293ー最後の朝
いつも読んで頂き有難う御座います!
次のお話で第四章がおしまいになります。
続けて読んで頂きたいので、次もすぐに投稿します。
こんな拙い文章を読んで頂き有難う御座います!
心から感謝致します。
「リリしゃま、ボキュわしゅれないでしゅ」
「アウル、どうしたの?」
夕食も食べて、アウルと一緒にベッドに入っている。
もう明日帰るとなると、アウルと離れ難い。
「ボキュお花さかしぇた皇子しゃま好きでしゅ。リリしゃま、会ってもっともっと好きになりました!」
「そう、有難う。ボクもアウルが好きだよ」
「ほんとでしゅか? ボキュ何もないでしゅ」
「アウルはまだ小さい。でもアウルはとってもお利口さんだよ」
「嬉しいでしゅ。リリしゃま、ピカピカのポカポカでしゅ」
「アハハ、有難う」
「リリしゃま、いなくなりしょうでちょっと怖いでしゅ」
アウルがモゾモゾと丸くなりくっついてきた。いつもの寝る体勢だ。
アウルはまだ幼児体温だ。それにもう眠いのだろう、体が温かい。
「ボクがいなくなるの?」
「あい……」
「いなくならないよ。また絶対にアウルに会いにくるからね」
「あい……やくしょく……」
寝たか……
小さいアウルの目にはこの世界はどう見えているんだろう。
小さな手。小さな足。小さな身体。
この小さな手の中に沢山の未来があるんだ。俺達は守っていかないと。
子供達が自由に選べる未来を作りたい。
なあ、初代皇帝。あんたはどんな思いでこの世界にいたんだ? この国を作ったんだ?
あんたの思いは受け継がれている。良い国だと俺は思うよ。問題がない訳じゃないがな。
あんたはこの国で生きていたんだな。俺も生きて行くよ。前世の家族を忘れる事はできないけどさ。
「……んん〜、リリしゃま」
「おきた? アウル、おはよう」
「エヘヘ、おはようごじゃいましゅ」
「さあ、起きて朝食食べよう」
「あい」
アウルと一緒に手を繋いで食堂へ行く。この辺境伯領での最後の食事だ。
アウルがいるせいか……母も一緒に来ているせいか……帰るのが寂しい。
城より辺境伯領の方が俺は自由でいられる。当然だ。城では10歳の俺にも皇子としての責任が付きまとう。皇子としての立場を思い知らされる。仕方ない事だ。分かっている。
だからこそ、この地が好きだ。
「リリ、おはよう。アウルもおはよう」
「母さま、おはようございます」
「おはようごじゃいましゅ」
「二人共、沢山食べなさいね」
「はい、母さま」
「あい」
アウルが俺の隣に座る。もう俺の隣が定位置だ。
「リリ、駄目よ。堪えなさい」
母が俺にだけ聞こえる様に声を抑えて言う。
「はい、母さま。分かってます」
俺も小さな声で答える。もう泣きそうなんだよ。駄目だ、俺。
小さいアウルが泣いてないのに俺が泣いたら駄目だ。
今は食べる事に集中しよう。でも、シェフごめん。今朝は味が分からない。
「皇后様、殿下方」
アルコースが話し出す。
「大変申し訳ないのですが、また領民達が集まってきておりまして」
「そうか。母上、構いませんか?」
「フレイ、もちろんよ。有難い事だわ」
「では、辺境伯。食事の後に挨拶しよう」
「フレイ殿下。有難うございます」
来た時の様に邸の前庭に出る階段まで出る。また沢山の領民達が集まっていた。
――あ! 出てこられた!
――フレイ殿下! カッコいい!
――リリアス殿下! また来て下さい!
――皇后さまー!
――エイルさまー!
「リリ殿下! また来いよー!!」
もう、反則だろ。ニルズ、それはないよ。我慢してるのに……泣いてまうやろぉ!
「リリ! 行くぞ!」
「え? 兄さま!?」
「オクソール、リュカ、ユキ」
「はい、フレイ殿下」
フレイは俺をヒョイと抱き上げ、ニルズの声の方へ下りて行った。
フレイの前の道を開ける様に、オクソールとユキが進む。リュカとフレイの側近デュークが後ろに続く。
「フレイ殿下! また無茶を!」
「ニルズ! お前が声をかけるからだろうが」
「おっちゃん! ゔぇ〜ッ!」
「あぁー! リリ殿下、泣くな! またいつでも来ればいいさ!」
なんて言いながら俺の頭をクシャッと撫でるニルズも涙が溜まっている。
「うん! おっちゃん! 絶対にまた来るよ! グシュ……」
「殿下、お待ちしてますね」
「テティ、元気でね。ニディにも宜しく」
「はい、有難うございます。あの子もお見送りしたがっていたのですが、漁があるので残念がってました。どうか殿下もお元気で。あまり、無茶をなさらないで下さい」
「フレイ殿下、また来て下さい!」
「ああ、ニルズ。有難う」
「オクソールさん、リュカ、ユキ、側近のにーちゃんもまた来いよ!」
「ああ、世話になった」
オクソールがニルズと握手する。
「ニルズさん、有難うございました!」
リュカがペコッと頭を下げる。
「感謝するぞ」
ユキさん、男まえー!
「有難うございます」
デュークもニルズと握手をしている。
その時、俺たちを囲んでいた人集りがまた割れた。
「母さま!」
ビックリしたよ。侍女に先導されて母がにこやかにゆっくりと優雅にこっちに歩いてきていた。後ろにニルがついていてくれる。
「ニルズとテティね。リリがお世話になったわ。有難う」
母が頭を下げた。側妃なのに、元侯爵令嬢なのに自分が必要だと判断した時は迷わず頭を下げる。俺はこんな母が好きだ。
「いや! やめて下さい!」
「エイル様! 勿体ないです!」
「息子が、お世話になったんだから当たり前よ。リリを可愛がってくれて有難う。本当に感謝しているわ。また、リリが来たら宜しくお願いね」
「はい! もちろんです!」
もう、さすが俺の母だよ。肝が座ってる。怖いもんなしだ。
フレイが周りの領民達を360度ゆっくりと見渡す。そして、片手を高く上げ声を張った。
「皆、世話になった! 有難う!
この地は素晴らしい! 豊かな食料に、豊かな資源。魔物はいるが、領主隊のお陰で安全に生活できる! この地は帝国の要だ! どうか皆、元気でいてくれ! 日々の生活を大切にしてくれ! これからも、ちょくちょくリリアスが来ると思う! また宜しく頼む! 有難う!」
――フレイ殿下!
――有難うございます!
――殿下ー!!
ああ、まさしくフレイは次期皇帝だ。