291ー大人の玉入れ
騎士団と領主隊、近衛師団チームから2名ずつ、籠を背負った隊員達が出てきた。
あ、シェフだ! 今回もシェフが籠を背負っていた。
「シェフー! 頑張ってーー!」
俺は大声で、応援する!
シェフが手を上げて応えてくれた。
「あ! あれ兄貴だ!」
アースのお兄さんが黄色のビブスをつけて籠を背負っていた。近衛師団チームに入ったんだな。
是非とも頑張ってほしい。綱引きでは近衛師団チームはダメダメだったからな。
一人二つずつ、ふわふわの球を持った隊員達が21名ずつ出てきた。
今回は3チームなので、とにかく自分の属する隊以外の籠に入れる。最後に数える時に、分別する事にしたらしい。
領主隊が赤、騎士団が青色、近衛師団が黄色だ。
籠を背負った隊員だけ立っていて、後の隊員はしゃがんでいる。
「リリしゃま、何してるでしゅか?」
「あの背負っている籠に球を入れる人は必ず片膝をついて、しゃがんでスタートするんだよ」
「リリ殿下、何分入れられるのですか?」
「レイ、3分だよ。昔は5分だったんだって。でも5分だと、騎士団は皆入れてしまうらしいよ。それで何年か前から3分にしたんだって」
「騎士団スゲー! 俺絶対入る!」
アハハハ。アース、頑張れ。ヘッポコだけどな。フハハ、また言ってしまった。
審判のアスラールが前に出てきた。片手に旗を持っている。
アルコースがチビちゃん2人についてるから、ずっとアスラールが審判だ。
「片膝をつけているかー!?」
――おぉー!!!!
「Ready……」
アスラールが旗を上げた。
隊員達が、じっと目当ての籠を見る。
「go!!」
アスラールが勢いよく旗を振り下げ、直ぐに離れる。
籠を背負った隊員達が、逃げまくる。
その籠を目掛けて、球を投げる隊員達。
「殿下、これってユキと追いかけっこしてた時みたいですね」
「レイ、本当だね。それも考えてたのかなぁ?」
「リリ、そんな事考えている訳ないじゃない」
母よ、本当に酷い……
「アースのお兄さん、身軽だね!」
「殿下。俺、兄貴があんなに動けるなんて知らなかった!」
「アハハハ、そうなんだ。流石、騎士団だね」
「ちょっと見方変わってしまうな」
アースのお兄さんが、屈んだりジャンプしたりして軽く躱している。なかなか玉が入らない。
シェフは相変わらずだ。ハイッ! ホイッ! とかけ声を掛けながらヒョイヒョイと軽く玉を避けている。まるで後ろが見えているみたいだ。
「さすが、シェフね。あれじゃあ、入れようがないわ」
母が褒めたよ。ツンの母が!
「シェフて、本当に凄いんだ」
「な、レイ。あの身のこなしな」
「ああ、アース」
そっか。2人はシェフが実際に討伐してるのとか知らないもんな。
「二人は討伐に出てる時のシェフを見たらびっくりするだろうな」
「え、殿下そんなにですか?」
「うん、レイ。シェフは超強いよ」
――ピピーー!!
「アウル、アーシャ、行こう!」
「あい!」
「え? リリ殿下!」
俺はアウルとアーシャの手を取って中央へ急ぐ。アウルとアーシャが一生懸命トテトテと走る。可愛いぜ!
アルコースが分別して待っていてくれた。
「数えますか? 覚えてますか?」
もちろんだ! 覚えてるさ!
――リリアス殿下!
――あー! アウルース様とアンシャーリ様だ!
――かわいー!
見学の領民達から声があがる。
「殿下、殿下! これに乗って下さい! 殿下、小さいから!」
リュカが台を持って走ってきて、また余計な事を言った。ニヤニヤしている。
アハハハ! 絶対にわざとだよな? リュカも覚えているんだ!
