286ーおっちゃん
「ん〜……」
「殿下、おはよう御座います」
「ニル、おはよう。ニル寝てないんじゃない?」
「いえ、ちゃんと寝ましたよ」
「えー、本当に?」
「はい」
俺はベッドからおりる。ニルは一体いつ寝ているんだろう?
「ニル、今何時?」
「もう直ぐお昼です」
「え? ボクそんなに寝てたの?」
「はい。エイル様から聞きました。長い時間魔力を使われていたとか。そのせいではないかと」
「そうなの?」
「はい」
知らなかったぜ。マジか。
「殿下は、魔力量が多いので普段はそんな事ないでしょうが」
「そうなんだ」
「りんごジュースをどうぞ」
「有難う……コクンコクン……あ〜、美味しい」
「フフフ」
「だって、美味しいんだよ」
「はい、殿下」
ニルに微笑まれたよ。生温かい目でさ。
――コンコン
誰だろ? ニルがドアを開けて確認する。
「殿下、お目覚めでしたか」
「デューク、うん。どうしたの?」
フレイの側近デュークが部屋に入ってきた。
「昨夜はお疲れ様でした。辺境伯様が改めてお礼を申したいと言っておられました。
それで殿下、お戻りのご予定なのですが」
「ああ、そうだ。今日帰る予定だったんだよね?」
「はい。フレイ殿下が明後日に延ばそうと仰っていますが」
「そうなの?」
「はい。あの殿下、例の恒例の」
「ああ、あれね。するつもりなんだ?」
「はい。しかし、今回は遠征ではなくリリアス殿下のお休みなので」
ああ、そうか。俺はどっちでもいいよ。気にしないよ。
「リリアス殿下……」
「うん。兄さま言い出したら聞かないし。ボクは気にしないよ。全然構わないよ」
「有難うございます」
いいよ、いいよ。全然いいよ。
て言うか、領主隊や騎士団に近衛師団はどうなんだろ?
「ああ、ご心配はいりません。皆、ヤル気です」
「なんだ、そうなんだ」
じゃあ余計に俺は何も言わないさ。
て、事で明後日帰る事になった。
きっと明日は恒例の対戦だよ。いいけどさ。本当、みんな脳筋だよね。
俺は、朝食兼昼食を食べに食堂にきた。
「リリしゃま!」
「アウル、おはよう」
「リリしゃま。お昼でしゅ」
「ああ、そうだった」
ハハハ、さっきまで寝てたからさ。
俺の隣がアウルースで固定になっていて、もう既に座っている。
「リリしゃま、赤しゃん見ました!」
「そう! かわいいでしょ?」
「あい! ちいしゃいでしゅ!」
「ねー、アウルより小さいね」
「あい! にーしゃまでしゅ!」
「ん? ああ、アウルはお兄さんだね」
「あい! かわいーかわいーしましゅ!」
「そうだね。可愛がってあげてね!」
「あい!」
シェフが料理を出してくれる。
「パスタに致しました。殿下、食べられますか?」
「うん! 食べるよ。お腹すいちゃった」
アイシャの出産の事で、アラウィンにえらく感謝されてしまった。
「産婆が驚いてました。どうやっても逆子が戻せなかったのにと」
うん、あれは少し大変だったよ。少しずつゆっくりと戻したからな。まだ、この世界では帝王切開てないしさぁ。
でも、上手くいって良かった。無事に産まれて良かったよ。
母がずっとついていてくれたのも、逆子だった事が大きいんだと思う。
もし、戻せなくて足から出産なんて事になったら、大量に出血していたかも知れない。そうなったら命に関わる。赤ちゃんだって危険だったかも。きっと難産になっていただろう。
母は、その危険性を考慮してくれていたんだろうと思う。母も回復魔法を使えるからな。
なのに、そんな事は一言も言わず、ずっとアイシャを励ましてくれていた。
母は冷静に対処してくれた。それにあの度胸だよ。本当、凄い侯爵令嬢だよ。
「やだわ、リリ。なあに? ジッと見て」
「いえ。母さまは凄いなと思ってました」
「何かしら? やだ、気持ち悪いわ」
ハハハ、気持ち悪いて言われちゃったよ。
「まあ! アウル、どんな食べ方したの? お顔がベトベトじゃない!」
「エヘヘへ」
アハハハ! アウルースのほっぺも鼻の頭までもベトベトだ。フィオンに顔を拭かれている。
「アウル、美味しい?」
「あい! リリしゃま! おいしいでしゅ!」
「そうか! アーシャは?」
「美味しいです!」
アンシャーリは上手に食べてるな。
今日はアウルースとアンシャーリとずっと遊ぼう!
「よう! リリ殿下!」
俺達はまたニルズに会いに港に来ている。今日は、船にのる予定はないのでアウルースもアンシャーリも一緒だ。
「アウル、アーシャ、おっちゃんだよ」
「おっしゃん!」
「え? リリ殿下、おじ様ではないのですか?」
「うん、アーシャ。おっちゃん」
「お、おっちゃん!?」
「そうそう!」
「リリ殿下、何教えてんだよ! おっちゃんを広めようとしてねーか?」
ブホホホ、バレたか!
「こんにちは、私はテティと言います」
「て、ててー」
アウルース、言えてねーよ。
「あら、難しいかしら?」
「こんにちは、アーシャです!」
「まあ、お利口さんね!」
「お船いっぱいでしゅ!」
「ああ、そうだろ? もう少し大きくなったら乗せてやるよ!」
「あい!」
皆で港を歩いて行く。港の向こうの浜辺に向かう。
アースとレイ、ラルクがキョロキョロしている。興味津々だ。
「殿下、あの大きなのが先日の魔石ですか?」
ラルクが魔石が並べてあるのを見て聞いてきた。
「そうだよ。ブルーホールの底に沢山あるんだ」
「リリ殿下、ブルーホールて何ですか?」
おや、レイもまだ知らないか。
「ブルーホールってね、ほらあそこ。珊瑚礁が見える? あそこにね、浅瀬が陥没しているところがあって、そこだけ穴の様に深くて海の色が違うんだ」
浅瀬に白っぽい珊瑚礁が見えている所を指差しながら、軽くブルーホールを説明する。
しかし、本当に大きな魔石だな。
「おっちゃん、魔石大きいね」
「ああ、そうだろ? ニディが潜るのが得意な奴を集めて潜ってるんだ。1時間だけとか時間を決めてるみたいだぜ。そう慌ててとる必要ないしな」
「うん、そうだね。安全が1番だからね」
限りある資源だしね。安全にゆっくりが良いよ。