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289/442

289ー母よ……

 その日は朝から大騒ぎだった。

 朝食を食べて邸の前庭に出るともう皆が集まっていた。領主隊達、騎士団、近衛師団だけじゃなく、領民まで集まっている。


「殿下! おはようございます!」


 リュカがいち早く俺を見つけて走ってくる。


「リュカ、早いね。もう始めるの?」

「もうすぐですよ。殿下方はあちらのテントにいらして下さい」

「うん、分かった」


 リュカが指差した所に以前も設置してあった、よく運動会で見る様な大型のテントが設置してある。


「リリ殿下?」

「リリしゃま?」


 アウルースとアンシャーリが両側から俺の手を握っている。あれ、いつもより人が多いから少し怖いか?


「アーシャ、アウル、大丈夫だよ。みんな見に来ているんだ」

「リリ殿下、凄い人ですが。どんな事をするのですか?」

「あれ? ラルク聞いてない? もしかしてみんなも?」


 アウルースとアンシャーリが頷く。アースとレイまで。何でだよ。今までそれっぽい事を言ってなかったか?

 ま、先にテントまで行こうか。

 リュカが先導してくれる。とりあえず、テントの下に座って落ち着こう。


「騎士団が遠征した時に、騎士団vs領主隊の3種競技大会をするんだ。初代皇帝がやり始めたらしくて名物になってるんだよ」


 俺はラルク達に説明した。


 まず一つ目が、綱引き。

 普通に綱引きだ。ただし、前世で使っている綱より太い。


 二つ目。玉入れ。

 騎士団と領主隊から、各2名が玉を入れる籠を背負って逃げる。

 それを玉を2個ずつ持った、残りの隊員達が追いかけながら玉を相手の籠に入れる。要するに追いかけっこしながら、玉を入れる。


 三つ目。紙風船割り。

 フワフワした剣の様な物で、相手の両手首につけた紙風船を割る。


「スゲー! 俺もやりたい!」


 アースはそう言うと思ったよ。将来、騎士団に入ってからやりな。今はヘッポコだからな。プププ。


「ねえ、リュカ。近衛師団は人数少ないでしょ? どうするの?」

「そうなんですよ」


 オクソールとリュカ、シェフは騎士団から外せないらしい。だって勝ちにいってるからな。

 そして第1騎士団はフレイだ。当然、フレイと側近のデュークも参加だ。これで騎士団チームは35名。

 近衛師団団長ティーガル・オークランスも参加だ。

 近衛師団は団長が参加しても11人しかいない。そこで、騎士団でくじ引きをしたそうだ。

 騎士団から12名の隊員が近衛師団チームに入る。

 その数にあわせて領主隊も選抜済みらしい。きっと昨日からやっていたんだぜ。

 皆其々の隊の鍛練着を着ている。騎士団から近衛師団チームに入る者は分からなくなってしまう。

 そこで、近衛師団チームは皆お揃いのビブスを着る。よくスポーツで間違えない様にユニフォームの上から着るベストのような形のウェアだ。

 騎士団から近衛師団チームに入る時はこのビブスを着る。


 本当によく準備したよ。昨日も港から帰ってきてちょっと驚いたからね。

 もう既に邸の前庭に区割りがしてあったからさ。

 


「まあ、凄い盛大にするのね」

「母さま!」


 母が優雅にやってきたよ。ユキもニルも一緒にいる。

 もしかして、母は此処で観戦するつもりなのか? と、ニルを見ると諦めた顔で首を振る。

 ああ、一応説得はしてくれたんだな。母は言い出したら聞かないからなぁ。


「母さま、まさか此処で見るのですか?」

「あら、リリ勿論よ。近くで見ないと意味がないわ」


 そう言いながら、さっさと俺の横に座っているアウルを挟んで座る。


「アウルもアーシャも可愛いわね。お膝に乗せたい位だわ」


 そう言ってアウルの頭を撫でている。いや、母よ。今はそんな話じゃないんだ。後ろにいる母の侍女を見ると、ニルと同じ顔をしている。

 皇后様とフィオンはどうしてるんだ?


「殿下、彼方に」


 ニルが示す邸の方を見ると、窓から皆見ている。

 そうだよな、そうだよ。何で母だけ此処なんだよ。


「リリ、諦めろ。皆説得したが無駄だった」


 ユキさん、そうなの?


「ユキ悪いけど、もしボールが飛んできたりしたらお願い。母さまの前に伏せていてくれる?」

「ああ、分かった」


 そう言ってユキが母の足元に寝そべる。


「まあ、ユキ。ありがとう」


 本当に、母よ。お転婆はもう卒業しようぜ。


「殿下の母君らしい」


 え、レイ。今何て言った?


「だって、殿下も大胆なとこありますから。肝が座っていると言うか」

「あー、分かる分かる」


 なんだよ、レイもアースも。俺は普通さ。むしろ怖がりだからな。


「エイル様! 本当に此方で見られるのですか!?」


 アスラールが走ってきたよ。そりゃそうだ。


「ええ、アスラール殿。大丈夫ですわよ。リリもユキもいますから」

「しかし……」

「アスラ殿、すみません。ボク見てますから」

「リリアス殿下、宜しいのですか?」

「はい。母さまは聞きませんから」

「まあ、リリ。酷いわ」

「私もお側にいる様にしますよ」


 アルコースがやってきた。


「チビ2人もいますからね」

「アルコース、頼んだ」

「母さま、迷惑かけてますよ」

「リリ、ごめんなさい。だって……」


 だってじゃねーよ。


「母さま、ここから動かないで下さいね。まさか、物が飛んで来る事はないと思いますが」

「ええ、リリ。分かったわ。母さま、大人しくしているわ」


 邸の中で大人しくしていて欲しかったよねー。


 ――見ろよ! あれ、エイル様じゃないか?

 ――本当だ! リリ殿下と一緒に観戦されるんだ。

 ――お綺麗ねー!

 ――お二人並ばれると良く似ていらっしゃる!

 ――エイル様ー!


 あらら、なんか良い感触じゃね? 母って人気あるんだね。知らなかったよ。

 母が他所行きの笑顔で軽く手を振っている。こうしてたら、侯爵令嬢なんだけどね。


「殿下、エイル様はリリ殿下の母君ですから」

「え? レイ。どう言う事?」

「帝国中が待ち望んだ光属性の皇子殿下をお産みになられた母君、て事です」


 マジかよ!? ちょっと待てよ。俺ってそんな感じなの!?


「殿下、何驚いているんですか? 殿下はご自覚がないみたいですけど」


 ラルクまで! マジか!? だって俺はそんな扱いされてねーよ。

 やれ辺境伯領に行けー、やれ鉱山に行けー、王国に行くぞー、て行かされてるよ?

 その上、あれ作れー、これも作れー、てさ。まるで町の便利屋さんだぜ?


「リリ、それは陛下の性格ね。諦めなさい」

「母さま、ボク何も言ってないです」

「リリは顔を見ていたら分かるわ」


 はぁ〜、また言われた。そうか、俺は顔に出るのか。


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