アスラールとアルコースとリュカが籠を持ってスタンバッている。
「アーシャ、おいで! 一緒に玉を投げよう!」
「はい! お父さま!」
アンシャーリが籠を持っているアスラールの横に行ってスタンバイする。
俺はピョンと台に乗った。アウルも台に乗せて手を繋ぐ。
「いい? 数を数えるんだよ? できるかな?」
「あー、ありぇ?」
「アウル、分からなかったらボクの真似して。一緒に此処にいれば良いよ」
「あい!」
「いきまーす! いーち!」
「ち!」
「にー!」
「にー!」
「さーん!」
「しゃーん!」
俺が数えるのに合わせて、球が上に投げられる。アウルも一緒に数える。ま、アウルは分かってないけどな。合いの手みたいなのがアウルだ。
アーシャが上手に玉をポーンと上に投げている。
「……さんじゅう!」
「じゅー!」
「さんじゅういち!」
「いちー!」
ここで、領主隊の球が無くなった。
「さんじゅうにー!」
「にー!」
「さんじゅうさーん!」
「しゃーん!」
近衛師団の玉が無くなった。
「さんじゅうよーん!」
「よーん!」
「さんじゅうごー!」
「ごー!」
「さんじゅうろーく!」
「りょーく!」
「さんじゅうなーな!」
「ななー!」
ここで騎士団の球も無くなった。
「37対33対31で、騎士団の勝ちー!!」
「かちー!!」
俺とアウルが大きな声で告げる!
「アハハハ! 領主隊はまだまだだな!」
フレイ、上機嫌だぜ!
さあ、最終決戦だ!
領主隊は、両手首に赤色の紙風船をつけ、赤の棒。
騎士団は、両手首に青色の紙風船をつけ、青の棒。
近衛師団騎士団混合チームは、両手首に黄色の紙風船をつけ、黄色の棒。黄色のビブスもつけている。
ちなみにこの色分け、各隊のトップの瞳の色で決めているらしい。何故かこの世界は髪や瞳の色をよく使う。
近衛師団団長ティーガルは黄褐色の瞳だから黄色。領主隊は何故か赤。騎士団はフレイがスカイブルーの瞳だから青。クーファルだと碧。テュールだと紺青色の瞳で青。
俺は全く気にしないが、俺の洋服や持ち物にも瞳の色の翡翠色や、髪の色のグリーンブロンドがよく使われている。なんでも良いじゃんかと俺は思ってしまうねー。元地味なおっさんだからかな。
さて、次は前庭に描かれている、テニスコート位の大きさの長方形に其々のチームに分かれてうつ伏せの状態からスタートだ。
「リリしゃま、何しゅるでしゅか?」
俺達はまたテントに戻り観戦だ。アウルとアーシャが不思議そうに見ている。
「隊員の手首に紙風船つけてるでしょ? あれをね、棒で叩いて割るんだよ」
「痛くないのですか?」
「アーシャ、あの棒は痛くない様に作ってあるんだ。叩いた時の音が違うよ」
「へぇ〜、面白そう」
「アースも騎士団に入ったら対戦するんだろうね」
「リリ殿下! 俺負けないぜ!」
アース、先に騎士団に入らないとな。ワハハハ!
審判のアスラールが前に出る。
「分かっているな、顔や頭を殴るのは反則だからな!」
――おうっ!!!!
「Ready……」
アスラールが旗を上げた。
騎士団も領主隊も近衛師団も、全員うつ伏せだ。
「go!!」
アスラールが勢いよく旗を振り下げた。
同時に、うつ伏せだった隊員達が一斉にガバッと起きて走り出した。
――パフン! パフン! パフパフーン!
これは、隊員達が棒で手首に着けている紙風船を狙って叩いた音だ。
「アハハハ。この音、気が抜けちゃう」
「いや、リリ殿下。めちゃくちゃはえーよ!」
アースが隊員達の動きを見て感心している。
「殿下、これは全員の紙風船が破られたら終わりですか?」
「レイ違うよ。10分間だ。破られずに何人残っているかなんだ」
「えー、じゃあ近衛師団ヤベーじゃん」
「アース、またお前言葉遣いだよ」
「あ? ああ。レイ、ごめん」
あら、アース。今日は素直だね。