29ー親子
「……ふわぁ……」
「殿下、おはよう御座います」
「ニリュ、おはよう」
「お食事になさいますか?」
「……うん」
そうして俺はベッドから降り顔を洗い、ニルに手伝ってもらいながら着替えをして、テーブルにつく。
昨夜、襲撃があったのにも関わらず、平常運転だ。俺の部屋は変わったけどね。
「シェフー! おはよう!」
「はい! 殿下、おはよう御座います! 今朝はスコーンとふわふわオムレツです!」
シェフも平常運転だ。リュカより強いらしいが。
「いたりゃきます」
まだしっかり頭が起きてないんだよ。普段以上に喋れてないのは、可愛さと言う事で許してもらおう。
「……おいひぃ〜! オムレチュ、ふわっふわら!」
うん、喋れてねーな。寝起きだしな。焼きたてスコーンも美味いな! ちょっとだけふわふわオムレツをのせてみよう。
「有難うございます!」
「シェフ天才!」
オムレツをのせたスコーンをお口いっぱいに頬張ってしまふ。ウマウマじゃん。
「殿下! 勿体ないお言葉です!」
「そうだ、シェフはリュカより強いんだってね?」
「おや、誰がその様な事を?」
「昨夜、リュカが言ってた。」
「リュカはまだまだですから。この邸にはリュカより強い者は他にもおりますよ」
「ん……そうなの!?」
「はい! 私は普通です!」
「普通なの……?」
「はい! 普通です!」
「じゃあ強いのは誰?」
「それは勿論、オクソール様です」
あー、そうだよなー。あいつ身のこなしが違うからな。
「オクね……」
「ニル様もお強いですよ!」
「……んんっ……!!」
ビックリした! 喉が詰まったじゃねーか。
「殿下、りんごジュースです」
「はぁ……有難う。ニリュ強いの!?」
「いえ、私も普通です。父の足元にも及びません」
ん? 誰だ? 父? お父さん?
「……ニリュのとーさまて誰?」
………………?
「殿下、ご存知ないのですか?」
「シェフ知ってるの?」
「皆知ってますよ。陛下の側近のセティ様です」
「え……!? ボク、知りゃなかった!」
「そうですか、よく似てらっしゃるでしょう?」
そう言われてみればそうだ。黒髪も金眼も雰囲気も、そっくりだ。
俺、黒髪好きよ。落ち着くからね。
「……本当だ……似てりゅ。ニリュ、何で教えてくりぇなかったの?」
「何でと言われましても…… 強いて言えば、関係ないからでしょうか?」
「関係ない!? そんな訳ないじゃん!」
「そうですか? 父は父。私は私ですので。」
まあ、そうだけどさ。
「なんかやだ…… 」
「殿下?」
「ボクだけ知りゃなかったのが、やだ」
「殿下、申し訳ありません。そんな大した事ではありませんので」
「もういいよ。ニリュてそーゆーとこありゅよね」
「はい、そうですね」
シェフと二人でジトッとニルを見る。
「え? えっ? そうですか? 分かりませんが?」
「……ングング……ごちそうさま。シェフ、今朝も美味しかった! ありがとう!」
「殿下! はい! 有難うございます!」
「ニリュ、りんごジュースちょうだい」
「はい、殿下」
シェフはいつもの様にワゴンを押して出て行った。今日もあのワゴンを持ち上げて来たんだろうな。意味わかんねーや。
俺はりんごジュースを飲んでソファに座る。
「ねえ、ニリュ。このお邸の人達はボクに仕えてくりぇてりゅんだよね?」
「はい、そうですよ。若干の者はこのお邸の管理を任された者達ですが。今は大半の者が殿下のお付きになります」
「皆強いの?」
「そうですね。皇族の方に付く者は皆、専門の訓練を受けておりますから、そこそこ強いですね」
「リェピオスも?」
「はい、強いです。攻撃魔法が使えますから」
「ふぅーん…… 」
そっか、レピオスも強いのか。
「殿下、どうされました?」
「ボクだけが弱い……」
「殿下、何を仰ってるんですか」
「だってボクまだ剣持てないし、まだ3歳だし」
「殿下、魔法で殿下より強い者はいないと思いますよ」
なんだってー! マジか!? 俺そんなに魔法使えんのか!?
「ニリュ、嘘だぁ」
「本当ですよ。魔法なら殿下は誰よりもお強いです」
「本当に……?」
「はい。ただ殿下は使い慣れておられないだけです。昨夜のライトバインドも素晴らしかったです」
「エヘヘ」
「それに殿下は無詠唱なんですね? 普通はそう出来る事ではありませんよ」
「エヘヘへ…… 」
まさか、『ら行』の呪いで口に出すと魔法が発動しないなんて言えない。
ま、俺が勝手に呪いとか言ってるだけだけどな。単純に言葉が少し遅いだけだ。
――コンコン
「殿下、おはよう御座います」
「オク、おはよう」
「殿下、昨夜の侵入者ですが」
「うん、何か分かったの?」
「いえ、実は隷属の魔道具を装着されておりまして、話を聞き出す事ができません」
なんだ? それは? 何か嫌なワードだな。
「何そりぇ?」
「胸の所に、隷属の魔道具を装着されております。帝国にはある筈のない魔道具です。禁止された事を話そうとすると、内側に針が出てきて心臓まで突き刺さる様になっております。刺されば勿論死亡します」
「怖ッ! 何そりぇ! 外せないの?」
「はい、レピオス殿がやってみたのですが、無理でした」
「るーは? るーは何処にいるの? ボクを守りゅとか言っていつもいないよ?」
「その……実はルー様は別の調べ物をされていて」
なんだそりゃ!? 俺は全然知らないぞ!