拒絶していたのにさぁ。本当、いつの間にだよ。
な? 俺の最初の台詞、言いたくもなるだろ?
「まぁ、ね。色々とあってね」
「クーファル兄上、どこの御令嬢ですか!?」
フォルセが乗り出して聞いてるよ。うんうん。気持ちは分かるね。
俺は、スィートアップルパイ食べるけどな。激ウマだぜ! シェフ、グッジョブだぜ!
「あー、それがな。リリ、フォルセ」
「……モグ……はい?」
「二人に少し関係あるんだ」
「え? クーファル兄上、僕とリリですか?」
「ああ。リリの友人、ディアーナ嬢の姉君だ。フォルセは同級だね」
「「……ッ! えぇーーッ!!!!」」
ビックリしたぜ。マジかよ!?
思わずフォルセと2人で大声出してしまった。椅子から落ちそうになったじゃねーか。
ディアの姉さん、何度か話した事あるけど目立たない大人しい人だぜ? いや、わざと存在感を消してる様な人なんだよ。本当は美人さんなんだ。
目立ちたくないと言うより、あれは多分軽いコミュ症だな。俺の母の逆だね。
俺は妹の友達だし、まだチビだから気にせず喋ってくれてたけどさ。
ディアが言うには、ポーションや薬湯作りが趣味で、実益で……
そうだ、思い出した! ディアに頼み込まれて、城の書庫の閲覧許可をもらったんだ。
「まさか! 兄さま! 書庫ですか!?」
「リリは鋭いね」
なんだよ、なんだよー! 俺のお陰だよ? クーファルさぁ、俺に感謝しろよ? すました顔して紅茶飲んでるけどさ〜。
なんてな。そんな事はどうでも良いんだ。
「ディアが、言ってました。お姉さんが城の書庫に入り浸っていると。許可を貰ったのボクですよ?
え? 待って下さい。兄さまのお歳はいくつでした?」
「26歳だね」
「兄さま、ディアのお姉さんは?」
「18歳だね」
「「…………!!」」
フォルセと二人で手を取ってぶっ飛んでしまったじゃねーか!
クーファル、それ日本ならギリだぜ。マジで。いや、アウトか?
俺の5歳からの友人、ディアーナ・アイスクラー侯爵令嬢の姉君、ミリアーナ・アイスクラー。18歳だ。
ディアと同じアッシュブロンドの髪に紫の瞳のご令嬢。
ディアはふんわりした髪だが、姉のミリアーナはサラツヤストレートだ。
ポーションや薬湯オタクと言っても過言ではない。が、アイスクラー侯爵家が医療に特化した家系なので、何の問題もない。
父親のアイスクラー侯爵は、衛生管理局局長で医療院や薬店も経営するやり手だそうだ。
ただ、ミリアーナは人付き合いが苦手で、どうしても引きこもってしまうそうだ。軽いコミュ症。はい、2回目言いました。『コミュ障』じゃなくて『コミュ症』ね。病気ってほどじゃないんだ。スラング的な感じだよ。
だけど、良いんじゃね? 先に良く似たのが嫁に来てるじゃないか。
フレイの奥さん、薬草の研究者だ。薬草の事となると周りが見えなくなる薬草オタク。薬草オタクの次は、ポーションと薬湯オタク。
いいじゃん。もう流れが出来てるじゃん。
「私もね、何度か書庫の閲覧室で見掛けているのよ。お話した事もあってね。控え目な良い御令嬢なのよ」
ほう。皇后様ももう会ったのか。
「ちょ、ちょっと待って! クーファル兄上。僕、同じクラスだったよ!?」
マジかよ!? フォルセと同級生で同クラかよ!? だから一緒にぶっ飛んでくれたのか?
「兄さま! おめでとうございます!」
「兄上! おめでとうございます!」
「おめでとうございます」
「クーファル、おめでとう」
「フォルセ、リリ。皆ありがとう」
とにかく良かったよ。めでたいな!
「で? クーファル兄上、いつ紹介して下さるのですか?」
「フォルセ、まあ近々だな」
「クーファル、ハッキリなさい」
「母上、その……父上と母上のご都合に合わせますよ。ですので、先ずはお茶会からにして頂ければ」
「あら、そう? 夜会で発表ではなくて?」
「はい」
「皇后様、確か夜会とかは苦手であまり出た事がないと聞きましたよ」
「まあ、フォルセよく知ってるのね。そんな御令嬢がいらっしゃるのね」
「あれか、じゃあアイスクラー侯爵家の令嬢は二人共うちがもらうのか?」
フレイ、突然何を言ってんだ? 俺、マジでポカンと口を開けてしまったぜ。
隣に座っているフォルセが、体ごとグインッて俺を見たよ。
目がキラキラしてるぞ? 超可愛い。
「いや、リリもだろ? リリはずっと末の令嬢と仲が良いじゃないか?」
「フレイ兄さま、ディアはお友達ですよ?」
そうさ、みんな勘違いしているけどさ、ディアーナはお友達。
だって俺はロリコンじゃねーもん。前世の歳を考えるとさ、そうなるじゃん?
「ええー、リリそうなんだ?」
「フォルセ兄さま、違います。お友達です」
「フッ……」
「テュール兄さま、何ですか?」
テュールが、小さく息を吐いて苦笑いしながら肩を落としている。
「クーファル兄上が決まってしまったら、俺はどうやって生き延びようかと思ったんだよ」
何言ってんだ? 意味が分からん。
「リリ、あれだよ。僕はもう婚約者を決めないと公表しているからね。兄さまは一人お年頃の令嬢の餌食になっちゃうんだよ」
あぁ〜、なるほどね。
「テュール兄さま、健闘を祈ります」
「ああ、リリ。有難う……」
「フフフ……」
「母上、どうしました?」
「フレイ、幸せだと思わない?」
「今ですか?」
「ええ。みな兄弟仲が良くて。お天気も良くて。リリアスが可愛いくて」
皇后よ。最後の意味が分からないぞ?
「ああ、そうだ! リリ、贈り物はどうだったんだ?」
「フレイ兄さま、好評でしたよ? アルコース殿がお手紙くれました。ただ……」
「ただ、何だ?」
「余計にアウルが大泣きしたらしくて」
マジな……泣いてほしくないんだ。笑顔でいて欲しい。その為のギフトなんだよ。
「まあ、それは仕方ないだろ? 何もなくてもあれは大泣きコースだろ」
「そうね。もうこの世の終わりの様な顔をして涙を流していたもの」
「母上、そんなにですか?」
「クーファル、そうなのよ」
「アウルて、フィオン姉様の子供の?」
「フォルセ兄さま、そうです。もう、可愛くて」
会いたくなるじゃねーか。