290ー対戦開始
「リリしゃま、リリしゃま。おじーしゃまでしゅ!」
アラウィンが、前に出てきてこの場にいる皆に始まりを宣言する。
後ろにアスラールがいる。次期様だな。
アラウィンの始まりの挨拶が終わると縄が出された。さて、領主隊は今回勝てるかな?
「殿下、今までの成績はどうなんですか?」
「レイ、びっくりするよ? なんと、騎士団は負け知らずなんだよ」
「スゲー! 兄貴スゲーんだな!」
アース、正確にはお兄さんが所属している騎士団が凄いんだよ。言わないけどな。
「当然だわ。騎士団は帝国中の兵達の頂点ですからね」
「でも、母さま。今回は近衛師団がいますよ」
「あら、リリ。近衛師団て騎士団ほど脳筋じゃないわよ?」
そうなのか!? 母が言うには、騎士団は入隊試験をパスすれば平民でも入隊可能だ。
しかし、その入隊試験にパスする事がとんでもなく難関らしい。
近衛師団は皇帝と皇后の護衛を任務としている。だから、貴族のご子息しか入隊できない。もちろん、入隊試験はあるので簡単に入隊出来るものではないし、身辺調査もされる。そして全員がアカデミー卒だ。流石、貴族だよ。
が、腕っ節が最優先の騎士団に比べると、お上品なんだそうだ。
「母さま、でも近衛師団にも獣人の隊員がいますよ」
「そうよ、それよ。どれだけその2人の力が影響するかだと思うわ」
あら、母よ。結構詳しいね。
「僕はオクソール様とリュカさんしか知りませんでした」
「レイ様、騎士団にも近衛師団にも何人かおられますよ。」
「そうなの? ラルク詳しいね」
「殿下をお守りする為の情報は全て覚えてます。もちろん、ニル様もです」
「え、ニルも?」
俺は後ろに控えているニルを見る。当然じゃないか? て、顔してるよ。
ニル、久しぶりに出たね。天然がさ。
「母さま、ニルは昔からあんな感じですか?」
ニルが、エッ!? て、顔してるよ。
「そうなのよ、リリ。あの子、急に天然になったりするでしょう? あれは治らないわね」
あー、母も思っていたんだな。やっぱりな。
さあ、綱引きが始まるぞ。
スターター兼審判はアスラールだ。
長い太いロープが用意されていて、ロープの真ん中に旗がつけられている。
まず1回目の対戦だ。
騎士団23名、領主隊23名がロープを挟んで向かい合わせに定位置につく。
オクソールとリュカが1番最後尾だ。
今回は人数の関係で、騎士団23名vs領主隊23名。近衛師団と騎士団の混合チーム23名vs領主隊23名で対戦する。
「Ready……」
アスラールが旗を上げた。
隊員達が真剣な顔でロープを掴む。見物人までシーンとしている。みんなマジだぜ。
「go!!」
アスラールが勢いよく旗を振り下ろし、直ぐに離れる。
「「「「せーーのッ! せーのッ! せーのッ!」」」」
騎士団も領主隊も同時にロープを引きだした。が、最初は耐えていただけだったオクソールとリュカが、タイミングを合わせて綱を引き出すと真ん中につけられた旗が、あっけなく騎士団の方へ倒れた。
「ピピー!!」
アスラールの笛が鳴り響く。
「騎士団の勝利!!」
やっぱ、オクソールとリュカは強いよ。マジ反則ものだよ。
「え!? 殿下、もう終わり!?」
「うん、アース。騎士団の方が全然強かったね」
オクソールと、リュカがいると毎回こんなだけどな。
綱が整えられて、隊員達が入れ替わる。
今度は近衛師団と騎士団の混合チーム23名vs領主隊23名だ。
「母さま、どっちが勝つと思いますか?」
「領主隊ね。楽勝だと思うわ」
えッ!? マジかよ!? そんな感じなのか!?
「力だと領主隊だわ」
なるほど〜。
「リリしゃま、オキュとリュカはおしまいでしゅか?」
「アウル、オクとリュカは勝ったからもう1回あるよ」
「勝った!」
「アウル、そうだよ」
「リリ殿下、領主隊は弱いのですか?」
「アーシャ、そうじゃない。オクとリュカが強いんだよ」
「スゴイです!」
「Ready……」
アスラールが旗を上げた。
「go!!」
アスラールが勢いよく旗を振り下ろし、直ぐに離れる。
「「「「せーーのッ! せーのッ! せーのッ!」」」」
混合チームも領主隊も同時にロープを引きだした。
あれッ!? あれれッ!?
「ピピー!!」
アスラールの笛が鳴り響く。
「領主隊の勝利!!」
マジかよ……
「ね、リリ。母様の予想通りでしょう?」
「はい、母さま。驚きました」
そうさ、近衛師団が全然駄目だった。
綱の中央寄りに近衛師団、次に騎士団。そして最後尾に近衛師団団長と騎士団団長が綱を持っていた。
両方が引き始めた途端に、中央寄りの近衛師団隊員がズルズルと引っ張られてしまった。
必死で後半の騎士団と団長2人が耐えたものの、敢え無く惨敗て訳だ。
「近衛師団てね、公の行事等で護衛する事も多いでしょう? もちろん剣の腕は確かだし強いんだけど、腕っ節となるとね。それよりも見掛けなのよ」
なるほど。スマートな隊員が多いとは思ったんだ。
さあ、決勝戦だ。
騎士団と領主隊が出てきた。
オクソールとリュカがいるからな。負けらんないぜ。
アスラールが合図をする。
「Ready……go!!」
「「「「せーーのッ! せーのッ! せーのッ!」」」」
領主隊が力一杯ロープを引いている。
あれま、オクソールとリュカが余裕じゃん。
2人は最後尾で綱を持っていた。そう、『持って』いたんだ。引っ張る訳ではなく、耐えている様子もない。
2人の前にいるフレイやシェフ、隊員達も必死さがない。平気な顔をしている。領主隊は力一杯引いてるんだぜ?
そして、2人が引っ張り出すと瞬く間に決着がついた。
当然、騎士団が勝ったよ。楽勝じゃんか。これは、2人だけじゃなくて騎士団が皆強いんだな。
「騎士団の勝利!!」
「駄目ね。力の差がありすぎるわね」
母は厳しい……
「騎士団すごい!」
アンシャーリの目がまたハートになってるよ。この子は惚れっぽいのか?
「殿下、アーシャはこんな感じですよ」
アルコースが苦笑いだ。
「リリしゃま! リュカ勝った?」
「アウル、リュカ勝ったよ。凄いね」
「リュカー! しゅごいー!」
アハハハ! アウル、すっかりリュカに懐いてるよ。
「リリー!! 見たかー!!」
はいはい、フレイさん。見てましたよ。
俺は、フレイに手を振る。
次は玉入れだな。追いかけながらの玉入れだ。これは力は関係ないから良い勝負をしてほしいね、近衛師団よ。